エピローグ
━━━━━━━━━━━━━━━
「うわぁ……」
思わず間抜けな呻き声を漏らしてしまった。
下の国の惨事を僕達はシーラさんの統治する水の国にある『水の鏡』で見ていた。けど、スプラッター系が大の苦手な僕は全ての成り行きを見ることが出来なかった。
「情けない」っと、ナナナに吐き捨てられる。
何故に呼び捨てかと言えば、「さん」を付けると何故か返事をせずに睨まれるだけで、喋って貰えなかったから。
ナナナは真っ赤なストレートヘアで前髪を眉毛の下でパッツンにしてて鼻筋が綺麗で。少し切れ長の目は釣り上がり、口は常に真一文字に結んでいる。
完全無欠な生徒会委員長的な見た目で、恋愛ゲームではチョイスしないだろう僕好みからはかけ離れた存在。絶対に彼女キャラにはしない苦手キャラそのものだった。
なのに、僕の住まいはナナナの統治する火の国にあって、モンスターの討伐時は常に一緒に行動している。
半端なく謎だ。
「まぁ、良いじゃねぇか。ナナナも満更じゃ無さそうだし」
っと言うガディ。何かいけない地雷を踏んだようだ。
「何が言いたいの、ガディ兄。聞いてあげるから表に出なさい。最も、生きていればね」
っと、喧嘩を売るナナナ。
僕がこの『グラン・エルディン』に暮らすように鳴って三日が経つけど、ガディとナナナは一日一度はこうして喧嘩をしている。
「ナナナは末っ子だし、ガディはすぐ上だから昔から良く喧嘩してるのよぉ」
舌っ足らずな口調で説明してくれるシーラさん。
「喧嘩するほど仲がいいってヤツですか?」
と言ったのがいけなかった様だ。睨み合っていたガディとナナナが僕に向かって大声を張り上げた。
「どこがだよっ!」
「どこがよっ!」
見事なユニゾンで、返って仲の良さが際立った瞬間だった。
あの日から僕はグラン・エルディンで勇者として国民に手厚く迎えられた。
皆んなとても優しくて明るくて、気さくで楽しくて。初めての僕を昔から居たように接してくれた。
ナナナの宮殿に住むようになり、国のどこかにモンスターが出現したらナナナと討伐に向かい、それ以外は鉱夫として働いた。
「働かざる者食うべからずよ。貴方の世界の格言でしょ!」
格言じゃなくて教訓なのだけど。
そんなナナナも討伐が無い時は鉱夫として働いているのには驚きを隠せなかったし。
ガディを含め、他の姉達も討伐がない時は国民と一緒に働いていた。
本当にいい国だし、たった三日で僕にとっても命をかけて守りたくなる場所になった事は確かだ。
今はまだ獣人軍や魔王軍や邪神軍の襲撃は無いけど、モンスターの出現そこそこあるらしい。
「カイトっ! ナナナっ! モンスターが風の国付近の丘に出現したみたい。お願いね」
と、『水の鏡』のある部屋に飛び込んできたキリキュリさんが言ってきた。
「行くわよカイト! 急ぎましょっ!」
と言われ、僕の手を握って駆け出すナナナ。引きずられる様に連れられる僕。
このポジションが固定されないように祈るばかりだ。
「まぁ、お人好しスキルがある以上、諦めるしかねぇなぁ」
ガディの声を後ろに聞きながら、表に出た途端にサラマンダーの姿になったナナナの背中にしがみつく。
僕は本当に勇者なのだろうかと嘆きたくもなる。これでは完全に紐状態だし座布団みたいだし。
最初に下の国召喚された時は手厚くもてなされて至れり尽くせりだった。けど、グラン・エルディンに来てからは少しぞんざいに扱われてる様な気もしないではない。
ナナナも、もう少し優しかったらなぁと度々思うし。
「何か言った?」
っと、くぐもった声が聞こえる。まぁ竜の姿だから仕方ないけど。
こんな感じで僕の異世界での暮らしが始まった。
これからどんな強敵が襲ってくるか全くわからない。けど、ガディやシーラさん。キリキュリさんやサンナさん。
そしてナナナが居れば難なく乗り切れるんじゃ無いかと思う。
それは推測とか予想とか、そんなあやふやなものじゃない。ガディ達の国民を思う心、国民がガディ達を慕う心。
まだ三日間しか居ないけど、充分過ぎるほど伝わってきた。
それに僕も皆んなに沢山良くしてもらった。
「受けた恩は絶対に忘れたらダメだよね、おじいちゃん」
そう心の中で呟いた僕は、勇者の剣を抜き取って構える。
この国の為に、こんな僕に良くしてくれる人々の為に。僕はお人好しスキルを最大限に使って守っていこうと強く誓う。
「ナナナっ! お願いっ!」
こうして僕はガディ達、特にナナナの力を借りてグラン・エルディンの勇者になっていったのだった。
グラン・バァーーーーーーニングッッッ!!!
━━━━━━━━━━━━━━━了。
召喚された異世界でエクスカリバー(?)を手に入れたのに、勇者=生贄だった!〜最終的に僕を勇者にしてくれたのはラスボスのはずの竜王でした〜 葉月いつ日 @maoh29
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます