第1章第2話 ニコと「シンダラアカン」


 俺には、なぎなたの競技経験はない。勇人は、小学生の時からずっとスポーツは軟式野球一筋であった。正直なぎなたを持って街の外でモンスターと戦えと言われても、困惑するほかない。そこで、街の外に出た俺は、ステータスを確認することにした。

「なになに、LVは1で、って当然か。最大HPは50で、最大MPが30で、敏捷がH20で、攻撃力がI15で、守備力がI17で、魔力がI10で、魔法耐性がI10、幸運がI12で、技量がI4、スタミナがG30か。そして、特技が、プレゼントで習得した「チェンジアップ」って?」

 チェンジアップという単語を見た瞬間、俺は、リアルでのことを思い出し、腕を振っていた。勇人は私立進学校の中高一貫校の軟式野球部に所属していた。学校での練習だけでは物足りず、普段から、母親に図書館で勉強するといって、夜遅くまで河川敷のグラウンドで投球練習をしたり、朝から自習するといって、開門する7時には学校に行き、ブルペンで1人でピッチング練習をしていた。俺の持ち球の1つのチェンジアップを投げるような感じで、シャドーピッチングをしていた。まあ、しばらくはモンスターに対しては、なぎなたを振って倒せばいいか。序盤だし、簡単に倒せるモンスターしか出ないと、俺は思っていた。この後すぐにジンパンチーとかいうモンスターとワライグマとかいうモンスターにエンカウントするまでは。シャドーピッチングをしているヤトの前に、ジンパンチー1頭が姿を現した。ヤトはジンパンチーに向かって、なぎなたを振り下ろした。しかし、ジンパンチーによけられた。ジンパンチーはヤトを殴ってきた。痛い。そして、10もダメージを喰らった。強い。逃げようとした。しかし、後ろからワライグマが出てきた。ワライグマは、

「ばーちゃんとバーでバーアソシエイトについて話した。」

と唐突に言ってきた。体が凍え、俺は8ダメージを喰らった。ジンパンチーは相変わらず攻撃を仕掛けてくる。残りHPも1桁となり、もう逃げ場所がなくなったと思い、あきらめていた俺の前に少女が出てきた。少女は素早くジンパンチーをナイフで刺した。そうして、少女が、

「キミもジンパンチーを攻撃。ワライグマは後。」

と大声で言ったとき、俺はあきらめの境地から復活をしたのであった。ジンパンチーになぎなたを何度も振り下ろし、なんとかジンパンチーを倒したのを見計らって、少女は大声で叫んだ

「ところで、キミ。どんな呪文を覚えてるの?」

「俺?確か、チェンジアップっていうのを覚えているけど」

「なら話が早い。チェンジアップって叫びながら、思いっきりチェンジアップを投げるような感じで、ワライグマに向かって腕を振って。手の握り方もチェンジアップを投げるように、ね。」

なんか、ワライグマが言っているけど、聞こえない。

「本当に効果あんのかよ。でも、このままだと倒されるし。いくぜ、チェンジアップ」

そう言って、チェンジアップを投げるように腕を振ると、手から鉄球が飛び出したのであった。それがワライグマめがけて飛んでいく。ヤトの手から飛び出した鉄球は、チェンジアップの軌道を描き、ワライグマに直撃した。ワライグマを倒した。

「これがキミの使える呪文。すごいじゃない。はいこれ。ワライグマの魔石。」

そう言って、少女は、俺に魔石を差し出した。

「さっきは助けてくれてありがとう。俺はヤト。よろしくな」

「私は、ニコ。ちなみに今私が使える呪文はこれ。シンダラアカン。」

そういうと、なんと、俺のHPは全回復したのであった。

「すごいな。シンダラアカンって」

「シンダラアカンは、回復呪文。私は今これしか使えない。あとは、バタフライナイフで攻撃をするぐらい。」

「ところで、さっきは、モンスターに襲われていたのに、なに悠長にレクチャーしてくれたんだ?」

「ワライグマはね、つまらないギャグを言って、凍えさせるっていう全体攻撃をしてくる、の。ワライグマの攻撃を避けるには、大声で話したりして、ワライグマの声が聞こえないようにしないといけない。」

