白花
あれから三日後。
下の国ではこんな事件が起きていた。
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『世界の屋根』まで行きは四日もかかっちまった。しかし
まぁ、勇者は予定通り生贄にしちまったんだが。
とは言えアイツが勝手にひとりで戦って白花をむしり取って手渡してきやがった。その後に「早く行け」と命令しやがったのはムカついたがな。
しかし、何にもしねぇで楽に白花を手に入れちまったもんだからニヤケを抑えるのに苦労しちまった。
「ねぇ、本当ににやるの? 大丈夫?」
と、ガキの頃から割と小心者だったリアンが言ってきやがる。ここまでの道中で心配するなと言い聞かせてやったのに、いざと言う時にへっぴり腰は頂けねぇ。
「いい加減、腹を括るんだなリアン。これを乗りきりゃ……わかってんだろ?」
そう言われて少しムッとしたリアンが言ってくる。
「分かってるわよ、そんなこと。ただ、何となく嫌な予感がするのよ。不老不死って……」
すると、リアンの横に居たガルバラッドが声を出す。
「大丈夫よ、リアン姉さん。白花の事はあらゆる文献を読み漁って調べたわ。どの本も間違いなく白花を食べると不老不死なるって書いてあったわ」
「そう言うこった」っと言って俺はリアンから俺たちの目の前にある、王室に繋がるドでけぇ扉を睨みつける。
その後、一度深く深呼吸。そして取っ手を握り思いっきり手前に引いて扉を開け、颯爽と国王の元に歩き出した。
「おぉ、バラン! 良くぞ戻った。で? どうだっ? 白花は手に入ったか?」
王室の奥の一段高い場所にある玉座に座り、踊り子風の面積の少ねぇ布だけを纏った女二人に酒を継がせていた国王が興奮気味に言ってきた。
とりあえずは報告がてら、こう切り出してみる。
「その前に勇者ですが……」
「あぁあぁ、いぃいぃ! あんな小僧なんざ竜王に食わせる為に向かわせたんだからどうでよい。それよりも白花はどっなっておる? 早く言えっ!」
人の話を遮ってまで白花の事が気になるらしい。実に欲望深いブタ野郎だ。
仕方ねぇから俺は腰の布袋に手を突っ込み、白花を掴みあげて国王に見せたやる。
「おおっ!!! でかしたぞバランっ! 早く! 早く持ってこいっ!」
「(ったく、せっかちなクソ野郎だぜ)」
そう言いたかったが俺は一旦小さく息を吸い、ゆっくりと玉座の方に歩いていく。と、国王は目を輝かせながら俺の到着を待ちわびてやがった。
その表情をそこの女どもごやってくれりゃよ、ちったぁ萌えるんだが。よりによってこんなブタ野郎にされても吐き気しか出てこねぇ。
それでもゆっくりと歩き、いよいよ玉座の前の一段下に到着した時だった。国王は両脇の女を押しのけるように立ち上がり、俺の方に素早く近づいてきた。
「それが白花かっ! よくやった! 早く寄越せっ!!!」
そう言って差し伸べた手を、空いている手で俺は思いっきり弾く。
「何をするかバランっ! 気でも狂ったか!」
弾かれた手を抑えながら興奮気味の国王に俺は言ってやった。
「別に気が狂った訳じゃねぇよクソ野郎。最初からテメェなんざの手先になる気はなかったんだよ、俺達はな」
唖然としたブタ野郎を眺めていると、俺の両脇にリアンとガルバラッドがやって来る。
俺達は同時に足を上げて玉座に間に上がりブタ野郎に詰め寄る。
「ま……待て……話せば……話せばわかる。そうだ、褒美だ! 褒美をやろうっ! 何が欲しい? 何でも言ってみろ!」
後ずさるブタ野郎は最後に玉座の手すりに引っかかり派手に転倒する。そして、腰を抜かしたように床にケツを擦り付けながら後退していった。
「俺が欲しい褒美はなぁ……」
そう言って俺は玉座に右足を乗せ、軽く前かがみになって言ってやった。
「この玉座だ!」
その声を聞いたブタ野郎は顔を真っ赤にして叫び始めた。
「誰かっ! 誰かおるかっ! 裏切り者だっ! アイツを殺せっ!!!」
ブタ野郎の叫びに気付いた衛兵達がヤツの目の前に立ち剣を俺達に向けやがる。時期国王に何たる無礼な振る舞いをしやがるんだと思って笑っちまいそうになった。
そんな事を考えていると、いつの間にか俺達は衛兵達に取り囲まれちまっているのに気づく。
「(まぁ、予定通りなんだがな)」
すると、ようやく立ち上がったブタ野郎が不敵に笑って言ってきやがった。
「フンッ! 馬鹿め! たった三人で俺を殺せるとでも思ったか。白花は後で回収すれば良い。殺してしまえっ!!!」
っと、実におもしれぇ事を言いやがった。が、結局アイツは状況ってのを何にも分かってねぇ愚か者って事だ。こんなヤツが国王だと思うと反吐が出る。
だから俺は言ってやった。俺の、俺達のガキの頃からの野望を聞かせてやった。
「はんっ! うるせぇぜブタ野郎。今日から俺が国王だ! そしてこの国は俺達三人が支配する! 死ぬのはテメェの方なんだよぉ!!!」
と言って俺は……俺達は白花の花びらをむしり取った。都合よく花びらが六枚あるもんだから一人二枚の花びらを持ち、そして各々口の中に放り込んだ。
「なっ……きっさまらぁぁぁっっっ!!!」
そう言ってイキり、顔は愚か耳まで真っ赤にしやがった。ブタ野郎が赤ブタ野郎になりやがった。
すこぶる気分が悪りぃ。
気分が……悪りぃ……
そう思った瞬間だ。突然腹の中がグチャグチャになったような感覚に襲われた。強烈な胸焼けが襲う。腹の中で何かが逆流してきやがった。
「おぅえぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」
「ごぶぁっ……ごぉぉぉうぇぇぇっっっ!!!」
リアンとガルバラッドが壮絶に吐きやがった。しかもそれは普通のゲロじゃねぇ。どす黒く、まるで汚ぇスライムを吐いているように見える。
そして俺も……
「おごぉおぉぉぉおっっっ!!!」
壮絶に口から真っ黒な粘液が湧き出てきやがった。
息が出来ねぇし全身が痛てぇ。耳鳴りはするし、強烈に嘔吐物が臭ぇ。
それに、だんだんと視界までも霞んできやがった。
呼吸もままならず思考も鈍る中、俺は最後にブタ野郎の方に視線をやる。
何かとてつもなく嫌なものを見たような眼差しをくれやがるブタ野郎。
だが……あんなブクブクと太ったブタ野郎が……今は無性に……
食いたくなった……
グォォォォォオォォオッッッ!!!
誰の声だか知らねぇが、俺の最後に聞いた言葉はこうだった。
「バッ……バケモノめっ! 殺してしまえっ!!!」
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