第5話 朝チュンからのネタバラシ

 モゾモゾ、モゾモゾ……。


 なんだか、下半身に妙な違和感を感じて、俺は目を覚ました。

 重い瞼を開くと、部屋全体が見渡せる。

 どうやらもう朝になったらしい。

 すると、モソモソと布団の下の方で、何かが動く音と会話が聞こえてくる。


「うわぁっ、凄い……お姉ちゃん毎日これを健康チェックとか言いながら視認してたわけ?」

「な、なんですか? 別にいいじゃないですか」

「いやぁーお姉ちゃんも隅に置けないねぇー」

「萌夏?」


 聞こえてきたのは、何やら話し込んでいる妹たちの話声だった。

 そして、凄い嫌な予感がする。


 出来ればもう一度、あの可愛らしい妹達がスヤスヤと眠っていた心地良い世界へと戻りたいと現実逃避してしまう。

 俺は一旦目を瞑り、もう一度眠りについてみようと試みることにした。


「くんくん、くんくん……うわぁすごい。お兄ちゃんの匂いが異常にするよ」

「ですよね。この匂いはもうギャンブルや薬物よりも危険なものですから」

「確かに……ってかごめん。私お姉ちゃんのことムッツリとか言っちゃったけど、その発言撤回する。さすがにこれは凄すぎて毎日嗅ぎたくもなるよ」

「ですよね、ですよね! 萌夏なら分かってくれると思ってました」


 眠りにつきたくても、妹たちのはしゃぎ声が聞こえてきてしまい、どうしても現実に引き戻されてしまう。

 これは完全に、唯華の朝のチェックとやらを二人でやってますね。


 兄として、妹たちの威厳を守ってあげるか、それとも兄としての貞操を守るべきなのか。


 俺の心は揺れていた。


 その間にも、妹達はウキウキとした様子で話し続ける。


「ねぇねぇ、お兄ちゃんのコレ。触ってみても平気かな?」

「なっ……ダメですよ! 神聖な場所なんですから」


 俺のモノに触れてみようとする萌夏を必死に食い止めようとする唯華。

 というか唯華は、俺のモノを神か何かと勘違いしてないか?


「でもでも、お姉ちゃんだって、本当は触ってみたいって思ってるんでしょ?」

「そそそそそそそんな事ないですけど⁉」


 唯華の動揺がすっごい。

 もう触りたいって言ってるようなものじゃん。

 お兄ちゃん的には、せめてもう少し本性を隠すなら隠して欲しかったよ。


「なーんだ。お姉ちゃんも興味津々じゃーん。それなら、問題ないよね」

「なっ、ちょっと萌夏待ちなさい」

「なに、お姉ちゃん。せっかく触ろうとしてたのにぃ―」

「ここは、二人同時に触れるというのはどうでしょう」

「えっ、どうして?」

「今から私たちは、お兄さんの聖域へお邪魔するわけです。であれば、二人でご奉仕してあげる方が、お兄さんも喜ぶと思いませんか?」


 ちょっと待て、触るだけって言ってなかったか?

 喜ぶって言い方絶対に可笑しいと思うんだけど。

 俺の認識が間違ってるのかな?


「確かに、その方が、夢の中でもお兄ちゃん喜ぶかもしれないね!」

「ですよね」


 なに萌夏まで納得しちゃってるの⁉

 ヤバい、ヤバい、ヤバい。

 これは本格的に止めに入らねば……。


「あれっ……ねぇねぇお姉ちゃん、お兄ちゃんのがピクンってなってる!」

「本当です。ピクンて動いてます!」


 あっ、マズい!