「そうなんだ。それはどうも。お互いがん、」

そう言おうとした時、ニコはこう誘ってきた。

「ねえ、ヤト。よかったら私たちパーティー組まない?私は今、近接攻撃しかできないし、あなたのチェンジアップで遠くのモンスターに対して呪文をかけつつ、私も近接攻撃をすればうまくいく、と思うの?どう?」

「お、俺でいいのか?」

「ええ。ヤトがいい。」

「俺も、1人じゃさっきみたいなときに心細いし、ニコと一緒なら助かるぜ。よろしくな。」

こうして、ヤトはニコとパーティーを組むことになった。

「私はレベル1。このゲームは、レベルはあまり上がらないけど、戦闘を重ねたりするにつれて、ステータスは少しずつ上がっていく仕組み。ヤトもさっきの戦闘でステータスが上昇したんじゃないかな。」

俺はステータスを確認すると、戦闘前よりもステータスが上がっていた。

「ところで、ヤト。キミ、どっかで見たことあるような、ないような...」

「何言ってんだよ。ニコ。俺たち今日このゲームに取り込まれたんじゃないか」

「そ、そうね。ごめん。リアルで、キミみたいな人、私よく見かけていたから。リアルでの話はこれ以上よそうか。」

「そうだな。って、おいニコ。またモンスターが出やがったぞ。」

次に出てきたのは、ジェル6体。スライム状のモンスターである。俺はチェンジアップを唱え、ニコはナイフでジェルを倒していく。その時、後ろから変な声がした。

「皆さん、選挙っていいですよね。ブスな人でもきれいって言ってくれるんですよ。自民党の選挙カーが来てもにこやかに手を振って、共産党の選挙カーが来てもにこやかに手を振って、ってそれ八方美人じゃねーか。」

俺とニコは凍えて7のダメージを受けた。声の主はワライグマだった。

「ニコ、俺はワライグマを攻撃するぜ。喰らえ、チェンジアップ」

しかし、俺の手からは鉄球は出てこない。

「くそ、どうなっているんだ。チェンジアップ。チェンジアップ」

「私、ジェルをやっつけたから、今からワライグマを倒しに行く。」

「こうなりゃ俺も、なぎなたで、応戦するぜ」

「いいからヤトはそのままチェンジアップを唱えていて。大声で。」

ニコはワライグマをナイフで刺し、ワライグマは魔石へと変貌を遂げた。

「くそ、さっきはどうなってたんだよ。いきなり呪文が使えなくなるし」

「MPを使い果たした。MPを使い果たせば、呪文は使えない。でも助かった。呪文が使えなくても、大声で叫んでくれてたから、ワライグマの攻撃を受けずに済んだ。」

「そういうことか。それで、MPを回復するにはどうすればいいのさ」

「宿屋で休憩すれば回復。それと、マジカルゼリーでも回復できる。残念ながら、私はマジカルゼリーを持ち合わせていないから、街に戻ろう。」

「了解。こんだけ魔石があれば、一宿一飯を賄えるだけの金にはなりそうだな。

そうして、俺とニコは、街に戻り、魔石を換金してくれる質屋に行った。NPCの店の主人が言う。

「ジェルの魔石が1個3ポルカ、ワライグマが6ポルカ、ジンパンチーが10ポルカ。」

「あんなに大変な思いしてこれっぽっちか」

俺がつぶやいた。店の主人は、困惑したように

「不満なら、よそに行ってくれていいんだよ。でも、チューレンの街で、魔石を引き取っている店はうちだけだよ。おたくらのような初心者の冒険者がよその町に行けるの?」

「大丈夫。言い値で引き取って。」

そうニコは言った。

「いいのかよ。こんなケチな奴の言いなりになって」

俺は、とてつもなく不満で、納得のいかない態度で切り返した。

「仕方ない。これでも、お金をもらえるだけまし。」

「それじゃ、40ポルカ。」

そう言って、店の主人は40ポルカをニコに渡してきた。ニコは、20ポルカをヤトに渡す。

「大丈夫。1泊2食事付きで1人20ポルカの宿屋もあるし、これで今日1日は何とかなる。それじゃあ、また明日もモンスター倒して、修行しよう。」

「そうだな。明日は朝9時に街の正門前に集合するか」

「ええ。しばらくは、修行して、お金貯めて、装備揃えて、次の街に行けるようになるまで、修行。」

「明日も頑張ろうぜ」

そして、俺とニコはそれぞれ散っていったのであった。

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