【短編】97%が女子のハーレム学園で貞操観念逆転を狙う!
棘 瑞貴
97%が女子のハーレム学園で貞操観念逆転を狙う!
私立女傑学園。
日本の未来を担う政界や財閥などの、高貴な身分の二世達が一同に集う超名門校。
そこは3年前まで女子高だったが、現在は共学の高校となっている。
通称ハーレム学園、全国の夢見る男子中学生はこの学園への入学を一度は考える。
だがしかし、現実は甘くない。
そもそも偏差値が全国でもトップを争う程に高く、更にこの学園は特殊な面接試験を突破した者のみが入学を許されるのだ。
試験内容は極めて異例。
各人のパーソナリティーによって内容は変わるらしいが、唯一の共通点がある。
──それは女子への服従を誓えるかという質問だ。
こんな試験内容おかしいだろう?
だが、それでも俺は心から満面の笑みで答えてやった。
「はいっ!!喜んで!!どんな仕打ちを受けようと私は貴校への入学を志望致します!!!」
──全てはハーレムの為にっ!!!
※
……そう思っていた時期が俺にもありました。
「おい、豚。早く黒板消せよ」
「ねぇ奴隷さぁん、私のご飯買ってきてー?勿論奴隷さんのお金ね♡」
「うわキモっ。視線合っちゃった……目薬目薬……」
教室内の29人、その全てから罵詈雑言を浴びせられる昼休み直前の俺──
1-Bと書かれたその教室で行われているのはいじめなんてものじゃない。
これは日常。
男は女の言いなり、簡単に言えば女尊男卑。
圧倒的男子の少なさによって起こるこの現象は、この学園の校則によるものかららしい。
安心してくれ。これは現実の話だ。残念ながらな……
「聞いてんのかよ豚ぁ!?さっさと消せっつってんだよぉ!!」
罵声と共に俺に投げ掛けられたのは俺のカバンだった。
せっせこ命令通り黒板を消してたのにこの仕打ち。
後頭部に直撃して床に落ちたカバンを見て泣きそうになる。可哀想にあんな女に触れられて……
「うげっ、菜々子ぉ豚のカバン触っちゃったよ!!」
「ちょ、ちょっと!止めてよ!ウイルスが移るわ!!」
「へへっ、食らえ豚ウイルス!」
なんだその小学生みたいな遊び。
四条コレラとか言われそうだな。
さて、入学して早3ヵ月。
俺の現状はお分かり頂けただろうか?
俺の扱いは奴隷、引いてはこの学園の男子は全てそう言う扱いだ。
──極一部を除いてな。
俺は俺の事を奴隷さんと呼んだ女の為に、購買を行う中庭の広場を訪れていた。
そこで見てしまったのだ。
極一部の男子を。
『キャーーー!!
『あぁ……今日も見目お美しいですわぁ……!!』
ちっ……俺の大嫌いな連中のお出ましだ。
購買に押し寄せる女子どもが奴らを発見すると同時に、その男達の為に道を開けだした。
奴らは4人パーティーの超有名財閥のご子息達だ。
パーティーの通称はF4──決してF4のFはフラワーではない。
その先頭に立つのが
長い髪をセンターに分けた王子様系の嫌味なくらいのイケメンだ。
性格も誰にでも分け隔てなく良い奴らしい。
鳳凰山、俺でも知ってる日本屈指の財閥だ。
金もあって、顔が整ってて、性格も良いという俺に無いもの全部持ってる奴だ。
そんな奴が他に3人も……
奴らだけは女子からの尊敬の眼差しを受けている。
まぁ当然だろう、奴らとお近付きになれればぶっといパイプが出来る。
女子達の中にも序列はあるからな。
弱めの立場の奴程近付きたいだろう。
だがそこまでなら俺もそこまで嫌わない。
奴らにも奴らなりの苦労があるだろうしな。
しかしっ!!
俺にはどうしても許せない事がある!!!
それが──
「ユリス!お待たせ!」
「ちょっと
「う、うっさいわね。早く会いたかったんだから良いじゃん!」
「やれやれ……あまりユリス様の品格を下げるマネは止して下さいまし」
──取り巻きのような女達10数人を連れた2人の綺麗な女生徒。
信じられるか?この2人、あのユリスとか言う奴の婚約者なんだってさ。
片方は本妻、もう片方は事実上の側室──いわゆる妾らしい。どっちがどっちかは知らんが。
ここ日本だよ?
金持ってたら何でもありかよ。
こんなの許される訳ないよなぁ???
