21 タイトル

 一通り2人で笑いあったあと、夕立は青鬼くんの家に上がって2階でくつろいでいた。


 くつろぐ中で、夕立はまだ話してない話を、いつ切り出そうかと悩んでいた。

 念のために、青鬼くんに尋ねる。


「赤鬼くんって結局ずっと見つかっていないのか」

「うん、どこを探しても見つからなかったよ。まあ随分時間が経っちゃったしね、もうこの世にはいないのかも」


 青鬼くんはさっぱりした顔で悲しいことを言う。

 しかし、すぐに笑顔になり俺に話しかけた。


「でももういいんだ!赤鬼くんを探したおかげで夕立くんと会えたから!」

「俺は、もういいことじゃないと思うよ……」

「いいや、もういいんだ!大丈夫!」


 青鬼くんは笑顔で返事をするが、少し、無理して笑っているのが読み取れた。

 夕立は、そんな青鬼くんを少し困った顔で小さく笑いながら話し始める。


「俺、もう一つ青鬼くんに伝えたいことがあるんだけど…」

「なになに?」

「俺、子供の頃から作家になりたかったんだ」

「えー!そうだったんだ〜」

「うん。でも、昔、同級生に夢を馬鹿にされて、物語から抜け出せない夢みがちなやつだと思われて……それで、それが嫌で、今までずっと、必死に作家になる夢を忘れようとしてたんだけど…」


「無理だった。ただ苦しかっただけだった。夢は諦めようとしても諦めきれるようなものじゃなかったよ」 


「だから俺は青鬼くんも赤鬼くんに会いたいっていう夢を諦めないで欲しいよ。…叶うかは分かんないけど…頑張って諦めようって思っても、胸が苦しくなるだけだと思う……」


 長い話を聞いてくれた青鬼くんは、静かに返事をした。

「…そうだね、そうするよ」


 青鬼くんの短い返事に、俺はうれしくなった。



「でもさ、無我夢中に探しまわっても赤鬼くんには会えない気がする…世界って広いよね〜…」

「……!!」


 夕立はいつのまにか話が脱線していたことに気づき、「はっ…!」とする。

 そしてようやくずっと思ってた話を切り出した。


「そう、それで!本題なんだけど…!赤鬼くんから青鬼くんに会いに来てもらうのはどうかな!」

「そんな方法があったらとっくの昔にやってるよ〜」

「青鬼くんは「泣いた赤鬼」を読んで赤鬼くんの気持ちを知ったんだよな?」

「………うん」



「だから、作っちゃえばいいんだよ…!」



「えっと……なにを?」

「絵本を!!」



 夕立の突拍子のない発言に、青鬼くんが目を丸くする。


「俺が作家になって『泣いた赤鬼』みたいな本を書くよ…!青鬼くんが赤鬼くんに会いたがってるって内容の本!そしたらその本が本屋に並んで、赤鬼くんがどこかで見つけてくれるんじゃないかな…!」


「………」


 青鬼くんはうんともすんとも言わなくなってしまったら。青鬼くんの反応に、夕立は少し自信を無くしながら話を続ける。


「そ、その為には売れる本じゃないと見つけてくれないだろうけど」

「………」


 夕立は青鬼くんな反応を見て、どんどん自信を無くしていく…。それでもめげずに頑張って伝え続けた。


「ま、まず…作家になれるかも分からないし…叶うかどうかなんてもちろ分かんないけど…で、でも、当てもなく探し回るよりかはマシじゃないかなって…思って…」



「………」

「へ、変なこと言って、ごめ…」



 夕立は、青鬼くんの無反応に耐えきれず、謝ろうとした次の瞬間、青鬼くんが大きな声を出してこう言った。



「それ、それスッッゴくいいアイデアだよ!!!!!」


「…………えっ?」


「さっそくタイトルとか決めちゃおうよ!『泣いてる青鬼くん』とかどう!?」


 青鬼くんは目をキラキラと輝かせながら聞いてくる。


「ねぇ夕立くん聞いてる?」

「あっ……聞いてるよ。タイトルだよね…えーと、そのタイトルだと悲しい内容の本になりそうだな…俺は、書くなら面白おかしな楽しい話がいいな…」

「あははっ確かに!どうせなら楽しく過ごしてることを伝えたいよね!『楽しんでる青鬼くん』とか『エンジョイしてる青鬼くん』とか…どう!」

「どれも薄っぺらい内容を連想させるタイトルだな」

「へー…さっきから僕のタイトルに文句を言う夕立くんは、さぞセンスあるタイトルが頭の中にあるんだろうね〜」

「えっ!いやっ!!…うーん。…もっとシンプルでもいいんじゃないか、タイトルで全て伝えなくっても、ある程度のは表紙で伝わることもあるだろうし…」


 俺は青鬼くんが赤鬼くんに宛てた手紙を思い出す。


「例えば……。……これとか…」


 自分で考えたタイトルを声に出して伝えるのが恥ずかしかったので紙に書いて伝えた。


「いや、シンプルすぎるか…」


 消しゴムで文字を消そうとすると、青鬼くんが首を振りながら腕を掴む。


「…僕、これがいいよ、これが1番手紙で何度も書いた言葉だから、これがいい…!」

「…そっか」

「内容は、僕たちの出会いの話とかどう!」

「それだと俺が書いて俺が物語の中に登場することになるじゃん…なんだか…書きづらい。」


「最初に言い出したのは夕立くんだよ?僕も手伝うからさ、そうだ!どうせなら2人で作ろう!僕が夕立くんを赤鬼くんと勘違いする話!きっと沢山の人に読んでもらえるような素敵な話になるよ!」


 そう言うと、青鬼くんは突然ばっと立ち上がる。


「よし!思い立ったら吉日!そうと決まれば遊ぼう夕立くん!」

「えっ?どういうこと…なんで急に……?」

「まだまだ夕立くんに連れていきたい場所が沢山あるんだよね!物語を書く為にも必要不可欠場所ばかりだよ!」

「そんなに多く書ききれない気がするんだけど…ってうわっ!」


 青鬼くんが夕立の手を引っ張る。


「ゴーゴーゴー!!早く行こう!」

「分かったよ分かったから」


 夕立は困った顔で小さな笑みを浮かべながら青鬼くんについていく。



 嵐のような2人が去った後、青鬼の部屋には心地よい風吹いた。


 すると机の上にぽつりと置かれた紙がひらりと床に落ちる。床に落ちた紙には短く、シンプルな文字が残されてあった。




【赤鬼くんへ】 おわり

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赤鬼くんへ 丹鶴あやか @tankakuayaka

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