怖がり転生赤ずきんくんは不良狼に懐かれる

@titeikoizumi

第1話 5年ぶりの幼馴染

自分の名前って・・・何だっけ・・・苗字は赤崎、とかだったっけ?


あ、でもここ日本じゃないっけ。とてものどかな場所で、海外っぽいから、名前も・・・そう、そうだ。ロディエル・アカミラ、だった。茶髪で眠たげな薄い金色の瞳をしていて、平均的な体つきをしている18歳の男。それが自分だ。






美しいお花畑に見とれていたら、木に頭をぶつけて前世を思い出した・・・。とは言っても、自分の名前とか、家族のこととか詳しくは思い出せなかったけど。どちらかと言えば今世の記憶の方が全然鮮明に思い出せる。


それよりも・・・この状況から察するに、自分、転生したってことなのかな!?死んだ記憶とか全然ないけど・・・とにかく、平和っぽい世界に産まれてこれたみたいで良かった。


良かった・・・?ちょっと待って。


そういえば今、おばあさんの家にお見舞いしに行く途中で、しかも自分、赤い頭巾を頭に被っていて、ここら辺は狼が出るぞってお兄ちゃんが言ってて・・・。






もしかして、自分、赤ずきんちゃんになってたりする!?転生後が赤ずきんちゃんなの!?何で!?


どうしようどうしよう、兎に角、落ち着かないと。この後確か、狼と出会って・・・。






冷や汗をかきながら考えごとをしていたら、近くの草むらが揺れ動き出した。


狼だろうか。まだおばあさんの家に着いていないのに、食べられちゃうのかな。狼が丸呑みとか有り得ないよね、童話だから赤ずきんは助かったんだよ。狼に食べられるって、体とか噛み砕かれて生きたまま殺されるってことだよね。


「ひぃぃ、ごめんなさい、ごめんなさい食べないでくださいっ。」


相手は野生動物だ。ここで慌てて動いたら活きのいい餌だと思われてしまう。その為、頭を両手で守って謝罪をすることにした。せめて言葉が通じますように・・・。


「あ゛あ゛??・・・エルか。ここで何してんだよ、テメェ。」


粗暴な発言をしてきた男の顔を見る。狼じゃなかったのかな。


見上げると、そこにはよく見覚えのある、とても懐かしい姿があった。


綺麗な水色の髪と深い紺色の瞳をした美形の人物・・・彼は確か、幼馴染のグレーシィ・ラケット。顔を見るのは5年ぶりだ。


柴犬みたいな可愛い獣耳を生やした人だが、彼は同い年だし男の人だ。昔、獣人だとか言っていた気がするが、前世から見た目とか気にしないタイプだったので、特に気にせず仲良く遊んでいたっけ。


昔は仲良しだったんだけど、彼は頭が良くていつの間にか都心の学校に行ってしまって・・・家族の経営するお店の手伝いをして生活している自分とは天と地の差ができてしまい、すっかり疎遠になってしまっていた。


そういえば、小さい頃の彼はとても素直で、身長も小さくて・・・今思い出すと、ペットみたいで可愛かったな。


なのに久しぶりに会ったら凄い身長高くなってるし、不良みたいな口調になってるし。学校で何かあったんだろうか。


「ひっ、ひさしぶり、だね。グレイ。」


声が震えてしまう。


だって彼、5年前と比べて大分成長しているから。普通に怖い。身長とか、軽く2メートルはあるんじゃないかな。


「久しぶり、じゃねぇよ。こんな誰もいない森の中で何してんだっつってんだよ!」


腕を組みながら不機嫌に怒鳴る・・・誰、この人。


「う、うぅ。」


怖すぎる・・・。


以前の彼との違いに困惑してつい泣いてしまった。情けないが、ずっと前から怒鳴られたり怒られたりするのが苦手で・・・何で苦手だったんだっけ。


「なっ!?何泣いてんだよ!!クソッ。」


ポケットからハンカチを取り出してゆっくりと涙を拭いてくれた。


あれ?口は悪いけど・・・優しい。怖くないかも。


「ごめん。会えたのが嬉しくって。」


誤魔化すように笑う。会えたのが嬉しいのは本心だ。泣いてる理由は違うけど・・・。


「あ゛・・・あ゛あ゛っ!?何バカなこと言ってんだよ!!」


また叫び出した。やっぱり怖い。


グレイは俯いてしまい、耳と尻尾がピンと立ったと思えば今度はゆらゆらと忙しそうに動き出した。


「それじゃあ、またね。」


早くおばあさんに葡萄酒とお菓子を届けてしまおうと、駆け足でその場から離れる。


急いで立ち去るのを横目で見たグレイは、追いかけてくる様子もなく俯き続けていた。

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