floor.1 -1 (& To be continued…)

 ゴウン、ゴウン、というエレベーターの上昇音がガタンと止まり、重く頑丈そうな扉がゆっくりと開く。


【floor.1】

【time limit : 300min】

【パートナー:ブルース】

【空腹メーター:98%】



『さぁ! ごきげんな"ランチタイム"の始まりだヨ☆』


 扉の開放と共に一気に水が外に躍り出る。その流れに乗って外に飛び出せば、なるほどその先も幾筋にも別れた水路が連なっていた。だがここで、不可解なのは先ほどとは異なるゴテゴテしたネオンカラーの装飾や電飾、そしてパステルカラーの文字が溢れるフロアの様相であった。ところどころ壊れたような看板が下がっており、そこには【Food area】と書かれている。


 ざぶん、とブルースが泳ぎ出す。水の流れは緩く奥の方へと引き込まれるかのように波を作っていて、後戻りはできないシステムのようだ。

 前方から流れてきたボックスを拾うと、「アイテム」というラベルが貼ってある。蓋を開けるとそこには二丁の大きめな水鉄砲のようなものが入っていた。巨大タンクを背負う構造になっており、ジョージは急いでそれを装着する。


「これで戦えっていうのか?」


 水圧の確認や舌打ちをする間も無く、ピンポーン! というどこか間の抜けた音が辺りに響き渡った。

 誰かいるのか!? そう叫ぼうとして、ハッと口を噤む。


『ヒャッハァア!!』


 完全にあらぬ方向を向いた目玉を剥き出しにした、巨大なハンバーガーがそこにいる。まるでパッ◯マンかのように大きな口を開けてこちらに向かうそれに、ジョージは右に持った水鉄砲の引き金を引いた。


 ブッシュウウウウウウ!!


 なんと中身はケチャップだ! 当然ながら、そんなに速度も飛距離も出ない。


「フッざけんな!」


 ボッヒョオォオオ!!


 左手の水鉄砲を構え、ハンバーガー目掛けてぶっ放せば、今度の中身はマスタードだった。なんと、タンクの中身は甘みのある完熟トマトを使用したケチャップと、スパイシーなマスタード。


「もう少しマシなモンがあったろうよ!?」


 半ギレの状態でジョージはハンバーガーに向けてそれを乱射した。

 その目玉にケチャップが掛かるとハンバーガーはバランスを崩し、水路の横にあるレンガ通りに激突して爆発した。


「ブルース! 右だ!」


 先ほどのハンバーガーのすぐ後ろにいた個体のバンズが大きく開き、その隙間からピクルスがカッターのように滑り出てくる。

 ブルースの泳ぎによりすんでのところで回避したものの、少し掠っただけのシャツと脇腹がざっくりと切れていた。

 標的を外したハンバーガーから、今度はスライストマトが車のホイールのように回転してきた。ピクルスであの破壊力だ、絶対に当たりたくない。

 ブルースがトマトを回避するために潜り、再び浮上。逆上するハンバーガーのモンスターは最大級の武器であろうパティをぶっ放した。


 ——バクッ。


 それは食べるのかブルースよ。勢いよくジャンプし、ジョージの頭を抉り取らんとしていたミートパティを豪快に口に咬え着水する。肉食魚類のスイッチがどこで入るのか、いまだにジョージはわからない。


「くそっ! くそっ! くそっ!!」


 もはや生身のバンズだけが、大口を開けて突進してくる。やけくそにジョージはケチャップとマスタードを発射し続けた。

 ブルースは迫り来るバンズにはテンションが上がらないらしく、そのままパティをもしゃもしゃ噛み砕きながら泳ぎ続けている始末だ。


 その時、水路を流れてくるものが一つ。500ml缶のコーラとオレンジジュースだ。

 ジョージは無我夢中でコーラの方を選び、引っ掴む。バンズが大口を開けて今まさにという瞬間ギリギリまでそれを振った。


(頼む……この馬鹿げた妄想が当たっていてくれよ!)


 プシュッという爽快なプルタブの開く音、それと共にコーラの缶をパティに向け投擲。


「ブルース! 潜るんだ!」


 間一髪! コーラ缶が凄まじい勢いで炭酸を放ち爆発する。


「いいぜぇ! コーラボムだ!!」


 ジョージはつるっつるの頭の中がおかしくなりそうに感じながら、中指を立ててしょぼしょぼにふやけ流れてゆくバンズを見送る。

 流れてくるコーラ缶は積極的に回収しておこう。……重さでブルースが機嫌を損ねない程度に。


 しかし油断はできない。今度はピロロン、ピロロン、と軽快な音声が流れると同時に振り返れば、腕に凄まじい熱さと痛みが走り、ジョージは苦悶の表情で身構えた。


「なんだありゃ!?」


 地味にズキズキと傷を抉るような痛みが腕に続く。

 まるで火傷に塩を塗り込むような……と思いきや、その正体は。


「誰も揚げたてなんてオーダーしてねぇ!」


 ボウガンのように、こちらへ飛んでくるのは。これまた巨大なサイズのフライドポテトであった——。




***




【ゲームスタートから28時間が経過】



 フードエリアをケチャップとチョコソースと血塗れで制し、水底からライフルと弾倉をゲット。


『floor.3 スーベニア』では、ウイルスに侵されたゾンビ紛いのキャラクター達をなんとか撃破。ニコニコハッピーな着ぐるみの頭を出会い頭から喰い千切り吹っ飛ばすのは、結構クレイジーな光景だ。

 ブルースは【竜巻トルネード】、ジョージは【チェーンソー】を手に入れていた。



「もういい! もうたくさんだ!」


 ジョージは半ばやけくそに叫ぶ。Floor.4は乗り物エリア、今二人の目の前には暴れ狂う真っ赤なモンスタートレーラーが、レーザービームを放ちながら猛スピードで迫ってきている。


「行けるか、相棒!」


 竜巻の中心となり、一定時間内であれば空からの攻撃が可能になったブルースにジョージは吠える。その手にはエンジンをフルパワーで稼働させたチェーンソーが握られていた。



『ジョージィ……ここまでおいで、最上階のパレードへ』


 Floor.7のモニターでは、今まさに竜巻を背にチェーンソーを振り切るジョージの姿を、何者かがニヤリと嗤い見つめていた——。

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アミューズメント・パニック すきま讚魚 @Schwalbe343

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