文芸部の懺悔室

苦贅幸成

第1話

「この小説って、お前の実体験?」

 文芸部に入部してから初めての講評会。僕が初めて書いた小説を読み終えたブンタ先輩はそう聞いてきた。

「はい。大体の部分は」

「そうか…だとしたら、俺から言えるアドバイスは一つ」

 ブンタ先輩は、少し溜めてから言った。

「小説に実体験や自分の考えは入れるな。完全なフィクションを書け」


 先輩が言ったことを一旦は自分で考えてみる。しかし、僕にはそうしなければいけない理由は分からなかった。

「何故フィクションしか書いてはいけないんですか?」

「正確には、小説を書き始めて間がなく、書く実力がまだ備わっていない時期には実体験や自分の考えを小説に入れるなということだ。別に他人に見せないなら実体験を書いても問題はないが、書いたら誰かに見せたくなるものだしな」

 そして、先輩はそう思うに至った根拠を話し始めた。


 僕が入部する前に卒業した部員で、フミ先輩という人がいた。ブンタ先輩は入部して出会ったその日から彼女のことを好きになった。彼は自分のこれまでの人生の経験や学び培ってきた哲学をふんだんに入れ込んだ小説を書き、彼が入部して二回目の講評会で彼女に読んでもらった。

 彼女の感想が一言。

「割合詰まらない」


「えっと…まあ…そんな感じだ」

 話し終えた先輩は、話し始める前に比べて幾分か弱々しかった。

 要するに、自分のことを書いた小説を酷評されたらまるで自分のことまで否定されているみたいに感じて傷ついてしまう。だから、文章力が上がって面白い小説が書けるようになるまではフィクションを書けということか。


「先輩の言っていること、大体は理解できました。そして、聞いているうちに次の小説のネタも思いつきました」

「どんな話を書くんだ?」

「入部して早々に先輩の失恋話を聞かされる新入部員の話」

「言った側から」

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文芸部の懺悔室 苦贅幸成 @kuzeikousei4

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