最後の学園祭

鳥人間

最後の学園祭

 皆様、初めまして。皆様は“星の国”という国があるのをご存知ですか?今回は皆様にそんな星の国のちょっと不思議で素敵なお話をご紹介します――

           〇

「星って言っても難しすぎない?」

 彼女、星川葵は悩んでいた。今年の学園祭で葵のクラスは青団になり、テーマは星に決まっていた。そして、三年生はテーマに合った模擬店をしなければならないため、内装案を出さなければならなかった。

 葵は美術部だから内装案を考えてきて欲しいと頼まれ断れず引き受けてしまったがやるからには誰もが思いつく様なアイデアではなく、意外性があり、お客さんにも楽しんでもらえるような内装にしたいと思って考えていたら頼まれて一週間が過ぎ、内装案提出が明日へと迫っていた。

「あー、ずっと考えてても思いつかない……とりあえず一旦外出て頭リセットしよう」

 そう言って葵は玄関に向かう。

「葵、こんな時間にどこ行くの」

 外に出ようとしていることを母に気づかれ声をかけられた。

「ちょっと外の空気吸ってくるだけ。すぐ帰ってくるよ」

「あんまり遅くなりすぎないでね」

「はーい」

 葵は家の近くにある公園まで歩いて行った。歩きながらふと、そういえば今日どこかで流星群が見れるってニュースでやってたっけと思い出す。

「この公園やっぱり落ち着くなぁ」

 一人でブランコに乗りながら空を見上げる。

「きれー……」

 今日はとても晴れていて星がよく見えた。

 しばらく空を見上げながらブランコに乗っていると流れ星を見た。

「え、流れ星?」

 ニュースでやっていた流星群が見れると言われていたものなら次もあるはず、と思いじっと空を見つめる。

 少しするとまた、星が流れた。

 (何か、星で良いアイデアが浮かびますように)

 そう願った瞬間、葵の周辺が光に包まれた。

「え、何これ?」

 葵の声が公園に響き渡る。光が消えた時には葵の姿も消えていた――

           〇

「おーい……おーい?」

「兄ちゃん、この子起きないよ?」

 小さな男の子が二人、寝ている女の子を囲んで話していた。

「生きてるー?おーい」

「う……」

「あ、目覚めたみたい!」

「大丈夫?」

 目が覚めた女の子に二人は話しかける。女の子は少しぼーっとした様子で周囲をキョロキョロと見回していた。

「ここは……?」

「ここは星の国だよ!」

「ボクたちは星の国の案内人、ライトと」

「スターだよ!二人合わせて」

「「スターライト案内人だよ」」

「星の国……?そんな所が……」

「君、流れ星に願い事したでしょ?」

「それで、星たちが君をここに連れてきてくれたんだよ!」

「流れ星に……あ!こんな所で遊んでる場合じゃない!デザイン考えないと!!」

「何かお困り事があるなら僕らがお手伝いするよ!」

「デザインって何の?」

「えっと……」

 二人に聞かれて女の子は経緯を説明した。それを聞いた二人はある提案をした。

「それなら星の国を見ていきなよ!」

「ボクたちが案内するし、テーマが星ならちょうどいいんじゃない?」

 女の子は少し迷ったがその提案を飲むことにした。

「それならお願いしてもいいかな?」

「もちろん」

「まかせて!」

「ありがとう!」

「そうだ!君の名前は?」

 スターが女の子に名前を聞く。

「あっ、私は葵。夏川葵っていうの」

「葵かぁ。良い名前だね」

 葵はライトに名前を褒められ少し照れた様子だった。

「じゃあ、早速案内するよ!」

「ボクたちに着いてきて」

 そう言った二人はスイーっと浮かんで進んでいた。

「えっ!飛んでる!」

「そっか、地球では人は空を飛ばないもんね」

「うん」

「僕ら星の国の住人はみんな基本的に飛んで移動するんだよ!歩くこともできるんだけどね!」

「そうなんだ……すごい!」

 葵は今自分が見ている空飛ぶ二人の少年が不思議で仕方がなかった。どういう原理で飛んでいるんだろう、と考えるが根っからの文系である葵には難しく、考え始めてすぐに考えることを辞めてしまった。