俺は毎日毎日ゴミのような扱いを受けてるってのに、あいつらはハーレム生活を送ってるってのは。
あいつらは2年生だからな、いずれあいつらが卒業したら俺が天下を取ってやる……!
そう、この学園の生徒会長にでもなって女達が男に媚びるような、自ら体すらも差し出す貞操観念が逆転した学園にしてやる……!!
そんな尊大な復讐心を胸に、俺は奴隷として購買に残った焼きそばパンを手に取った。
……泣いてなんかない。
※
「なぁ光一、俺そろそろ限界かも……」
「どうしたんだよ
放課後、学園での唯一の避暑地である男子更衣室。
そこで数少ない友人、
「……俺さ、
「あぁ、そう言えばそうだったな」
その名前は例のF4の一人──じゃなかった、あのユリスとか言う奴の婚約者の片割れだった筈だ。あいつだけは一年生だっけな、興味無さすぎて忘れてたわ。
「で、それがどしたん?」
「今日の午後にさ、体育の授業があったんだけど──」
「もういい……それ以上傷口を拡げるな……」
「……うぅ……分かってくれるか……友よ……!!」
俺は晃峰の両肩に手を置き、涙を流した。
これはこの学校あるあるの一つ。
女子とペアを組まされて最大限の拒絶反応を示される、だ。
「俺……秋川と組まされた側なのに取り巻きが"お姉様が汚される"とか"死ね"とか……"呼吸したら妊娠させられる"とかさ……」
「やめろぉ!!それ以上は、それ以上は……!!」
涙がっ……!!
圧倒的涙が!!!
全寮制のこの学園の総生徒数は400人。
男子は僅か12人だ。
俺達一年生は一番男子の数が多く、各クラスに一人は男子が居る。ちなみに希望の世代と呼ばれているらしい。
いつもなら2クラス合同で行われる体育だ、男子が2人は居るから男同士で組めるって寸法の筈だが……
「た、たちばなくん……今日熱なんだって……!!」
「……分かる、分かるぞ……イツメンが休みだとそうなるよな、涙拭けよ……」
「ぐすっ……お前もな……」
しかし今の話、一つ疑問があるな。
「なぁ晃峰、そう言えば本人の秋川には何も言われ無かったのか?」
「え?」
晃峰は少し頭を捻った後、難しい顔をしながらもはっきりと告げた。
「そう言えば何も言われ無かったな。ま、まさか彼女、俺の事──」
「喋るのも嫌だったんだろ、夢を見るな。俺達の夢は入学式と共に終わっただろう?」
「……そうだったな」
忘れもしないよ、あの洗礼の日を。
まぁそれは今は良い。
俺にはそろそろ大事な用がある。
「さてと、それじゃ晃峰俺は先に帰るよ」
「なっ!お前、俺を一人にするのか!?いつでも一緒だって言ったろ!?」
「お前は俺の彼女か」
……そう遠くない未来でそんな風になってるかも、という想像が容易なのが怖い。
「今日は寮で先輩が待ってんだよ」
「先輩って……あの絶望の世代のか?」
絶望の世代──それは現在の3年生の事だ。
現在の3年生と言う事はつまり共学が始まった年の代って事だ。
更に恐ろしい事にこの世代の男子はたった一人。
つまり俺が言う先輩とは、この地獄のような学園生活をたった一人で生き抜いて来た、選ばれしドMエリートなのである。
俺なら友達が居なかったら一週間でこんなとこ辞めてる。
「そそそ。話があるからってさ」
「お前、謎にあの人と仲良いよな」
「俺にも何でか分からんけども。とにかくじゃあな晃峰!」
「おうよ。俺はもうしばらく一人でメンタル回復させてくわ」
それは本当に頑張ってくれ。
お前が学園を去ったら俺は死ぬ。死んじゃうよぉ。
※
学園の端に存在する、小さな花畑。
俺達男子寮はそんな綺麗な場所を抜けた先にある。
例の先輩が言うには元々掘っ立て小屋みたいな所だったらしいが、2年生が入って来て改善されたらしい。
まぁ2年生の男子はあいつらユリス達だからな。学園も気を遣ったんだろう。
「しかし相変わらず遠いな……」
場所自体は学園から歩いて1キロ強はある。
ドでかい学園なだけあって、敷地内を歩くだけで文句が出る。
だが花畑を通れるこの間だけは割と気分は悪くない。
が、ここで気分の悪い事態が視界に入ってしまう。
