and

結騎 了

#365日ショートショート 241

「やめて!離してよ!」

 住宅街に悲鳴が響いた。老婆が数人の男性によって、車へ担ぎ込まれている。何事かと集まる群衆にへこへこと頭を下げているのは、老婆の息子であった。車、もとい大きなバンには、介護施設の文字がプリントされていた。。事情を悟った野次馬が、ひとり、またひとりと、その場を離れていった。

「いってらっしゃい。体に気を付けて」

 玄関に立って見送るのは、老婆と同じ歳ほどの老人だった。しわだらけの掌を小さく振っている。

「離して!ねえ、離してよ!私はね、まだボケてなんかいないよ!これは息子が仕組んだことなんだ!」

 老婆は激しい抵抗を続けている。

「母さん、そんなこと言わずに。ほら、大人しく車に乗ってくれよ。施設の人たちが良くしてくれるから」

 なだめる息子をきっと睨みつけ、老婆は叫んだ。

「ほら、ご覧!まだうちには夫がいるんだよ!どうして私だけ!二人で余生を過ごすことも許されないのかい!私と主人は、何十年も連れ添った仲なんだ!それを、お前ってやつは!」

 男性職員らによってなんとか車のドアが締められ、エンジン音が唸りを上げる。息子と、そして老人は、並んでそれを見送った。

「母さん、いってらっしゃい」

 息子はおもむろに、老人の首に手を当てる。

「お疲れ様。長年ありがとう」

 介護用アンドロイドは、スリープモードに入った。

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