「それにしても葵は運が良かったね」

「え?」

 尋ねてみると、星の国に来られるのは月に一度、地球上の全人類の中で流れ星に願った人のうちたった一人だそう。月に一度ならそこまで確率が低いわけじゃないんじゃ、と思った葵だったが、スター達が言うには日本で流れ星が見られる日が限られているように他の国でも限られていて、一ヶ月で流れ星に願い事をする人は何千万人といるらしかった。

「特に日本は地球でも流れ星が見れる機会が少ない国のひとつだからね。日本人がこの国に来たのは十五~六年ぶりくらいだよ」

「日本は流れ星が見えるかもっていう日に限って雨や曇りが多いからね」

「そうなんだ……」

 そんな風に話しながら進んでいると看板が見えてきた。

 “ようこそ シリウスへ”

「ようこそ、シリウスへ?」

「星の国にはいくつかの街があって、星の名前がついてるんだ!」

「ここはシリウス。この先にはベテルギウスやスピカ、ポルックスなんてみんなが知ってるような星の名前を初め、色々な星の名前がたくさん使われているんだ」

「へぇ~、すごいね」

「さぁ、この門をくぐればシリウスの街だよ!」

 門をくぐると今まで歩いてきた道とは全然違う雰囲気の街が広がっていた。

「うわ~!かわいい!」

 雰囲気だけでなく、家も街灯も何もかもがパステル調で合わせられていた。街では色々な物が星型で作られていた。出店で売られているカステラもパンケーキも建物の屋根も噴水も煙突から出る煙も。

「シリウスの街はパステルを基調にしてるんだ」

「他の街は寒色だったり暖色だったり一色だったり工場だらけだったり食べ物屋さんだらけだったり色々あるんだよ!」

「葵!はいこれ」

 ライトが小さな瓶を葵に手渡した。小さな瓶の中にはカラフルな小さな星みたいなものがたくさん入っていた。

「もしかして、金平糖?」

「そう!星の国の特産品なんだ!」

「地球のとは違って少し甘めなんだよ」

 葵はさっそく一つ食べてみることにした。一粒口に入れてみるといつもの慣れた甘さよりも甘く、不思議な味もした。

「おいしい!でもこれ、甘さが違うだけじゃなくて何か不思議な味がする……?」

「よくわかったね」

「甘さを出す砂糖が星の国オリジナルで作られてるんだ!」

「へぇー!すごいね」

 葵はデザインの悩みを忘れ、星の国観光を楽しんだ。途中、今月の旅人かい?スターライト!これもらってけ!!など星の国の人たちと話す機会もあり、夢の中のような体験をした。

 他の街にも連れて行ってもらい、雰囲気の違いや食べ物、金平糖の味の違いなどにずっと驚いていた。

「どうだった?星の国は」

「すごく楽しかった!一つ一つの街で違いがいっぱいあって、おもしろかったよ。特に金平糖!同じ金平糖でも街によって味が違ったのが凄かった!」

「楽しんでもらえて良かったよ!金平糖お気に入りだね」

「金平糖は街によって味を作りかえてるけど、雰囲気でも味の感じ方は変わるんだよ」

「雰囲気で感じ方が変わる……」

「デザイン、良いの浮かびそう?」

「うん!ありがとう、二人とも!」

 葵は星の国へ来た時よりもすっきりした顔をしていた。

「じゃあ、葵を地球へ返そうか」

「そうだね!じゃあ葵。流れ星に願い事をした時の場所を思い浮かべてみて!」

「うん」

「ちなみにここにいた時間は地球では十秒とかしか経ってないから安心してね」

「そうなんだ。ありがとう!」

「じゃ、葵を帰すよ!」

 スターがそう言うと二人は葵と手を繋いだ。すると、三人はまた光に包まれ、葵が気がつくと流れ星に願い事をしたあの公園についていた。

(ボクたちは地球に降りれないからここでお別れだよ)

(またいつか僕らと出会えるといいね!)