『いい加減にして貰えないかしら?あのお方にその小汚ない作法で近付くなと何度言えば良いの?』
『作法なんて関係ないでしょ!?大体そういうあんただっていつもいつもベタベタしてんじゃん!』
『
『いつもそうやって最後には正妻正妻って……!』
『ふんっ、妾の分際で何か仰いましたか?あなたなどいつでも代わりがいるのですよ?何なら妾など必要ないですのに』
『……っ……そ、それでもあたしは……ユリスを……!』
『大体その呼び捨ても気に入りませんわ。まぁ良いですわ、いずれあなたには一度痛い目を見て貰おうと思ってましたから。調子に乗って居られるのも今だけですわよ』
『か、勝手にしなよ!あたしは負けないから……!!』
最後にお互いが『ふんっ』と言ってお嬢様口調の日本人人形みたいなザ・大和撫子みたいな見た目の女が消えて行った。
……うげぇ……あいつらあのユリスの……
しかも少しギャルっぽい見た目の、金髪ロングの方が俺の通り道にしゃがみ込んでしまっている。
うわ、あいつパンツ見えそう。むむ、てかスタイルえぐいな。胸も制服からでも分かる、デカイ。
っとと、見惚れてる場合じゃなかった。
でもなぁ、あそこ通らないと寮に戻れないんだよなぁ……
仕方ない、何も見てませんよーて感じで目を合わせずに通り抜けよ。
「……」
しかし、俺が彼女の真横を通り過ぎて一歩目の所で作戦は失敗に終わる。
「ねぇ」
「……」
「ねぇってば!」
一度は華麗に無視したものの、二度目が飛んで来たので諦めて俺は振り返った。
「……んだよ」
極めてぶっきらぼうに、話し掛けんなオーラを纏いながら。
「さっきの……聞いてたんでしょ?」
「聞いてない」
「え、本当に?」
「あぁ、聞こえて来ただけだ」
「一緒じゃん……」
せっかく人が振り返って話してやってるのに、こっちを見もしない秋川。……だったよな。
「あのさ、俺忙しいんだ。さっきのなら誰にも言わないからもう良いか?」
触らぬ神に祟りなし。
それにこっちを見もしないならさっさと寮へ戻ろっと。
だがその時だった。
「待って!!」
「へ!?」
彼女は俺の腕に触れて来たのだ。
俺のカバンに触れるだけで菌がとか
「お、お前……何のつもりだ……!?」
「さっきの……聞いてたなら分かるでしょ。あたし、もうすぐここに居られなくなる」
「え……」
確かに痛い目見せるみたいなこと言ってたけど……
「精々嫌がらせ程度じゃないのか……?」
「あの女はもっと徹底的にやるわよ。昔から知ってるもん……本格的に鬱陶しくなって来たあたしを学園から追い出すくらいは平気でするわ……」
「へぇ……」
お前らの過去は知らんけど。
と、言うかだ。
「……あの、そろそろ腕離して貰える?」
「離したらあんた逃げるでしょ。もう少しあたしの愚痴に付き合いなさい」
「は、はぁ!?」
「……嫌なら良いわよ。だけど、だけどさ……!」
秋川は掴んだ俺の右腕に、キラリと光る涙を落とした。
「あたし……!今一人になったら死んじゃいそうなの……!どうしても、ダメ……かな……?」
こんな美人が一緒にいて欲しいと言って来て、断るくらいなら俺はこの学園に来ていない。
俺が自分に吐いた言い訳はこんな所だった。
※
教室丸々一つ分よりも大きな面積を誇る部屋。
そこには豪華な家具が用意され、一要人が住まう部屋なんだと認識した。
そう、ここは──
「どこでも良いわよ、適当に座って」
この学園に入学して3ヶ月。
──初めて女子寮、それも超VIPルームに来てしまつったーーーー!!!
「ちょ、ちょっとあんた鼻息荒いわよ……?」
「おっと……すまん、夢が……夢が、叶ったから……!」
「えぇ!?今度は泣いてる!?も、もう良かったわね、よしよし」
秋川はそう言いながら優しく俺の頭を撫でてくれた。
え?なにこの子超良い子じゃん。普通に惚れそう。
「ほら、そろそろ泣き止んで?泣きたいのはあたしなんだから」
「そ、それもそうだった。それで、俺はここで何をすりゃ良いの。抱いたら良い?」
「良いわけあるか!?あ、あたしこれでもフィアンセが居るんだからね!?」
「あー他に正妻が居る、ね」
「……」
……おっと……今のは失言だったかにゃ?
