第1章第3話 「ガッコウ」と「シュクダイ」

 翌日、俺は、ニコと合流し、モンスター討伐に精を出すことにした。早速、モンスターが現れる。ジェル10体。ナイフやなぎなたがジェルたちに当たっていく。すぐにジェルは魔石に替わる。最後のジェルを倒したとき、ビン詰めの液体が魔石とともに出現した。

「これはジェルエキス。これを調合すれば回復ゼリーやマジックゼリーができる。ほかに、ゼリー工場で引き取ってもらえる。私が持っておく。」

とニコが言う。こんな感じで、ジェルを追加で20体倒し、戦闘にも少しずつではあるが、慣れてきた矢先のことであった。俺とニコの目の前にカッコウに似たモンスターが出てきた。

「何だよ。カッコウに似ているからって、ガッコウっていう名前かよ。こいつ。喰らえ」

「ダメ。ガッコウに攻撃し」

「チェンジアップ」

「遅かった」

確かに、ガッコウにチェンジアップが直撃したはずだ。しかし、ガッコウはノーダメージであった。そのことに俺が驚いている矢先、さらに驚愕の事実を目の当たりにするのであった。

「くそ。何なんだよ。どっからシュクダイとかいう鳥が出てきたんだよ」

そう、どこからか大量に出てきたシュクダイとかいう鳥のモンスターに一方的になぶられたのである。しかも、いくら攻撃してもダメージを与えることができない。俺とニコのHPが2になったとき、ガッコウとシュクダイはいなくなった。

「シンダラアカン。ヤト、大丈夫?」

「ああ。ニコは?」

「シンダラアカン。私も回復したし。それと、ヤト。手、手。」

「手って?あっ。なぎなたがない。どこ行ったんだよ。なぎなたは」

「ガッコウにとられた。ガッコウに攻撃すると、大量のシュクダイを呼び寄せて、一方的に襲撃される。そのすきにガッコウは自分に攻撃を加えた人の所持品とガッコウの卵とをすり替えるの。ごくまれに教科書とすり替えることもあるそう。」

俺は所持品を確認した。アイテムストレージには、なぎなたが消滅して、ガッコウの卵が1個あると書かれている。

「ちくしょう。俺のなぎなたは卵1個に替わってしまったのか」

「そう。仕方ない。今後は気を付けること。」

「それと、向こうで、男が1人でガッコウに攻撃しようとしているけど、あいつにも声かけとく?」

「今さら言っても遅い。」

案の定、坊主頭でひげを生やして日焼けした男は、ガッコウに攻撃を仕掛け、大量のシュクダイに襲われていた。男は、回復ゼリーを盗られたと言っている。ニコは、男に近寄って、シンダラアカンを唱えた。

「おう。サンキューな。あんた、すごいな。シンダラアカン使えんねんな。」

そう男はニコに礼を言った。矢継ぎ早に男は話しかける。

「俺、ピサロ・ジュニアちゅうねん。よろしくな。そういや、あんたらもガッコウの卵持ってはんの?よかったら、俺に譲ってや。お礼するから。」

「俺はヤト。そんで、こっちはニコ。こんな物持っててもむかつくだけだから、やるよ。それにしても、ピサロ・ジュニアは物好きだな。こんなの何に使うんだ?」

「俺、これでカステラ作ろうと思ってんねん。せや、明日、朝10時にチューレンの街のホテルキチンにきてんや。俺の作ったカステラやったらごちそうしたるわ。」

「いや、別に」

そうヤトが言った途端、ニコが言った

「カステラ。食べる。」

「でも、こいつが作るんだぜ。ちゃんと作れんのかよ」

「失礼なやっちゃな。俺はちゃんとうまいもん作れんねんで。」

「行こう、ヤト。ガッコウの卵あげて。」

「ニコがそういうなら…」

そうして、俺はピサロ・ジュニアにガッコウの卵を贈与した。そういえば、リアルの俺の身近にもカステラが好きな女がいたような。河川敷の公園で1人で投球練習している時によく出くわした女。そう俺はリアルのことを思い出しつつ。まあ、ピサロ・ジュニアの作るカステラには期待しないでおこうと思っている。ニコは俺につぶやきだす。

「ヤト。もうMP尽きた。もう呪文使えない。」

「なら街に戻るか。俺も武器盗られたし、新しい武器買わないとな」

「そうしよう。魔石、十分あるから。」

街に戻り、魔石をすべて換金したら、300ポルカになった。今日のジェルの魔石が1個10ポルカといった感じで、毎日魔石の値段が変わるらしい。今日の質屋の店員曰く、昨日の店員があまりにもケチすぎるっていうことだった。逆にジンパンチーの魔石は1個8ポルカだって言うくせに。300ポルカを2人で割って、150ポルカか。宿屋で20ポルカ使うとして、残り130ポルカで武器が手に入るのか、それと、ゼリーも買わないと、俺は不安に思っていると、ニコが言った。

