第3話 威厳

この世界は一見平和に見えて表面に見えない闇が多く存在する。

国に関する闇、世界に関する闇、時空に関する闇、次元に関する闇。

私は魔法が使える世界で最強の存在だった。

誰にも負けるはずがない圧倒的なパワー。それが私の取柄だった。

でも、一人だけ勝てない人ができた。

それは、落ちこぼれ中の落ちこぼれ。あぐらくん。

魔力妖力霊力といった特殊能力が一切使えないかわいそうと言えてしまえるぐらいの何の取柄もない凡人というのも甚だしいぐらいの落ちこぼれ。

数値で見れば最弱のあぐらくん。

あぐらくん・・・彼は・・・。

魔力に触れなかった。

妖力や霊力も同様。彼には触れないし見れない。

彼には幽霊が見えない。幽霊も彼が見えない。

だから、私が魔力のレーザーであぐらくんを焼き切ろうとした時も、ノーダメージだった。

気に食わない。

私こそが最強だったのに。

入学式後彼に命の駆け引きを申し込んで、あぐらくんがバックに入れっぱなしだったラップでぐるぐる巻きにされたこと、今でも忘れない。

許せない。

絶対に許せない。

「天野ー、今日はステーキにしてみたよー。」

・・・許せない。

「お風呂わいたから先どうぞー。」

・・・ゆる・・・せない。

「天野、もうすぐテストだろ?出そうな問題と答えと解き方と解説まとめておいたから使ってー。」

ゆるせな・・・。

「バイトお疲れー。迎えに来たよー。」

ゆる・・・。

「ん?あーまたお前のこと狙ってくる連中か。魔法世界の姫ってのも大変だな。よし、いっちょ運動してくるか。先寝ててー。おやすみー。」

憎めない。

普通ライバルとかならばもうちょっとイラつかせてくるものなんだけど。

あぐらくんはやさしかった。

異常なほどのやさしさを持っていた。

そんなある日、スーパーに一緒に買い物に来ていた時。

大量の荷物を(あぐらくんが)持ち、家まで歩いて帰っているとき、信号無視してすごいスピードで走ってくるバイクが一台。

魔法の力でぶっ飛ばしてあげようと思ったとき、あぐらくんが急に片足でバイクのフロントタイヤを蹴ってストップさせたことがあった。

その時知った。

あぐらくん結構人間離れしてた。

当時の様子を伊藤仁に解説してもらうと「哀昏は力強いから気をつけな。そうだな・・・力はメロス程度か。」

力はメロス程度のはず・・・あぐらくんのなぞがまた一つ深まった瞬間だった。

追記

私の力はベルゼブブ以上と言われたことがある。とてもいや。

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