俺は彼女から少し離れたソファに座りながら謝罪する。
「……悪かった。だけどお前、俺を自分の部屋なんかに招いて本当に何のつもり?」
「ふんっ……言ったでしょ。愚痴に付き合ってって」
「けど……こんなのバレたらそれこそフィアンセに──」
秋川は悲しそうに笑いながら答えた。
「大丈夫よ……あの人はあたしなんかに興味無いから……」
「……それって……」
「そうよ、あの女……引いては
こいつらのお家事情は知らんが、どうやら秋川は極めて弱い立場に居るらしいな。
だけどあのユリスって奴は誰にでも優しいんじゃなかったっけ?
「あのさ、お前のフィアンセってもっと良い奴じゃないの?あんま知らんけど」
「……良い人よ。少なくともあたしは大好き。今まであの人の為に生きて来たんだもの」
「ならお前の事も平等に愛してくれるんじゃないの?」
「……あたしから男の子が産まれたらね」
「……!」
こりゃ恐ろしく前時代的な話になりそうだな。
そして俺のそんな予感は的中する。
「あたしはあの女が男を産めなかった時の保険。この時代にまだ男が家督を継ぐものとかやってんだよ……笑っちゃうわ。ユリスも言動、態度は優しいわよ?だけど心は開いてくれてない。どれだけ頑張っても……どれだけ人生を捧げても……!!」
再び涙を流し出した彼女に俺が出来る事はない。
だけど、こんな言葉を投げ掛けるくらいなら出来る。
「ならさっさと家出れば?」
「……随分簡単に言ってくれるわね……今さらそんな事……!」
「あんたが今まで積み重ねて来た重さは分からんが、簡単にそれを崩す方法ならあるぞ」
「? い、言ってみなさいよ」
俺は立ち上がって笑いながら手を差し出した。
「俺の彼女になればいい」
「は、はぁ!?」
俺は今日、学園に来て初めてまともな女と話せた。
それだけで俺は秋川を彼女にしたくなった。
それ程にこの学園の女の子どもは……ぐすっ……
まぁさすがに冗談半分だけど。
「別に俺じゃ無くても良いさ。男なんて学園を出れば腐る程居るぞ?ユリスよりも良い物件はそうそうおらんがな」
しかし秋川が俺の差し出した手を受けとる事は無かった。
「……その手を取れたらどれだけ楽でしょうね」
「なら取ればいい」
「無理よ──」
彼女は俺の腕を押し下げて、まだ涙の残る目で笑った。
「──あたし、ユリスの事本当に好きだもん」
「……」
「その、あんたがそう言ってくれた事、本当に嬉しかった。またたまにで良いから愚痴に付き合ってよ」
「……あぁ」
短い時間だったが彼女は満足したのか、俺に礼を言って手土産を持たせてくれた。
部屋を出る時にも彼女は笑っていたが、どうしようもなく痛々しく見えてしまったのが俺の頭にこびりついて離れない──
※
「遅かったな、我が生涯の友よ!!」
「うぃーっす……」
秋川の部屋を後にしてすぐに自分の寮に戻った俺が自室に入ると、暑苦しい挨拶をかます例の先輩が既に居た。
ぐるぐるメガネのぼさついたロン毛。
絶望の世代、
「何でもう居るんですか……」
「ハッハッハ!こう見えて我は器用なんだ。お主のザルなセキュリティを抜けるなど造作もない!!」
「さいで……」
俺はもう疲れてんだよ……
さっさと用件話して帰ってくんねーかなぁ。
「む?お主何かげっそりしてるな」
「きしょ!?何で分かるんすか!?」
「我がお主の事を大好きだからだ!!ガッハッハ!」
「うげぇ……」
俺は更に精神的ダメージを負いながらも、先輩が遂に本題を話し始めたのでそちらに耳を傾けた。
「それで、なのだがな」
「……はい」
「近々学園で戦争が起こるらしい」
「は???」
今何て言った?
「銃とかでドンパチやる戦争ではないぞ?言ってしまえば学園内戦争──生徒会選挙が行われるのだ」
「……!」
「気付いたか?お主の言っていた生徒会に入る機会がやって来るのだ……!」
何だと……!?
それが本当なら、俺の目的である──
「念願の女尊男卑を撤回する事が出来る……!!」
「その通りだ!」
「あれ、けど選挙って毎年年度末なんですよね?」
先輩は「あぁ、しかし」と続けた。
「今年の生徒会長が急に解散を告げたんだ。これは我の情報網からだが、とある勢力から圧力が掛かっている。それも恐らく春宮の奴から……!」
春宮って……秋川と敵対してた……?