「そっか。ありがとう、スターライト案内人!」

 最後の二人は光の中にいた。

「早速帰ってデザイン画を描こう!」

 葵は走り出そうとするとズボンのポケットでカチャッと音がした。ポケットに何かを入れた記憶のない葵は不思議がって手を入れて中の物を出してみると見覚えのある小さな瓶が二つ入っていた。

「金平糖……!」

 星の国を観光中に金平糖を食べきってしまっていた葵にスターライト案内人からのささやかなプレゼントだった。

 “葵へ

  星の国特製金平糖だよ。美味しく食べて、

  デザイン頑張ってね。星の国から応援してるよ!

              スター、ライトより”

 メッセージまで着いていて葵は嬉しさで涙が込み上げてきそうだった。

「よし、がんばろ!」

 葵は家に帰るとすぐにデザインに取り掛かった。完成したのは二時間ほど後だった。

           〇

 次の日、クラスでデザインを決める会議があった。葵の他にも美術部三人がデザインを考えてきており、皆、とても良いデザインを持ってきていた。

「じゃあ最後、夏川さんの案。お願いします」

「私の案は、教室を暗幕で区切って三つか四つくらいの星の街を作る、です」

 葵は緊張しながらも案を伝えた。葵の案は昨夜の星の国で街によってイメージが変わる体験を再現しようというものだった。

「三つか四つの星の街ツアーみたいにしてもいいと思うし、カフェにしてそれぞれの街で食べれる物を変えて販売してもいいと思います」

「それ、めっちゃ良い!」

「夏川さん天才?」

「私可愛いところでパンケーキ食べたい~」

「静かに!夏川さん、ありがとうございました。とりあえず投票を取ります。良いと思った人の案に手を挙げてください」

 葵の案は葵自身が思っていたよりもクラスの人たちの心を掴んでいた。

「じゃあ、賛成多数で夏川さんの案でいきましょう」

 案が決定してからはカフェにしよう、何を出そうか、内装をどうしようかなど、どんどん内容が決まっていき、葵は内心とても喜んでいた。

(スター、ライト、ありがとう。二人のおかげで凄く良い模擬店になりそう!)

            〇

 学園祭当日。葵たちのクラスは朝から大盛況だった。

「ベテルギウスにカレー一つ!」

「スピカにパンケーキ二つとベリースプラッシュ二つお願い!」

「これ、ベガによろしく」

 キッチンはバタバタと慌ただしかった。それぞれ役割を決め、効率良く回せるようにと準備をしていたが、予想を超える客数だった為、ギリギリで回していた。

 一日目は大盛況で終わり、二日目は一日目の反省を活かし、キッチンの人数を増やして余裕を持って対応をした。お客さんたちは内装を見て楽しみ、食事も楽しみ笑顔で帰っていってくれた。

 二日間で客数は全校一位、アンケートによる1番良かったクラスも一位を獲得し、葵はクラスメイトに沢山褒められた。

「夏川さんの案のおかげだよ!」

「MVPは夏川さんだね!」

 皆のおかげだよ、と言いクラスの盛り上がった雰囲気を見ながら葵は二人を思い出していた。

(スターとライトのおかげで大成功したよ。本当にありがとう)

 葵のこの想いはきっと星の国、スターライト案内人の元へと届いていることだろう――

             〇

 ここまでお読み下さりありがとうございました。

 星の国なんてお洒落なところがあるのなら私も行ってみたいですね。何か情報ありましたら是非、ご連絡お願いします。皆様の元にもいつか案内人が現れるかも知れません。

 おや、今月の訪問者が現れた様ですね。私はもう行かねばなりません。

 では皆様、またお会い出来ることを楽しみにしております。

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