03

 そして、


 アンが発動した炎系の魔法で、うんこが焼かれた。……メラメラと炎に包まれる。


 ああ、アンッ! あぁぁんッ!! マジかッ。マジでか。


 現実に引き戻されそうになる。が、それでも必死で抵抗して……でも、それでも。


 燃えさかり灰へと変貌してゆく(うんこが灰になるのかは分からないが、少なくとも僕の目には、そう見えた)うんこを涙目で見つめ、そして虚空へと手を伸ばた。今は、もう亡き、うんこを求め。パクパク、ピクピク、ポクポク、チーン、と……。


「というか、というかだ」


 僕の毛が逆立つ。金色に光り出す。豪(ごう)ゥ、っと。


「テメエの敗因は、たった一つだぜッ、魔王」


 不敵に嗤って僕の圧など利かぬとばかりに決して泰然自若な態度を崩さない魔王。


 なんじゃ? とか言いだして、のち大口を開けて大声で笑い出しそうにも見える。


 それでも僕は止まらない。止まるもんかッ!


「たった一つのシンプルな答えだ。テメエ……、じゃねぇけど、うんこを燃やした」


 それがどうした? という顔つきで見下ろしてくる魔王。


「ただ、それだけだッ!」


 カッ!?


 目もくらむ、まぶしい閃光が辺りを包んだ。


 まあ、アレだ。魔王は死んだ。僕のパンチ一発で。以上。


 そして大団円と言いたいところだが、そうはいかない。ここで現実に戻るわけだ。


 ようやく長い長い現実逃避の茶番が終わりを迎えたのだ。


 普通に目の前には、うんこがある。燃えて灰になったはずのうんこがだ。無論、おニューの靴にも、べっとりと、うんこがついている。頬に水滴が当たる。それを合図に、堰を切って、シャワーを全開にしたような雨が、どしゃぶってくる。


「だよな」


 雨の中、更に悲惨な事になってしまった靴を憎々しげに見つめてから、つぶやく。


「現実逃避したってしゃねぇよな。踏んじまったもんは踏んじまったもんだからさ」


 哀しくて寂しくて……、どうしても出てしまった独り言。


 魔王が本当にいて本当に戦闘していての方が、まだ、いくぶんか救われる。クソ。


「まあ、でも想像の中とは言え、世界を救ったからいっか」


 と僕は天を見上げて両目を細めて微笑んだ。


 雨が降る黒い雲が塗り込められた空には剣士と僧侶、そしてアンの笑顔があった。


 チッ!?


 それこそクソみてえな現実逃避だっつうの。


 いいわけあるか。誰のクソだ。クソったれがッぁぁッ!!

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救えず 星埜銀杏 @iyo_hoshino

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