「この学園の生徒会長は絶大な権力が有るゆえ、校則を変えるくらい朝飯前だ……我が生涯の友よ、お前にやれるか?」
「それって……」
「うむ……!!」
先輩は俺の両肩に手を置いてメガネを光らせた。
「お主が生徒会長になるんだ……!!」
「……!」
俺はすぐには返事をする事が出来なかった。
無理だ……今、二年生にはあのF4達が居る……
それに俺が一人頑張った所でそもそもに票は入らない……
「無理……ですよ……少なくとも三年にならないと……」
「……そうか……」
先輩もこの件に関してはしつこく言って来なかった。
……あまりにも勝率の低い勝負だと分かっているからだろうな。
「だが生徒会選挙はまだ来週まで時間があるらしい。我も準備だけは進めておくからその気になったら早く言うのだぞ!」
「……分かりました」
「それでは、アデュー!!」
そう言って颯爽と先輩は消えて行った。
生徒会選挙か……
念願ではあったが今はあまりにも俺は無力だ。
しかしいい加減このうんざりな生活を変えたいのも事実。
どうしようか、ぐちゃぐちゃと考えながらも一週間はあっという間に過ぎて行く。
そして生徒会選挙当日がやって来た。
※
『──以上を持ちまして立候補の挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました』
体育館の壇上の上でペコリと頭を下げる立候補者。
生徒会長への立候補者は延べて5名ほどだった。
そして最後の一人、
俺は結局立候補はしなかった。
人望のない今の俺には到底不可能だったからな。
三年生になった暁には必ずなってやるからな……!
その頃には男子も増えている筈だし!!
「いやぁにしても生徒会長を決めるだけですげぇ熱量だなぁ」
「それはそうだろう。この学園の生徒会長は絶大な権力があるのだからな、晃峰殿も立候補すれば良かったのに」
「ははっ、無理っすよ。女子の中だけでもカーストの上位の奴だけが立候補出来るんでしょ?無理無理」
「確かにカーストの低い者が立候補すればその瞬間叩き潰されるが必然」
俺の両隣に座る晃峰と先輩が話している。
こういう全校生徒が集まる時、男子は端の方に寄せられるんだ。まぁこれはこれで楽でありがたい。
さて、春宮のスピーチだが今までの誰よりも力強く、正直春宮で確定だろこれ……と思う程には圧倒的だった。
5分程のスピーチだったが、彼女は最後に自分が生徒会長になった際の公約を口にし始めた。
『それでは……
彼女はいつ見付けて居たのか、壇上の上からユリスを指差して告げた。
『ユリス様、私はあなたの
瞬間、体育館が黄色い悲鳴で包まれた。
びくっと肩を震わせた一人を除いて。
『つきましてはとある者をこの学園から追放しようと思うのですが……これに賛同して頂ける方はいらっしゃいますか??』
はぁ?何だそれ、そんなの誰もする訳──
──パチパチパチパチ!!!
え?嘘だろ?
ほ、ほぼ全員が手を叩いてる……!?
しかもあのユリスも……
お前には……もう一人大事にしなきゃいけない奴はが居るんじゃないのか……!?
「……ここまでやるか、春宮」
先輩がそっと呟いた。
「先輩、何か知ってるんですか……!?」
「少し、な。あの秋川というおなごを学園から追い出す為に春宮はずっと裏で動いていたらしい」
「……なんだそれ」
あいつはそのこと知ってたのか?
こんなの勝負する前に決着が着いてるじゃねぇか。
戦いの場にも立てない方が悪いと言えばそれまでだ。けれど会場のこの空気はあまりにも……!
あいつはどこだ!?
見回すと、一人だけ俯いているから
先週よりも泣きそうな顔して、どこか諦めたような雰囲気がある。
──お前はそれで良いのか……!?
こんな……勝負にもならないような事をされて……!
お前は人生を捧げて来たんだろ!?
