8 たからもの

「女の子だよ。名前は光璃ちゃん」


「ひかりちゃん……」


光り輝く私の宝物、という意味だよ、と菜々が言う。


「まあ、そう思えるようになれたら良いな、っていう願望だけどね」と菜々はぽつり、と言った。


「……というか、もっと他に訊くことなかったの? 性別と名前って」

はる子って質問が平和だね、と菜々は言い添える。


他に訊くこと、というと。

旦那さんはいるの?とか、学校はどうしてるの?とか、赤ちゃんは前から欲しかったの?とかそういうことだろうか。


 でも、それって菜々は答えたいのだろうか。きっと菜々にとっては「初めての質問」ではないだろう。何度も何度も、誰かに質問され続けて答え続けてきたものではないだろうか。



「……衝撃で頭が回らなかった」

わたしは半分だけ本当のことを言った。


そんなわたしを菜々は優しく笑っている。


「あ、でも他にも質問あるかも……」

わたしは二人で町を歩いてまわったことを思い返した。

菜々が「何?」と訊く。


「……なんであのときキスしたの?」

菜々は憶えてないとかそんなことを言うのかな、と思っていたら、「駅で別れたときのことか」と普通の表情で答えた。


 菜々は少し考える様子を見せてから、「あのね」と言った。

電車に乗ってるとき。本当はもっと前からはる子じゃないかな、って気づいてたんだよ、と。


でも、あの日、学校が最後だったから、思い切って声かけようって思ったの。


菜々はそんなことを言った。

わたしは驚きで目を見開いてしまう。


「はる子のことが昔、好きだったよ」


菜々は微笑んでいた。懐かしいもの。愛おしいもの。

それは過去の宝物を見る目だと思った。






【了】

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過去の宝物の話 夏来ちなこ @chi75_0805

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