第53話 魔国より帰還しました
”ギャオーーーーーーー!!”
ドゴーーーーーーンーーーー
ドラゴンの尾が目の前に迫り、僕が一部壊した壁が大きく崩れた。
『マズい、何とかルーチェからドラゴンを引き離さないと。』
僕はルーチェをその場に降ろし、背中のヴァリエールを振り払い、ドラゴンの前に飛び出した。尾を振り回し背中を見せていたドラゴンの後ろ脚を剣で切りつけた!
ユーリの攻撃!しかし間合いが遠い!ドラゴンは極僅かなダメージを受けた!
”ギャオ、ギャオーーーーーーー!!”
多少は痛みを感じたようだ。思惑通り僕のほうに意識を向けさせることができた。
しかし、デカい!!大きすぎて距離感が狂う。エウスターキオの山で見たドラゴンより小さいのかもしれないが、ダンジョンという密閉空間で至近距離で相対すると威圧感が半端ない。
僕はなんとか肉薄しドラゴンに斬り付けるが足にしか届かない。ドラゴンは滅茶苦茶に尾を振り回してくる。ダンジョンの広間はドラゴンの尾がギリギリ届くくらいの広さしかなく、僕は必死で逃げ回り、偶に尾を剣で斬り付けるものの嫌がらせ以上のダメージは与えられないでいた。
どのくらい、僕とドラゴンの攻防が続いただろうか。
ドラゴンの動きが一瞬止まり、上半身を持ちあげ、その大きな口が開いた。喉元が金色に光っており、その口からドラゴンの必殺技としては定番のブレスが吐き出された。しかも狙いは僕ではなく、僕が入って来た崩れた壁だ…
『ルーチェ!!』
僕は自分でも信じられない速さでブレスの軌道に先回りし、……ブレスを…斬った!
奇跡のようにブレスを剣で斬ることができたのだが…流石に硬直して動けない僕の目の前には、先程よりも煌々と喉元を輝かせ、十分に力を溜めた渾身のブレスを今まさに吐かんとするドラゴンが!
『ルーチェ!!』
せめて自分の体を盾にしようと、必死に動こうとするが体はいうことを聞かない。
そのとき、僕の後ろから凄い密度の攻撃魔法がドラゴンに放たれ、ドラゴンが吐こうとしたブレス諸共、ドラゴンの頭を吹き飛ばした!
ヴァリエールの攻撃!ドラゴンに大ダメージ!ドラゴンを倒した!
「ルーチェ!」
僕が崩れた壁の向こうを探すと、ぐったりした様子のルーチェと幼児化したヴァリエールが倒れていた。
「ルーチェ!……よかった、気を失っているだけだ。」
この様子から考えると、ヴァリエールがルーチェから魔力を吸い、自分の体内の魔力も限界まで使用し、ドラゴンを屠る魔法攻撃をしてくれたようだ。些か過剰な攻撃だったようで、ダンジョンの向かい側の壁に大きな穴が空いていた。
ここは、ダンジョンの最下層だ。目の前には王都のダンジョンで見たようなダンジョンコアが鎮座している。王都で見た物よりずっと大きくて立派だが、何故か同種のものだと直感的に分かった。
「やっぱり、コアを破壊するべきだよなぁ。」
コアを破壊すれば、魔物が発生しなくなる、ダンジョンとしての機能が停止すると考えていいだろう。魔国からの魔力の流出先がダンジョンだったということは、ダンジョンが魔力を吸い出していた可能性が高い。
「まあ、間違っていてもダンジョンコアを破壊するのは褒められることはあっても、文句を言われることはまずなかった…はずだ。うん、そうしよう。」
僕が剣の柄で強く叩くとダンジョンコアは呆気なく壊れた。
僕はドラゴンの魔石を拾い、ルーチェを背中に括り付け、ロリ魔女と化したヴァリエールを抱えて、ダンジョンから地上を目指すこととした。
「ダンジョンを出たら人の街が近くにあるといいなぁ。」
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変なフラグを立ててしまったのか、苦労して辿り着いた地上は森の中だった。途中でドラゴン以外の魔物がでてきたのでエウスターキオの”ドラゴンのダンジョン”ではないことは分かっていた。途中の階層にベースキャンプの跡等、人の入った形跡が見られなかったことから冒険者が継続的に探索しているダンジョンでは無かったようだ。
僕は2人を抱え、70階層から僅か2日で地上まで辿り着き、すぐに水場を見つけることができた。ルーチェと先ほど、久々のまともな食事…といっても木の実と焼いた魚だが、を済ませたところだ。ヴァリエールは食事は取らず僕に抱き着いたまま体力?魔力を回復しているらしい。
僕も流石に疲れていたのだろう。うとうとと居眠りをしてしまっていたらしい。
「これからどうするのだ?」
側で女の子の声がした。
見るとロリ幼女からは少し成長した姿のヴァリエールが僕のことを覗き込んでいた。急いで周りを探すと、魔力を吸われたのか苦しそうな様子で眠っているルーチェがいた。僕は急いでヴァリエールから守る様にルーチェを抱きかかえた。
「これからどうするのだ?話ができる状態が維持できる時間は長くない。そいつからはほんの少し魔力を拝借したが、ちゃんと手加減はしておる故、寝れば大丈夫なはずだ。」
「まずはルーチェを人の街まで送り届けます。
それはそうと、ドラゴンとの戦いでは助かりました。…ありがとう。」
「あのトカゲか、我が本調子であれば何ほどのものでもないが…それよりこれからの話だ。ここは魔力が薄すぎる。そなたの側に居ても幼女の姿を維持するのが精一杯だ。話をするにはそいつの魔力を拝借する必要がある。」
「どうしてもルーチェの協力が必要な場合は本人に同意を得てからにしてください。ドラゴンがいたところが、ダンジョンです。これは推測にしか過ぎませんがダンジョンがあなた方のところから魔力を吸っているの可能性が高いと思います。なのでダンジョンの機能を停止させれば魔国からの魔力の流出も止まるのではと考えています。」
「そんなことができるのか?」
「ダンジョンコアを破壊すればダンジョンの機能は停止します。さっきのダンジョンは既にコアを破壊したので機能停止しています。」
「なら、もう大丈夫ということかや?」
ヴァリエールが期待を込めた瞳で僕を見上げてくる。
「……残念ながら、人の領域にはダンジョンが数多く在ります。…と言っても100も200もあるわけではないはずなので、後何個かのダンジョンを機能停止にできれば、ヴァリエールさんたちのところでも目に見える効果がでてくるかもしれません。」
明らかに気落ちした様子を見せたヴァリエールを、励ますように僕は言葉を継ぎ足した。
「そうか、そうであれば急ぎダンジョンの討伐とやらをせねばならぬな。これからもよろしく頼むぞ!」
『あれ?僕がダンジョン討伐することになっている?』
勇者召喚されたけど状況に流されて生きていきます。召喚した側も行き当たりばったりでした。 壊れた木人形 @broken_wooddoll
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