俺は知ってしまったんだ。
彼女の胸中にある想いを。
それを知ってしまったら、あの涙を見てしまったら、動かずには居られなかった──
「お、おい我が生涯の友よ、どこに!?」
俺は立ち上がり、秋川の元へと走った。
僅かに気付いた女子達が汚物を見るような目でこちらを見ているが関係ない。
もう慣れっ子だ。
俺はすぐに秋川の元へと着いて、俯く彼女を見下ろした。
「おい、なに俯いてんだよ。お前このままだとあいつに全部持ってかれるぞ」
「……」
「聞いてんのかよ!人生捧げて来たんだろ!?こんな簡単に諦めて──」
秋川はぼろぼろになった顔で俺を睨んだ。
「っるっさいわね!!あたしだって、あたしだって諦めたたくない!!でも……もうどうしようも無いの……!!!」
「もう少し抵抗しろよ!じゃないとお前、本当にこのままじゃ……!」
「分かってるわよ!出来る事ならあたしだってやってる!でも見なさいよ、あいつはもう全部根回し終わらせてあそこに居る……!」
俺達の言い合いは体育館中に響いていた。
当然、壇上に居る春宮にも聞こえていた。
『……何かうるさいコバエが居るみたいですわね。ねぇユリス様、私あの二人が嫌いですわ♡』
それを聞いたユリスは立ち上がり、俺達の方へと歩き出した。
「すまないね。伊郷の頼みじゃ断れないんだ」
「お前……!秋川はお前にとってもそういう相手じゃないのか!?」
「違うね。彼女と伊郷じゃ価値が全然違う。彼女はただの保険、僕の心に居るのは伊郷だけだ」
その言葉を聞いた秋川が更に肩を落とす。
俺は、ここまで人をぶん殴ってやりたいと思ったのは初めてだった。
だが暴力じゃ何も解決しない。
今は生徒会選挙中だ、文句があるならトップに立って変えてやるしかない。
「そうか……事は簡単だったんだな……」
「! 光一、待てお前──」
俺が手を挙げようとした所で、いち早く俺のやろうとしている事に気付いた晃峰が止めようとそてくれた。だけど止まる訳にはいかない。
秋川は良い女なんだよ。
この学園でまともに口を聞いてくれた初めての女なんだよ。
それにな──
『1-B、四条光一!!今から生徒会長に立候補します!!掲げる公約は一つ!!俺が生徒会長になったら春宮伊郷!!キンキン喧しい女が俺は大嫌いなんだ!!お前がこの学園から出て行け!!』
『な、なっ……!?この無礼者……!!』
「ちょ、あんた、なにとんでもないことを……!?」
秋川俺の腕を振って青い顔をしている。
あぁ……やっぱおなごの感触はええのぉ。
「うるせーな。お前、こうでもしないと本当に学園から追放される所なんだぞ」
「だ、だからって何であんたが……!こんな事したらあんたまで……!!」
なんでって……
そりゃ決まってる。
「──お前の愚痴、また聞かないといけないからな。学園に居てくれないと俺が嘘つきになってしまう」
「……たった……それだけの為に……!?」
「男が頑張る理由はそんなもんさ」
嬉しかったんだよ、本当に。
それにもう後には引けん。
だから、俺に出来る事は一つ。
『この場に居る全員、俺に投票してね♡』
『するかっっっ!!!』
……約400人の人間から総スカンを食らったのはこれが初めてだった。
※
生徒会選挙は第一投票があり、1時間の後最終スピーチを持って生徒会長が決められる。
第一投票では2名までが勝ち残り、最終スピーチをする事が出来る。
結果は当然俺と春宮が残った。
あの女、俺を壇上で叩き潰すつもりらしいな。
ま、あいつの裏工作のおかげで俺は労せず最終舞台に上がれる。
「ももも、もう!?どうすんのよ!?このままじゃ負けて学園追放よ!?」
壇上の舞台袖、秋川がまた俺の腕をブンブン振っている。止めろそれ、ちょっと気持ちいいんだよ。
「うーむ……しかし、秋川氏の言う通りまずいぞ我が生涯の友よ」
「お、俺お前が居なくなるとか嫌だぞ!?」
ここには先輩と晃峰も来てくれていた。
丁度良い、先輩には聞きたい事があった。
「先輩、俺を生徒会長にする為の準備って結局なんだったんですか?」
「む?あぁそれはだな──」
先輩がおもむろに取り出したのは片手で持てるとあるブツだった。
「……先輩……これは……」
「うむ、然るべきタイミングで使えばおなご達の心を掴めるアイテムだ。これが我の用意した最高の武器よ!!」
「ちょっと
あれ、秋川にいきなり名前で呼ばれたような。教えてもないのに誰から聞いたんだ?
しかも耳元でボソッと止めろよぉ~。ドキドキしちゃう!
……しかし、先輩のこのアイテム……悪くない。
「秋川、大丈夫だ。先輩もこれありがとうございます。かなり助かりますわ」
「うむ、さすが兄弟。考える事は同じなようだ」
「……あ、あんた達、そういう関係なの……!?」
ちょっと顔を赤くしてんじゃねぇよ。
だが確信を持てた。俺ならやれる。
「良し、じゃあ皆行ってくる。バケツ持って待っててくれ!」
「うむ!」
「ば、バケツぅ……?」
「ほら、秋川も俺の付き添い人なんだから一緒に行くぞ」
「わ、分かってるって!」
俺は舞台袖の反対側に居るユリス達4人組みと春宮を睨んだ。
──覚悟を決めろ、俺。
ちょっぴり、いや、かなり気が進まないが、秋川を助けるにはこうするしかない。
行くぞ……!!
