スペック

@eno702

第1話 才能は残酷

人というのは残酷なものね。

自分が本当に欲しい能力は自分が持っていない能力という場合が多い。

例えばこちらにいる哀昏明くん。通称あぐらくん。

彼は「空を自由に飛びたいなー天野ー。俺に魔法を教えてください。」と頭を下げてきたことがあった。

しかし、彼には魔法の才能がなかった。

そもそも魔力自体がなかった。

そこで私は「君は魔力がないから一生飛ぶことはできない」と伝えた。

そしたら彼は・・・。

泣いた。

高校男子のガチ泣きはあまり見たくなかった。

でも私だって彼に持っていて私には持っていない。私が最も欲している才能がある。

それは・・・。

ペーパーテストの才能。

私は正直勉強が苦手。

彼曰く「覚えりゃいいじゃん。」である。

覚えられたら苦労はしない。

なのでもうちょっと深く相談することにした。

休日がかかっている。休日は絶対に学校に行きたくない。

「あぐらくん、どうしてもテストでいい点とりたいの。何とかしてほしい。」

お願いスタイル。恥ずかしいからあまり使いたくなかった。

あぐらくんは白いぼさぼさの髪を手でばさばささせながら「だって俺この前勉強教えたとき見事に赤点だったじゃん。俺教えるの無理だよ・・・自信ないよ・・・お前この前それでめっちゃ怒ったじゃん。俺もう怒られたくないよー。」と言い放った。

確かに私があぐらくんに八つ当たりしたのが悪かったかもしれないけど、助けてくれるくらいいいじゃない。

これだけはやりたくなかったけど、仕方ない。

上目遣いであぐらくんの見ている方向に回り込んで自分の銀の髪を手で口元に寄せながら「おねがい。」と言ってみた。

「いーやーだー」

そういってあぐらくんはピューンと逃げて行ってしまった。

相当八つ当たりしたこと根に持ってるみたい。確かに八つ当たりにテスト返却日以降数日間舌打ちし続けたりすれ違うたび蹴ったり叩いたりいやそうな顔したの悪いと思ってるけど・・・私相当ひどいことしてた。

よくよく思ったら私結構ひどいことしてた。

まずはあぐらくんの機嫌を取るとこから始めないと、と思ったけどそんな時間はないから伊藤仁に相談してみよう。

伊藤仁、私が経過している人の一人。彼が私を警戒しているから、私も彼を警戒している。でも、私も伊藤仁もあぐらくんのことしたってるから敵対はしないけど、仲よくしようとも思えない。

でも、今回は緊急事態。手を借りるしかない。

さっそく伊藤仁のアパートの部屋に・・・といってもお隣さんだけど。

伊藤仁の部屋に不法侵入。私に法は適用されない。

「お前・・・一言・・・せめてチャイム鳴らせよ。」

「小言がうるさい。テストがピンチだから何とかして。」

「お前、勉強しろよ。」

「無理だから相談しに来たのよ。」

「人に頼む態度ではない。」

ごもっとも。でもこいつにはどうしても媚をうったりしたくない。死んでもしたくない。

「まあいいや。裏技教えよう。」

こいつ優しいな。

「お前、魔法使えるんだろ?じゃあお前にしか見えない魔力痕跡で手とかに答えメモってテスト中見ればいいじゃん。魔力のこと先生が知ってるわけないし、絶対ばれないだろ。」

こいつ頭いいな。

「お前役立つな。じゃあ。」

「お前・・・いや、いいや。あぐらの同居人だしな。じゃ、あぐらに謝っとけよ。」

なんでそのことしってるんだろう。正直キモ・・・。

でも、謝らなきゃ。

掃除洗濯料理全部あぐらくんやってくれてるし、水道光熱費家賃ぜんぶあぐらくんが出してくれてるし・・・あれ、私もしかしておんぶにだっこ?

とりあえず教科書に書いてあるテストに出そうな問題や答えを腕に魔力で・・・。

・・・。

テスト範囲がわからない。

普段勉強とか何にもしない私がテスト範囲を知っているはずがない。

どうしよう。

「あ、天野?」

あぐらくんが急に話しかけてきた。

「どうしたの?いまから勉強しようと」

「見たらわかる。その・・・逃げて悪かった。天野がまじめに勉強する気になってたと俺、気付かなくて・・・。」

カンニングしようとしてた。私、めちゃめちゃカンニングしようとしてた。まじめのかけらもない。

「だから、俺が教えられるところは全部教えるから、応援するから!」

こいつ性格かわいいな。

「あぐら君・・・ありがとう。でも今回は私の力だけでなんとかしたいからテスト範囲だけ教えて。」

私の性格はかわいくなかった。

こうしてテスト範囲を教えてもらった私は、あぐらくんを「じゃあ一人で集中したいから」と言ってアパートから数時間ほど追い出して体中に公式とか漢字とか単語とか文法とかを書きまくってみた。

そして、テスト返却日。

伊藤仁に八つ当たりしに行った。

「伊藤仁、死ぬ?ここで死ぬ?」

「お前、魔力で作った痕跡の消える秒数くらい知ってるだろ。お前魔女なんだから。あと教科書の情報だけで問題解けるわけないだろ授業まじめに受けろボケめ。」

「今殺す絶対殺す。」

魔力弾丸を手にスタンバイさせると、玄関からあぐらくんが「天野、先生に補修の代わりに課題にしてあげてくださいってお願いしに行ったら通ったぞー。」と言いながら来た。

あぐらくん神!ゴッド!マイエンジェル!

「天野頑張ってたもんな。一生懸命指で手になぞって。」

あれはなぞってるんじゃなくて書いてるのです。

「だからさ、頑張ってるやつを放っておけなくて。よく頑張ったな!天野!」

心が痛い。あぐらくん純粋。かわいい。だけど将来がすごく心配。

「哀昏ー、こいつしっかりカンニ・・・」

私は過去一番の殺気を伊藤仁に向けた。

「まあ、かんにん・・・堪忍してくれな。じゃあ帰れ、よし帰れ、すごく帰れ、お前ら今すぐ帰れ。」

伊藤仁の「面倒なことに巻き込むな」という気持ちが伝わってきた。あんたが余計な事言いそうだったからなのに。

今後ちゃんと素直にあぐらくんに教わろ。

「あぐらくん・・・あぐらくんはどうやっていい点数とってるの?」

「別に大したことないさ。授業終わってから自分にわかりやすいようにデータを一度砕いてまとめる。」

あ・・・無理。

「安心してくれ!今日から俺がしっかりと天野を100点取れるよう導く!」

・・・ん?

「よし!まずは課題だ!先生から今回の教科書の範囲の練習問題大量にもらってきたからこれを全部解いて解けなかった問題全部詳細断片化してどんなに些細な「わからない」も無くすぞー!」

この時私は「純粋って怖い」とトラウマになった。

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