第20話 夏だ、学校だ、戦いだ

 夏休みの早朝、真夏の太陽がこんにちはと顔を完全に見せる前に自転車で家を出る。

 暑さ対策として自宅の玄関前に水をまく人、植物を育てて緑のカーテンにしている人、いろんな人がいる。

 保が考える最大の暑さ対策は家から出ず、家でじっとしていることだ。

 町の図書館など冷房の効いた施設はあるが、家との行き帰りで汗をかくのでプラマイゼロと保は考える。

 早朝、十分程度とはいえ汗をかくには十分な時間だ。

保の制服は汗で濡れ下に着ている無地の黒Tシャツが透けている。

 手に持っているトートバッグには特別授業に必要な勉強道具一式と本、そして母が作ってくれた朝と昼のお弁当二つ。

 自転車置き場から下駄箱に向かうと、自分の下駄箱の前に女の子が一人立ってるのが遠くからでも分かった。

 うちの学校ではスカートに入っている差し色が学年で異なり、三年生が赤、二年生が青、一年生が緑、下駄箱の前に立っている女の子スカートの色は緑なので一年生ということになる。

 何してんだろうと思いながら近づいていくと、下駄箱前にある階段下の手前辺りでピピピと例の音が鳴った。

 その音に反応して女の子がこちらへ向く。

 その容姿は芸能人と言っても疑われないくらいに目を引きつける。

 黒髪ロングで顔はかわいいとキレイが六:四、姿勢もよくくびれもある。

「あっ、先輩お早いんですね」

 保が女の子が相手かと思っていると、女の子は自己紹介を始める。

「初めまして。一年Aクラスの志葉心と言います。お会いできて嬉しいです。先輩」

 両手を後ろに回し上半身を少し前に出して笑顔で自己紹介をしてきた。

そんな彼女の手には紙が握られていた。

「こうしてもう出会っちゃったからもうこれいりませんね」

 心はそう言うと手に持っていた紙をキレイに折りたたみスカートのポケットに入れる。

「先輩。抗って死ぬのと抗わずに死ぬのどっちがいいですか?」

 この子は何を言っているのだろう。

「どっちも嫌だが」

「そんなこと言わずに選んでくださいよー」

「じゃあ、抗う」

「……そうですか。じゃあ」

 そう言うと再びあの例の音が鳴る。しかも多い。

 心の後ろから三人の男がピピピの音を鳴らしながら出てきた。

 三人は彼女の前に彼女を守るような形で立ち並んだ。

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