バーには、猫と無愛想な彼女がいる

@hatimiya

猫は、チュールが欲しい

都内某所に猫がマスターをしているバーがある。

猫のマスターに美人のバーテンダーが話題を呼び、常に満席状態。そんな噂があった。

だが、実際は、


「にゅあー」

「マスター今週はチュール一本ですよ」

「にゃにゃ!」

猫は驚いたように目を大きく開く。

「そんな目で見てもお客様が来ないんですから」

「にゅあー」

「ダメですよ」

バーテンダーの残念そうにそう返すのだ。表情は分かりづらい。

すると、入口のドアベルがなる。

本日、一人目のお客様だ。

「ニャー」

「いらっしゃいませ」


にゃ〜は、いわゆる前までは、捨て猫だった。

ある日横にいるバーテンダーの女性に拾われて今ここにいる。

いや、アレはスカウトだったに違いない。

名前はマスターと呼ばれている。

他にもっとかわいい名前でもよかったと思う。でも名前なんて関係ないにゃご飯と寝る場所さえあれば文句はないのだ、本当にゃ。

たとえマスターだとしてもにゃ。

にゅーの夜行性も相まって夜の仕事も問題ない。唯一問題なのは、乱暴にお触りしてくる客だけは、勘弁だにゃ、後はあの男だけはめんどいにゃ。

お得意だがら噛まないだけにゃ。

本来なら噛みたいほどめんどいにゃ。


「いらっしゃいませ」

カウンターの内側にマスター専用の布団がある。横にいるバーテンダーの女性で飼い主でもある黒瀬沙織が返事をしている。


「ニャー」

愛想よく返事をする。

めんどい客、渡が来たにゃ。

この客は、たまに来てはニャーを触りまくる厄介な客にゃ。

だけど、この男のおかげで客が増えた。

だから愛想は、大事にしないといけないにゃ。

猫なのに考えるなんてマスター業が染み付いてきた証拠にゃ。


「こんばんはーいやー繁盛してて嬉しいです」

「ありがとうございます。渡様。アドバイスをいただいてから以前よりお客様がお見えになりました」

「いやいや、ちょっとしたお話だけですので、お気になさらず。ロックでお願いできますか」

「分かりました」

そうこの男は、このバーが閑散としてきている時に、やってきた客。報酬を受け取らず毎週、経営のアドバイスをしてくれるよい人ではあるにゃ。

だけど、ヤバいにゃ。


店内のお客が、この男以外全員退店した時間になった。

来てくれるのは、女性客が多く閉店時間よりも早く帰ることが多い。

渡だけは閉店時間まで残ることが多い。

その理由は、


「聞いてくださいよぉ〜今日お仕事で、取引先の人が、」

始まったにゃ。

渡は、周りにお客がいないと泣き始めて愚痴を言い始める。

そして今度は、にゃーを泣きながら撫でる。

そんなに嫌ならやめてしまえばいいと思うのにゃ。

それと涙をにゃーに落とすのはやめてほしいにゃ。

「マスターは、やめてしまえと言っております」

「やっぱりそう思いますよね。さすが、マスターです」

にゃー特に口出していないが、ニャーの飼い主がなぜか代弁する。飼い主は、エスパーかと思うにゃ。

そして、それに納得する渡もおかしな奴にゃ。


「今日もマスターと黒瀬さんも閉店時間まで付き合ってくれてありがとう」

渡は、先ほどまで情けない姿から、できるサラリーマンに切り替わっていた。

「また、いらしてくださいね」

飼い主がそう言うと、

「ありがとうございます」

渡は、ほのかに顔を赤らめていた。

にゃ、その様子を見ると気があるかと思うにゃ。

「そんなじゃないですよ、マスター」

飼い主は、小さい声で返答する。

やっぱりこの飼い主はニャーの声が聞こえるに違いないにゃ。

だいぶ怖いにゃ。


ニャーほんの少し恐怖を覚えるも眠気に負けて寝るのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バーには、猫と無愛想な彼女がいる @hatimiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