ハンバーグ屋さん 🥘

上月くるを

ハンバーグ屋さん 🥘





 松の木の向こうの池に、白い鳥が二羽、置き物みたいに浮かんでいる。

 コブハクチョウは渡り鳥ではありませんよ、いつか先生が言っていた。


 先生のこと? うん、好きだよ、ぼくたちのこと大人扱いしてくれる。

 叱ってくれるときも、じいっと目を合わせて、理由を説明してくれる。


 その先生にも心配をかけちゃったな、しかも、こんどはお金がらみで。

 京子先生に悲しそうな顔をさせるのが、ぼく、ほんとうにつらいんだ。




      🦢




 ベンチに浅く腰かけたかあさん、すりきれた財布から紙のお金を出している。

 あれは千円じゃない、大切な一万円札だ、それを四つ折りにしてオズオズと。


 すみません、すみません……いったい何回あやまらせれば気が済むんだろう。

 そのたび、かあさんはぼくの頭を押しつけ、無理やりごめんなさいをさせる。


 何度も言っているでしょう、ぼくがわるかったって、すみませんでしたって。

 かあさんは知らなかったことなんだから、そんなに小さくならないでよ。💧


 


      💷




 かあさんと並んでベンチにいるのは、知らないオバサンと白髪のオバアサンで。

 せっかくなんだから、いただいておいたら? あら、そう? でも、ねえ……。


 三人で四つ折りのお札を押し付け合っていたが、そのうちにオバアサンが言った。

 じゃあこうしましょう、いったんわたしが受け取ってから、それをぼくにあげる。


 ね、ぼく、かあさんがはたらいているから、日曜日でもさびしかったんでしょう。

 アパートの近くのハンバーグ屋さんに入ってみたかったんでしょう、だから、ね。




      🏬




 何度でも繰り返すけど、こんなことになったのは、みんな、ぼくがいけないんだ。

 オープンしたばかりのショッピングモールの通路を走りまわっていたぼくが……。


 角でオバアサンとぶつかったことは覚えているけど、正直、気にも留めなかった。

 お年寄りが転倒して骨折し、何度も病院へ通ったなんて、思いもしなかったんだ。


 そして、ショッピングモールに勤めていたオバサンが店長さんに頼んでお店のなかの防犯カメラをチェックして、よく見かける近所の子どもだと分かったなんて。💦




     😭




 ね、ぼく、そうなさいな、かあさんがお休みの日に、ハンバーグ屋さんに行って。

 オバアサンはお札をグイグイと押しつけて来たけど、ぼくは手をグーにしていた。


 シングルマザーと何度も言われたかあさんは、肩をふるわせて、うつむいている。

 ぼくは、自分がどれほどいけないことをしたかが痛くて、まったく泣けなかった。


 よく分からないことをつぶやきながらオバサンとオバアサンが帰り支度を始めた。

 慌てて立ち上がってクドクドお詫びするかあさんの頭を、ぼくは黙って見ていた。

 


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