「ヤト。ジェルエキスある。これ、ゼリー工場持っていこう。」

「そうだな。それと、残り130ポルカで武器買えんのかよ」

「お金足りないの?メルゾン。中古品の買取り、販売をしているお店。行こ?」

「そうだな。中古品でも、武器は欲しいな」

俺とニコはゼリー工場に行った。工場の受付嬢にジェルエキスを渡す。受付嬢は、

「これ、ジェルエキス。天然物はなかなか手に入らなくて。ハイパー回復ゼリーやハイパーマジカルゼリーの生産がなかなか進まなくて。これいただけるの。」

とはしゃいでいた。俺は

「そんなに貴重な物なんですか?」

と問う。

「そうなんです。貴重なんです。まず、ジェルエキスはなかなかドロップしないんです。お店で売ってるような回復ゼリーやマジカルゼリーは人工エキスで作れますけど、どうしても1個でHP・MPを全回復できるハイパーゼリーだと、天然のジェルエキスがないと作れないんですよ。それに、中にはジェルエキスを使って質の悪い密造ゼリーを作って荒稼ぎしようとする輩までいるから、なかなかこっちに回ってこなくて…」

「それは大変。で、ジェルエキス、いくら?」

ニコが受付嬢に問う。

「そうね。あなた方のステータスだと、まだ普通のゼリーで十分対応できると思いますから、回復ゼリーとマジカルゼリーそれぞれ30個ずつでどうでしょう?ここは物々交換でいきましょう。受付嬢の権限だと、金銭の授受はできませんので。」

「30個ずつ。足りない。もう少し。」

ニコが受付嬢にせがむ。

「うーん。では、34個。」

「足りない。」

「では36個。」

「全然増えてない。」

「では、40個ずつ。これ以上は増やせません。ごめんなさい。」

「40個ずつ。悪くはない。」

「おい、ニコ。それでいいのかよ」

「うん。正規品のゼリー1個8ポルカだから。」

「わかりました。では、契約成立ですね。ジェルエキスと回復ゼリー40個、マジカルゼリー40個と交換しましょう。」

こうして、俺とニコは40個ずつゼリーを受け取り、20個ずつ山分けした。

次に、メルゾンという店に行った。

「いらっしゃい。中古品のメルゾンへようこそ。どんな物をお探しかい?」

「そうだな。俺もナイフを装備しようか。ニコと一緒に鍛錬できるし」

「ナイフもいい。でも、私、武器変えようかなって思ってる。」

「どうしてだよ?」

「私、やっぱりナイフより、遠距離攻撃できる武器の方がいいから。正直、モンスターと近接戦闘するのは苦手。今はまだモンスターが弱いからなんとか対応できてるだけ。」

「そうなのかよ」

NPCの店員が言った

「だったら、ぼっちゃんが嬢ちゃんのナイフ装備して、嬢ちゃんが武器買えばいいじゃねーか。いいもん見つけるぜ。」

「そうしよう。か、な。」

ニコは言う。

「じゃあ、嬢ちゃん。こいつはどうだい?トレカフっていう拳銃さ。これで遠距離攻撃ができるぜ。値段は」

「他は、ない?」

「じゃあ、杖はどうだい?アイアンステッキ。こいつは振るだけで鉄球の出る魔法と同じような攻撃を加えられるのさ。」

「これ、ヤトと同じ。いい。これにする。」

「よっしゃ。値は張るぜ。250ポルカだ。」

「250ポルカ。私、持って、ない。」

さみしそうにするニコの顔を見て、俺は気が気ではなくなった。とっさに、俺は言った。

「おっさん、もう少しまけてくれてもいいじゃねーかよ」

「無理だよ。うちは商売でやってるんでね。」

「そこを何とか」

ニコは俺の袖を引っ張りながら、

「いい。あきらめる。」

「何言ってんだよ。そうだ。足りない分は俺も出すよ。遠慮すんなよ」

「本当?」

ニコは目を潤ませながら俺を見つめる。

「ああ。マジさ。ほれ。100ポルカ」

「嬢ちゃんの金も合わせて、250ポルカ。受け取ったぜ。その杖、大事に使えよ。」

ニコはアイアンステッキを受け取ると、嬉しそうに店を出た。

「それと、ニコ、今日の宿代ねーんだろ。よかったら、一緒の宿屋行かね?」

「同じ屋根の下、」

その瞬間、俺は顔を赤めた。なんと恥ずかしいことを。こんなの拒否されたらと思うと。それに、ドン引かれて、関わってくれなくなるのではないかと思うと、さらに不安になった。しかし、その心配も、少しほほを緩めているニコを見て、杞憂に終わるだろうと思う。

「うん。いいよ。ヤトと一緒の宿屋。」

まあ、ニコがまんざらでもなさそうでよかった。

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欲望渦巻く中年男らが開発したオンラインゲームの世界に転送された少年 @f10698NaSa

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