第5話 それからの勇者達 ~終幕~


「勇者の血筋?」


 時を遡ること八年前。異変当時。


 仲間の老骨や若者達、そして葉月親子の涙に見送られた祖父、源三。風に靡く弔旗とともに火にくべられた彼は、細い煙になり天上へと昇っていった。

  

 そんな一時が終わり、世間も平穏を取り戻した頃。


 嵐のように祭りがやってくる。


 唖然とする葉月や一二三らの前で、異世界での葉月の仲間達が大きく頷いた。

 彼等は長く葉月とパーティを組んでいたらしい。


「私達の世界にある伝承です。それと今回の事件が繋がるのです」


 よくよく話を聞けば、それは単純なこと。


 こちらからあちらへ行けるように、あちらからもこちらへ来た者がいるようだ。

 元々、異次元を繋ぐ亀裂が発生するのは偶然だった。そこに誰かがラジオを持ち込んでしまい、亀裂の発生場所が固定されただけ。

 電波を受け取り、放つという特性が悪い方に作用したのだろう。

 そしてさらに、異世界には魔力があった。その魔力を吸収して動力となし、異世界に紛れ込んだトランジスタラジオは、怪異な変化を遂げてしまう。

 独自に自立し、勝手にあちらとこちらを繋いでしまったのだ。最初は声だけだったが、しだいに力をつけて蓄積して、次元の歪みを作れるまでに成長した。


「付喪神的な感じかな?」


「そうみたいだな」


 あやかしまみれな日本人には理解しやすい内容だ。

 やけに物分かりのよい人々を前に、やや狼狽える異世界人ら。判明した事実に、自分達異世界組すらもにわかには信じられなかったというのに。

 でもまあ、話の進みが良いのは助かると、さらに説明する異世界の人々。

 どうやら千年ほど前に、あちらの世界で消えた人物がいて、その人物がこちらに渡って来ていたのだと判明したとか。


「判明? どうやって? 千年も前なんだろう?」


 首を傾げる葉月や一二三達。日本でいえば平安時代である。現代科学を駆使しても、そんな時代の人間の行方など探しようもない。


「それは、これです」


 異世界組が置いたのは、一振の剣。見慣れた鞘を見て、葉月は眼を見開いた。

 この剣は、彼が異世界で愛用していたモノだ。

 繋がった異世界には、古くから伝わるモノが多々あり、これもその一つ。過去に勇者が制作し、使っていたという言い伝えの残るオーパーツである。

 その勇者は、他にも多くのオーパーツを残していた。それらは何故か異世界召喚された者達にしか使えず、異世界側も長く首を捻っていたという。

 目の前の剣は葉月に反応し、仄かな光を発して瞬いている。


「伝説の宝具は、異世界より人が渡った時のみ輝きます。それを見て、我々は誰かしらが召喚されたのだと察知してきました」


 そう説明しつつ、彼等は宝具と呼ばれるオーパーツ全てを座卓に並べた。

 すると、部屋の中にいる地球人達の顔が固まる。袋から出された宝具全てが、一つ残らず輝き始めたではないか。


「これが光るという事は、宝具の持ち主たる勇者や聖女などがこの世界にいる証。つまり、地球世界には、我が世界の法則が生きているのです。その礎となるほど魔力が高く力ある者は、千年前に行方知れずとなった勇者しかおりません」


 つまりこちらから異世界に渡り、再び、こちらへ戻った者がいるということである。

 ラジオを見て分かるように、地球には無い魔力によって、こちらのモノは変質してしまう。人間も然り。

 どのような経緯があったかは分からないが、戻ってきた勇者は子供を作り、その血筋を残していたようだ。そして、その血は魔力を放ち、異世界と繋がりやすい。


 今まで何も起きなかった一家に、いきなり異変が起きた理由である。

 たまたま勇者の血を引く家に、たまたま付喪神となったラジオの片割れがあった。

 そして異世界側の片方が変異を起こし、それを受信した所へ、運悪く葉月がやってきてしまったのだろう。


 不運にも程がないか?