※
スピーチは最初、ユリスを引き連れた春宮から行われた。
『私、皆様の代表となれる日を夢見て本当に頑張って参りました。その全てはユリス様の為でもあるのですが──』
……あぁもうそれは腹立つ内容だったよ。
この学園の奴らは既に洗脳済みなのか、皆憔悴しきってありがたいご高説を聞き入っていた。
『──そして、生徒会長となった暁には私の横に立つ薄汚いコバエどもは、きちんと掃除致しますわ。ね、ユリス様♡』
『そうだね。まぁでも謝罪があるならさすがに学園にいさせてあげても良いんじゃない?』
『まぁ!なんとお優しい!!私、やはりあなた様のお隣に居れて幸せでございます!!皆様、拍手を──』
パチパチパチ、と淀みない拍手が会場を包んだ。
こいつら、今すぐここから蹴り落としても良いかな?良いよな。あ、秋川の目が駄目って言ってる。ちっ。
大体、俺達が何を謝る事があるんだよ。
別に何も悪い事はしてない。
ま、これから起こる事に関しては少々悪い気もするが──
『それでは、続いてブt──四条光一、お願いします』
え、あの司会ブタって言いかけた?
……絶対忘れないからな。
俺が壇上のマイクを取った瞬間、会場からブーイングが巻き起こった。
『死ねぇー!!』『男が調子乗んな!!』『春宮様とユリス様に謝れ!!』『ちょ、あんまやったらヤバくない?一応相手は秋川家でもあるのよ……?』『春宮様が勝てば居なくなるでしょ、大丈夫よ』
とまぁこんな感じ。
いやー俺が勝つとは微塵も思われてないみたい。
ふっ、精々そう思っておけばいい。
すぐにお前ら女の価値観はひっくり返る事になる。
だがブーイングを見て心配したのか、秋川がそっと耳打ちをしてきた。
(ね、ねぇ……今ならまだ間に合う。家の力を使ってでも光一は学園に居られるようにするから、やっぱり止めよう?)
はぁ……なんでこいつだけはこんなに良い女なのか。
もっと好きになれる男を選べる環境に置いてやりたいもんだよ。
(それって、お前があの女に土下座でもして事を納めるって事だろ。冗談じゃない)
(じょ、冗談で済まなくなってからじゃ遅いの!光一は大財閥の力を知らないから──)
関係ない。
男には逃げちゃいけない場面がある。それがここだ。
「心配すんなよ、安心して見てろ」
「……バカ……!!」
そして、俺はマイクの先端を弾いた──
※
キィィィイン……!!!
ハウリングが鳴り響いて数秒待つ。
会場が一瞬の静寂に満ちた瞬間を逃さない。
『えーーー会場にお集まりの淑女の皆様どうも四条光一です。さて、現在私が勝つ可能性は非常に0に近いでしょう。そこで先ほどの公約にプラスして提案があります』
秋川がこそっと「今のハウリングわざと……」と呟いたが無視だ。
『私達には淑女の皆様を悦ばせるご用意があります。ですが残念ながらデキレースのような現状でそれをお見せするのは惜しんでしまうと言うもの。そこで──』
俺は静まり返った会場の様子を見ながら告げる。
『きちんと平等な民主主義に戻しましょうよ。その為に私は提案します。ユリス!!』
俺がユリスを指差した瞬間、会場が一瞬ざわついた。
『服を脱げ!!!今すぐ、ここでだ!!!』
『えぇぇえーーーっ!?!?』
会場は黄色い歓声に包まれたが、ユリスだけは冷や汗を流していた。
「ユ、ユリス様!必要ありませんわ、こんな輩の言うことなど……!」
「それは……どうしても必要なのかい?」
「こんくらいしてくれよ。お前、優しいんだろ?ほら、会場の皆様も待ってるぞ」
「ぐっ……」
女どもの目が完全にハートになっている。きっしょ……
『さぁ、そして、この俺も脱ぎます!!!』
『死ねぇ!!』『帰れ帰れ!!』『め、目がぁあ!!』
俺の肉体……滅びの呪文くらいの力があるの……?
