第4話 夜這いPATR2
心臓がバクバクと脈打ち、緊張感漂う中、ぺろりと布団が両サイドの布団がほぼ同時に捲られて、涼しい風が入ってくる。
直後、すぐさま生温かい妹達のぬくもりが、俺の左右を同時に支配してきた。
ギシギシ、ギシギシとベッドが軋む音が聞こえてくる。
「お姉ちゃん、もうちょっとそっちに寄ってよ」
「これ以上は無理よ。そもそも、シングルベッドに三人で寝転がってる時点で無理があるんだから」
左右の耳元で、妹たちの会話が繰り広げられる。
吐息が耳に当たり、こそばゆい。
「まぁ、それもそっか。んじゃ、お兄ちゃんを起こさないようにして慎重に……」
刹那、柔らかい感触と温もりが俺の左半身に伝わってくる。
「密着成功♪」
「なっ……それなら、私だって!」
負けじと、唯華も俺に身体を預けるようにしてぐいっと密着してくる。
二人のぬくもりと女の子らしい感触と心地よい重みが加わり、さらに心臓が高鳴ってしまう。
「えへへっ……お兄ちゃーん」
萌夏は、先ほどと同じようにコテンと俺の胸元からわきの下辺りに頭を置いて、至福の声を上げた。
「はぁっ……これヤバい。お兄ちゃんのいい匂いが全体からぶわーって香ってくるし、体温も直接感じられてすごい安心する……。お姉ちゃんもやってみたら?」
「わ、私は結構です」
「えぇー。こんな機会、もう二度とないかもしれないんだよ? もったいないよ」
「そ、それはそうですけど……」
「そ・れ・に、お兄ちゃんは今寝てるんだし、何したって気づかれないって。いつもやってること以上のことしてもバレないよ?」
とんでもないことを言い出す萌夏。
まあでも、本当はがっつり起きてるんだけどね。
「そ、そうですね。お兄さんには気づかれないですし、少しはいいですよね……」
萌夏の口車に乗せられて、唯華も決心がついてしまったらしい。
俺の覚悟は全くついていないというのに。
「そ、それじゃあお兄さん、失礼します」
直後、右側の胸元辺りに、ピトっと唯華の頬が当たる。
「はぁぁぁぁぁっ……お兄さん、お兄さん、お兄さん」
すると、たかが外れてしまったのか、唯華が感極まった様子で頬ずりを始めた。
「ちょっとお姉ちゃん! そんなに動いたら、お兄ちゃん起きちゃうよ!」
「はっ⁉ そ、そうでした。私としたことが……。お兄さんの胸に顔を置いた瞬間、何もかもどうでもよくなって我を忘れてしまいました」
「全くもう、お姉ちゃんが普段から色々と妄想だけで我慢してるんだろうなとは思ってたけど、予想以上でびっくりだよ」
「なっ……萌夏に言われたくないですよ!」
「でも、ムッツリなのは事実じゃん」
「むぅぅ……後で覚悟しておきなさい」
どうやら、あれ以降、唯華はムッツリスケベであることを萌夏に周知されてしまったようだ。
「はぁ……これじゃあ、もう姉としての威厳が保てない」
「いや、元から……ってのは嘘で、別にそこまで酷いことは思ってないけどさ、お姉ちゃんはもっと、お兄ちゃんには素直に普段から甘えていいと私は思うわけ」
「そうはいっても、どう甘えたらいいか分からないんですから仕方ないじゃないですか」
「……お姉ちゃんって変なところで不器用だよね」
「ぶ、不器用とは何ですか⁉」
またもや言い争いが始まりかけたところで、萌夏が唯華の言葉を無視して、別の言葉を口にする。
「ってかさ、お兄ちゃんの心音、さっきから鼓動早くない?」
「えっ……そうですか? 私には普通に聞こえますけど」
目を瞑っていても感じる、ジィーッとした妹たちの視線。
ヤバイ、起きてるのがバレてしまう……!
俺は必死に呼吸を整え、心拍を落ち着かせることだけに集中する。
「お兄さーん。起きてますかー?」
「お兄ちゃーん」
二人の声掛けにも反応せず、ただひたすらに一定のリズムで呼吸を繰り返す。
「あっ、少し落ち着いてきたかも」
「本当ですね……。もしかしたら、浅い睡眠状態だったのかもしれません」
「まっ、起きてないからどうでもいーや。今日はこのまま、朝まで一緒に寝るんだし」
「そうですね。出来れば、私たちの夢を見てくれているといいですね」
そんな姉妹でのやり取りを交わしながら、お互いに身体の力を抜き、完全に添い寝する体制へと入る。
「お休み、お兄ちゃん」
「おやすみなさい。お兄さん」
そこで二人の声は途切れ、完全に身を委ねてきてしまう。
しばらくすると、二人は俺の胸元に顔を乗せたままスヤスヤと寝息を吐き始める。
どうやら、夢の中へと吸い込まれて行ったようだ。
妹二人に密着されて、ようやく呼吸も落ち着いてきた頃、俺は恐る恐る目を開いて様子を窺ってみる。
すると、そこには幸せそうな表情を浮かべて眠る、二人の妹の姿があった。
全くもう、俺の気も知らないで、心地よさそうに眠ってくれちゃって……。
でもまあ、普段と違う妹たちの一面が垣間見えて、ちょっとだけ嬉しさを感じている自分もいた。
たまにはこうして、妹に囲まれながら眠るのも、悪くないのかもしれないな。
そう考えたら、俺もどっと睡魔が襲ってきて、自然と瞼が閉じていく。
温かいぬくもりと幸せな感覚に包まれながら、ふわりと宙に浮くような感覚を覚えながら、意識が遠のいていくのであった。
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