 思わず絶句する地球側の面々。


 それを苦笑して眺め、異世界側の人々は神妙な面持ちで本題を切り出した。


「全ては偶然だったのかもしれません。しかし、ここから先は必然が起きる可能性があります」


 いきなり深刻そうに眼をすがめる鎧姿の男性に見据えられ、ごくっと固唾を呑む葉月達。


 異世界組の話は簡単だ。


 固定された亀裂のゲートに横路を通し、他の世界からの侵略が来る可能性があるということ。

 時空の亀裂の発生は本来ランダム。それを我々が固定してしまった。

 その結果、ランダムに発生する別次元の亀裂の出口が、ここに集中するかもしれないという話だ。


 元々、渡る人々は何処の世界の住人か分からない。ラジオが付喪神になってからは、地球人が多かったと言うだけで、前には地球以外の世界からも訪れていた。

 どうやら目の前の彼等の世界は、亀裂が生まれやすい世界だったようだ。

 その世界の亀裂が固定された。当然、別世界に生まれた亀裂は、ここと繋がる。

 渡る者が無辜な善人ばかりとは限らない。悪意ある者や、おぞましいあやかしの可能性もある。


 うわぁ.....っと歯茎を浮かせる葉月達。


「なので、この宝具をこちらに御預けします。どうぞお使いください」


 どうせ勇者の血筋にしか使えない道具だと、前代未聞のオーパーツレンタル。気前が良いにも程がある。


 こうして、なし崩し的に、串焼き屋、《みっちゃん》は地球防衛の最前線となったのだ。


 異世界側のギルドと提携してカウンターを作り、亀裂周辺に湧く魔物らを屠っては異世界側に売り渡す。魔力のないこちらでは、何の効果も出ないガラクタだし仕方がない。

 ときおりやってくる悪意ある者の襲撃。それはラジオが知らせてくれた。どうやら、このラジオ様、地球に危機が訪れそうな時だけ鳴るらしい。

 店の営業中は金庫室から出され、店内に飾られるトランジスタラジオ。

 結界に囲まれたソレは《つくもん》と呼ばれ、今日も元気に異世界襲撃を伝えている。


 宝具に選ばれたメンバー厳選の会員制串焼き屋、《みっちゃん》

 こちらに戻ったという勇者の血筋にのみ使えるオーパーツを壁に飾り、それを使える者らを集め、日本政府は、《みっちゃん》の隣に、防衛機構、《鵲》を作る。

 一二三や涼も、そこのメンバーだ。毎日のように店へ現れては、働く三咲を見守っていた。


 三咲も、《鵲》のメンバーである。


 勇者葉月の娘なのだ。彼女にも間違いなく勇者の血が流れている。

 そして一二三や涼、その他、当時の若者達にも。

 近しい魔力は惹かれ合う。憲兵時代の祖父達が出会い、親しくなったのも魔力の共鳴だったのかもしれない。

 血族の判断基準は簡単だ。宝具を持たせてみたらいい。千年前の勇者が作成したというオーパーツどもは、作り手の魔力で構築されている。なので、作り手の血筋にしか従わない。

 つまり勇者の血をひかぬ者には、持つことすら出来ないのである。

 異世界防衛機構、《鵲》に入るには学歴も経歴も関係ない。宝具を持てることと、人を救おうとする人間性だけが条件だった。


 そうして新たな時代の幕が上がり、三咲は異世界と地球を行ったり来たりして大きくなった。

 時々、異世界側から葉月に依頼が入るので、魔物退治に同行したりして、あちらの人々に可愛がられ、彼女は普通の地球人とはかなり違う人生を送る。

 曲がりなりにも勇者の末裔。異世界に滞在するうちに三咲の魔力も成長し、魔法が使えるようになった。


「蛙の子は蛙ってか?」


 呆れ気味に笑う葉月の前で、魔法を披露する少女。

 それを見た一二三や涼らが、慌てて異世界側に滞在許可をもらい、三咲同様、魔力を磨いたのも御愛嬌。

 今では、《鵲》の新人研修は、異世界滞在二年となっている。勇者の血筋に宿る魔力は、あちらの世界で得たモノ。なので、成長も、あちらの世界でないと望めない。

 そしてそれに比例して、身体も強靭になり身体能力も上がる。かつての勇者や葉月同様、あちらの魔力は物質を著しく変貌させるようだ。


《人間、やめてみませんか? 勇者求む!!》


《鵲》の求人キャッチフレーズには、思わず三白眼で閉口する三咲達である。皮肉を利かせるにも程があろう。


 今では世界も動き出し、秘匿案件の異世界事情に興味津々。連日、《みっちゃん》へ見学者が訪れる始末。

 目まぐるしく変わる時代の中で、それでも人々は生きて行く。

 時代に翻弄された祖父らのように、三咲達もまた、躍らされるのだろう。だが、それも一興とほくそ笑む若者ら。


 彼等の愉快痛快冒険劇は終わらない。


 今や世界中の誰もが知る、《鵲》。それと併せて、今日も今日とて賑やかな、《みっちゃん》だった。



 二千二十二年 八月 二十日 脱稿。

        美袋 和仁。




~あとがき~


 はい、御粗末さまでございました。これにて終了です。

 実はこちら、なろう企画夏のホラーに参加しようと書いていたんですが..... どう見ても怖くない。ホラーらしくない。

 なので参加を諦め、普通に投稿しました。うん。

 少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


 ではまた。いずれ何処かで♪


         By. 美袋和仁。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界ラジオ・つくもん ~串焼き屋、みっちゃん~ 美袋和仁 @minagi8823

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