上半身を脱いだ俺とユリスは向かい合い、俺は不敵に笑ってやる。
『これにて用意は整いました。それではいよいよ俺の提案を伝えます──』
俺は思いっきり息を吸い込み、大声で叫んだ。
『お前らぁぁぁあ!!!BLは好きかぁぁあああ!!!!』
『!?』
『俺がお前らに提案するのは一つ、俺もユリスを巡るヒロインレースに参加する事だぁぁぁぁああ!!!!』
『ぶほぅ!!』『や、ヤバイ……その展開はヤバイ……!』『む、胸が、胸がドクドク言ってるわ……!』
そして俺はズボンの裏に隠していた、先輩のリーサルウエポンを取り出した。
──BL本だ。
『これを見ろ!!!俺は男が大好きなんだぁぁああ!!!この学園に来たのも、女だらけじゃないと男を襲っちまうからだぁぁあ!!!ユリスがドタイプなんだよぉぉおお!!!』
酸欠になりそうになりながらも、俺は最後の行動に移る。
『今から証拠を見せてやる!!だから頼む!!俺がユリスとの蜜月を紡げるように、俺を生徒会長にしてくれぇぇえ!!!』
そして俺は隣でドン引いているユリスの体を抱き締め、思いっきり唇を奪ってやった。吸い尽くす勢いでな……
『キャァァアアアアア!!!!♡♡♡』
……この学園の女ってアホしかいねぇのかな。げふぅっ。
※
「うげぇぇぇぇええ!!!」
「バケツってこういう事だったのね……」
生徒会選挙が終わった舞台袖で俺は表現するのもおぞましい感触を吐き出していた。
「いやぁしかし我が生涯の友よ。我もあそこまでするとは思わなんだ。普通に引いたぞ」
「……お、俺も……関わり方考え直さないと……」
「……俺、あんなに頑張ったのに酷くない……?」
俺の頑張りの甲斐もあってか、選挙の結果は完全に同率。
勝つことは出来なかったけど負ける事もなく、あいつらには辛酸を舐めさせてやる事が出来た。
生徒会長になる権利は俺達二人に委ねられ、校則に則ればW生徒会長と言う形にも出来るらしい。
俺と秋川もこれで学園残留確定。
あいつらが余計な事をしようとしてもこっちの権限で却下出来る。
「……ま、とにかくこれで一件落着。俺は晴れてこの学園で彼女が出来る事はないがな」
そもそも今日思い知ったがここの腐った女どもは願い下げ、新入生に期待しよ。
「……ほら秋川、お前もいつまでここに居るんだよ。俺とのキスでぶっ倒れた愛しい人をみてこいよ」
「……うん……」
秋川だけはさっきからずっと俺の背中をさすって癒してくれていた。
だがこいつには心に決めた相手が居る。
いつまでも俺と関わって今よりも悪い立場にさせる訳にはいかない。せっかく学園に留まれたんだしな。
「……それじゃあたし……」
「おう……」
「……」
秋川は俺の傍から離れ、だがすぐに振り替えって可愛い笑顔を見せてくれた。
「お礼……絶対するから、元気になったらまた私の部屋に来なよ!!約束!!!」
……本当、ユリスなんかには勿体ない良い女だよ。
俺は口元を拭って、同じように笑って答えてやる。
「へっ、そん時までに沢山愚痴溜め込んどけよ」
「ひひっ、言ってろばーか!」
そうして走り出して、ようやく行ったかと思ったら少し遠くからもう一度だけ振り返って一言。
「光一ーーーー!!ありがとーーーー!!!」
手をブンブンと振って、彼女は消えて行った。
やれやれ……本当可愛いやつ。
「おい、光一……」
「我が生涯の友よ……」
ん?後ろから物凄い殺気が──
『また私の部屋って!?』
「おぉ!?」
──俺が寮に帰れたのは拷問を受けた一時間後の事だった。
※
その日の晩、自室で眠ろうとした俺の元に一通のメールが入る。
「誰だよ……」
霞む目でメールを開くと、そこには先輩から届いたメッセージが書き込まれていた。
「……?」
内容はこうだ。
"我が生涯の友よ!まずいぞ!!あのF4の4人がお主に報復を考えておる!!今すぐ学園を離れろ!!さもなくば我は生涯の友を失ってしまう……!!"
俺はこのメールに返事はしなかった。
来るなら来ればいい。
俺は最早この学園に未練はない。
唯一、あるとするなら……
──秋川のこれからを見届けてやれないことか。
俺はそうしてスマホを投げ捨てた後、目を閉じた。
が、しかし。
誰かが俺の体の上にのし掛かり、鼻を摘まんだ。
「光一、起きなさい。今度はあたしが光一を助けてあげる!!」
一ついいか?
……お前どっから入って来たんだよ。
【短編】97%が女子のハーレム学園で貞操観念逆転を狙う! 棘 瑞貴 @togetogemiz
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