休校
ぐらにゅー島
休校になった。
休校になった。
朝、僕は、いつものように電車に乗って高校の最寄り駅まで来ていた。
そこから、市バスに乗って高校まで行くのだ。
その待ち時間に、スマートフォンをいじっていると高校の連絡メールが着ているのに気がついた。
本日、○○線が運行停止となっております。
登校のできない生徒がいるため、休校となります。つきましては…
そんな文面が、綴られていた。
○○線は、多くの生徒が使う電車だ。
僕の高校は、電車が動かないともれなく休校になるのだ。
ここまで来てしまったのだから、少し残念なような、嬉しいような。複雑な気分だった。
幸い、僕の使う電車は動いていた。
電車に揺られながら、LINEを開く。クラスラインの通知が、56件も来ていた。
今日、休校らしいよ!
マジすか!?
え、俺今起きたんだが
遅すぎ笑笑
人身事故らしいよー。
っしゃぁぁぁぁ!休みだァァァ!!!!
寝ます。おやすみ、みんな。
うち、□□駅まで来ちゃったんだけど…
え、私も今□□駅!
じゃ、カラオケ行かない?折角だし!
え、俺も行きたい!
行こー!
……
みんな、突然の休日に盛り上がっているようだ。
正直、僕も嬉しい。
電車が毎日止まればいいのになぁ…、なんて考えつつ。僕は最寄り駅で電車を降りた。
「おー、今日は学校あるのかー。」
んーっと、僕の友人が腕を伸ばす。
「確かに、今日も電車止まっちゃえばいいのにな、とは思った。」
「あー、ね?」
僕の言葉に、彼はニコニコとして返してきた。
「あ、いっそのこと学校破壊しちゃおーぜ?」
「なんだよそれ。せめて明日学校が消えていることを願おう。」
「お前のほうがおかしいだろー!」
ケラケラと笑いながら、彼は僕にツッコミを入れてくる。
そんな日常が、こんなにも楽しい。
「俺、明日電車止めるよ。」
「何言ってるんだよ。お前にそんな権力ないだろ?」
「俺、神だから!」
何を馬鹿なことを言っているのだ、コイツは。
彼は、いつものように笑っていた。
次の日、学校からメールが着ていた。
本日、△△線が運行停止となっております。
登校のできない生徒がいるため、休校となります。つきましては…
本当に休校になった。
彼は本当に神なのかもしれない、なんて冗談めかして考えていた。
彼に明日会ったら、ドヤ顔されるんだろうな。
そう考えると、なんだか口角が上がってしまう。
口にこそ出さないが、彼は面白いやつだ。みんなを笑顔にすることが好きで、いつも明るい。
あんなやつになりたいと、そうぼんやりと思う。
今日も、クラスラインは盛り上がっているのだろうか?
LINEを開き、クラスラインを確認する。
今日も休校ー!!
やったぜ
また人身事故らしいよん
ラッキー☆
まって、学校に昨日お弁当忘れたからピンチ
やばぁ笑笑
誰かーーと連絡取れない?音信不通なんだけど。
確かに笑 昨日から連絡取れんなー。
ーー!生きてるかー?笑
おにぎり美味しい
おい、Twitterと、勘違いしてるやついる。
そこから、またみんなは他の話をし始めたようだった。
ーーは、昨日俺が話していた友人だ。
連絡取れないって…。スマホの電池でもなくなったのだろうか?
本当に電車止まったなー!
と。そんな他愛ない連絡をしようと思い、彼のLINEを探す。
彼から、ニ十分前に連絡が着ていた。
ほらな、止まっただろ!
と。
学校から連絡が来たのは五分前。
ガチで予言じゃん。そんなことを思った。
「昨日、ーー君が亡くなりました。」
翌日、学校で担任の教師がそんなことを言った。
一瞬、教室がシンとなったあと、ザワザワとみんなが、騒ぎ始める。
「な、なんで!」
「病気とかじゃなかったよな?」
「事故、とか?」
彼はクラスの人気者だった。だからこそ、衝撃は大きかった。
「ーー君、昨日線路に飛び込んだんです。」
先生が、俯いてそう、ポソリと呟いた。
その時、僕は思い出した。
彼が、「電車を止める」と言っていたことを。
先生は、言葉を音にすることを続ける。
「ーー君が、家で暴力を受けていたことが昨日わかりました。恐らく、それが原因で自殺したんじゃないかと。」
苦しそうな顔をして、先生はそう言った。
クラスは、針を落としてもその音がわかるような静けさだった。
「遺書が、残っています。」
先生は、鞄を開けるとその中からクリアファイルに入ったルーズリーフを一枚取り出し読み上げた。
この手紙を読んでいるとき、クラスのみんなは笑顔だと思います!!
昨日、俺が死んだことで休校になったことでしょう。それで喜んでくれているといいな、と思います。
俺は、家では父さんに暴力をよく振られていて。母さんも、俺を殴ってきました。だから、死にたいとずっと思っていた。
でもさ、死ぬとみんなに迷惑がかかるんだ。だから、踏みとどまってた。
でもさ、今日気がついちゃったんだ。
人身事故なら、みんな喜ぶって。
人身事故って言葉だとさ、あんまりショック感じないみたいだよね、皆。
この言葉の裏では、誰かが死んでいるんだ。命のやり取りが行われているんだ。
でも、皆は学校がなくなったって、無邪気に喜んでいた。言葉の意味を、知らないかのようにさ。
俺は、みんなが学校で俺と仲良くしてくれて嬉しかった。幸せだった。
皆は、俺が虐待されているって知っても、同じように仲良くしてくれたか?
もう、辛かったんだ。だから、最後は皆に笑っていて欲しい。何も知らなかったように。
きっと俺たちは無知だから、幸せなんだ。
みんな、ありがとう。
休校 ぐらにゅー島 @guranyu-to-
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