 二人に見られてるのが気恥ずかしくて、無意識のうちに動かしてしまったらしい。


「もしかしてだけどさ、お兄ちゃん、実は起きてたりする?」

「ま、まさか……そんなわけないですよ……」


 怪しむ二人。

 直後、ぺろりと布団が軽く捲られた。

 じぃーっと感じる、妹二人の訝しむ熱い視線。

 俺は地蔵のごとく無表情を極め、呼吸を一定の間隔に整える。


「寝てますね」

「だねー」

「まだ起きる時間ではないですし、お兄さんにはゆっくり眠っててもらいましょう」

「そだね」


 そうして、二人は布団をそっと再び掛けてくれた。

 た、助かったぁ……。

 俺がほっとしたのも束の間、また二人が、怪しい会話を繰り広げ始める。


「ってことはお兄ちゃん、寝てる間も何かに反応してるってことだよね?」

「もしかしたら、私たちのことを考えてるのかもしれませんね」

「だといいなぁー」


 いや、確かに考えてるけども!

 というか絶賛起きてますけども!


「そ、それじゃあ気を取り直して……握る準備は出来ましたか?」

「私はいつでもおっけーだよー!」


 待て待て、今絶対握るって言ったぞ!

 これは完全に、触る以上のことをしようとしているではないか。

 再び、俺はどうしようかと頭の中で急いで考える。


「それじゃあ、せーので行きましょう」

「うん、分かった」


 マズい、マズい。

 このままでは、俺の聖域が侵されてしまう!

 えぇい、もうこうなったら仕方ない!

 妹達には申し訳ないが、最終手段に出させてもらう!


「せーのっ……!」

「せーのっ……!」


 ヴァサッ……!


 刹那、俺は瞬時に布団をぺろりと捲り上げる。


 捲り上げられた先には、今まさに俺のリトルへ手を触れようとしている、二人の妹たちの姿がそこにはあった。


「お、おはようお兄ちゃん」

「お、おおおお兄さん⁉ あっ、いや違うんです。これはですね。お兄さんの朝の健康をチェックしようとしていて……」


 慌てて弁明する妹達へ、先ほどからずっと、二人の会話を聞いていたと伝えると――


「なっ……あっ……そ、そ、そそれはそのぉ……」


 口をパクパクとさせて、言葉が出なくなってしまう唯華。


「もう、寝たふりして、私たちの秘密話を盗み聞きするとか、お兄ちゃんも隅に置けないなぁー」

「感心している場合じゃないでしょ! お兄さん、これはですね。一時の間違いであって、いつもこのようなことをしているわけでは……」


 そこで俺は、実はここ数日間、狸寝入りしていたことを告げてみた。


「えっ……ちょっと待ってください。ということは、私がしていた行動、全部知ってるってことですか⁉」


 俺がコクリと頷くと、唯華の顔が真っ赤に染まり上がる。


「そそそそんなぁぁ……! わ、私、もうお嫁にいけません」


 唯華はその場にペタリとへたり込んでしまう。


「あーあっ、お姉ちゃん傷ついちゃった。てか、お兄ちゃん。寝たふりしてたってことは、私がキスしたこと、全部知ってた上で何も言わなかったんだぁー」

「なっ、キキキキキキスですって⁉ ちょっと萌夏、一体どういうことか説明しなさい!」


 ニヤニヤと嬉しそうな笑みを浮かべる萌夏。

 一方で、聞き捨てならない言葉を聞いて、すぐに復活を遂げて、萌夏に説明を要求する唯華。


 全く、この二人は仲がいいんだか悪いんだか。

 でも、二人のやり取りを聞いていて、俺はどこか心地よさを感じていた。


 この数日間、眠ったふりをしてみて、妹たちの秘密を色々と知っちゃったわけだけど、それはそれでまた新たな発見として知ることが出来て良かったのかなと思う。

 まあ、色々と突っ込みたい所も山々だけど、その問題に関しては、今度ゆっくり妹達と話し合って解決していくとして、今はこのかけがえのない時間を、もう少しじっくり味わっていようと思うのであった。

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眠ったふりをしていたら、妹たちが愛の言葉を囁いてきてキュン死しました さばりん @c_sabarin

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