二十三

 針が抜かれ、最後の治療が終わった。

「長くかかったけど、これでだいじょうぶ。腰と背骨にまじないをこめた。つぎに痛むのは年相応になってからさ」

「ありがとうございます。助かりました。腰痛では死なないといいますが、仕事がぜんぜんできなくなるのには困りました」

「お力になれてよかった。『尾上さん、お大事に』」いつものようにメモ板を娘にわたす。

 健は診察用の寝台から降りて服をなおし、頭を下げて外に出た。


 伸びをして市場に向かう。


 八百屋に奥様がいたので挨拶する。「お久しぶりです」「あら、おわったの?」「はい、今日が最終です。お世話になりました」「そうなのかい」


 しわを取れば娘そっくりだった。


「今日はどうしたんだい。市場なんかにきて」

「ええ、めずらしい茶が入ったと話に聞きまして」と店を指さす。

「ああ、それならあそこじゃないよ。もっと奥の店」

「そうなんですか。どうしよう。ここらへんくわしくないんですが」

「ついといでっていいたいんだけど、あたしも用事があるから。じゃ、地図書いたげる」


 エプロンから端切れを取りだし、木炭のかけらで書いた。


「じゃ、これ」

「ありがとうございます。では」


 端切れといっしょに渡された小さな包みを隠しに入れる。奥様はぽんと腕をたたいてくる。うなずいて別れた。


 人ごみを歩きながら、物事が転がりだしたのを実感する。


 でも、行きつく先はわかっている。


 ぼくは公務員。公の僕だ。市民の幸福を最大限にするためにできることはなんでもやる。


 願わくば、時代がなめらかに、静かに移っていきますように。


序 了

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異世界公務員の平穏な日々 -主は書類を受理された。主はその書類を見て、良しとされた。すると、法令が発効したー @ns_ky_20151225 @ns_ky_20151225

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