第52話 ドラゴン!と遭遇です

 魔国で、言葉が通じる魔族と会うことができた。しかし言葉が通じるからと言って話が通じるわけではないようだ…


「えーと、外の世界を調べると言っても何か当てがあるのでしょうか?」

「ない。」

「えー、自信満々に答えられても困るのですが、それでは一体どうするつもりなのでしょうか?」

「お主を連れて外の世界を隈なく探せば、何か見つかるはずだ!」

「人の世界、外の世界は広いです。隈なく探すとかはムリです。」

「そうじゃ!我らは魔力の濃淡を感じることができる!魔力の洩れ出し先はきっと魔力が濃いはずだ!魔力の濃い場所を探せば良いはずだ!」

「どうやって探すつもりですか?」

「簡単だ。我らは魔力が欠乏した状態になると無意識に魔力を求める。我らが大挙して外の世界に行けば、やがて魔力欠乏を起こし、魔力の濃い場所に自然と集まるはずだ。」

「ちょ、ちょっと待ってください!それだとあなた方にも人にも多大な犠牲がでてしまいます!」

「それは、必要な尊い犠牲だ。問題が解決できれば我らにもお主らにも長期的に見て一番犠牲が少ない方法だ。そうだそれが良いな。」

「ちょ、ちょっと待ってください!そんな大事なことをここで決めてしまっては良くないでしょう!」

「いや、我が決めてよいのだ!」

 マズい、マズい。ロリ魔女が大挙して進攻したら王国も帝国も滅んでしまう。

「ちょ、ちょっと待ってください!そ、そうだ、魔力の濃淡を感じることができるのであれば、こちら側で魔力が薄くなっているところや魔力の流れが生じているところを探すことはできないのでしょうか?」

「むぅ~。」


 このようなやり取りがあった後、僕たちはヴァリエールと共にヴァリエールの記憶にある限り、一番最近になって魔力が薄くなったという場所にやってきていた。

 ルーチェは僕の胸にしがみ付いて離れない。かなりヴァリエールを警戒しているようだ。ヴァリエールは僕の背中に密着して3人一塊でよたよたと進んでいる。僕よりヴァリエールの方が背が高いので、僕はヴァリエールに抱きかかえられているように見えなくもない。

 ぺしっ

 ヴァリエールが伸ばした手をルーチェが叩いた。何度目だろう。

「ケチじゃのう。減るもんでもなし。」

「何言ってるか分かりませんが、魔力吸われるととっても怠くて吸われ過ぎるととっても苦しいんですからね!」

 ルーチェとヴァリエールは言葉が通じなかった。僕が言葉を理解できているのは被召喚者特典なのかもしれない。先の教皇様は魔族と会話ができたらしいが、彼も召喚された者だったのだろうか。

「勇者よ、ここは魔力が薄いのだ。その魔力タンクを使わせてくれぬか。こちらが大人しくしておるのをいいことに我のことを叩くのだ。」

 身体を幼児化すれば、魔力の薄いところでも活動できるが、知力・思考も身体に引っ張られるため、今は元の妖艶なおねーさんボディのままである。

「だめですよ。とりあえず僕にくっついて回復できるだけで我慢してください。ルーチェはお触り禁止です。

 それより、どこが魔力が薄いか分かりますか?」

「うー、この辺りはどこもかしこも魔力が薄すぎて分からぬ。強いて言えば元来た方が魔力が濃い。」

 うーんどうしよう。さっきからずっと同じ答えだ。魔力が一定以上薄くなるとヴァリエールの魔力濃淡探知は検知範囲外になるらしい。これでは人の領域に連れ出しても魔力の濃い場所を見つけるのは難しかっただろう。被害のでないこちらの領域で試すことができて良かった…と思おう。

 しかし、どうしよう。

「ユーリさま、ユーリさま、あっちに魔物が。」

 どうやらルーチェが魔物の気配を察知したようだ。小声で僕に伝えてくる。

「ヴァリエールさん、この辺りはダンジョンの外に魔物はいますか?」

「魔物?何それ?」

「えーと、ダンジョンにいるモンスターで、倒すと死体が消えて魔石を残し、レベルアップのための経験値にもなる不思議な生き物?です。」

 そういえば魔物って何なんだろう?

「何言っているか、全く分からんぞ。まずダンジョンとは何ぞや?」

「えー、ダンジョンは魔物が居る不思議な地下迷宮です。」

「話にならんの。」

「…僕もそう思います。…ルーチェが魔物の気配を感じたようなのです。そちらに行ってみましょう。」

「まあ、その魔物とやらを拝んでみるかのう。」


 ルーチェの案内で、魔物の気配がするという場所まで来たが、何も居なかった。

「ルーチェ何もいないね。」

「いないです。」

 ちょっとしょんぼりした感じのルーチェの頭を撫ぜる。

「まあ、魔物がいないのは、きっといいことだよ。」

 その時、僕の背中に張り付いていたヴァリエールから急に力が抜け、ドサッという音とともに崩れ落ちた。

「はぁーーーー。」

 大の字になったヴァリエールの口からは、苦しそう…ではなく幸せそうな声が…

「ヴァリエール!大丈夫なのか!」

「はあーーーー、生き返るわーー、ここだけ魔力が濃いの~。」

 大丈夫そうだ。

 ヴァリエールの頭の周りを調べると、小さな地割れがあった。空気の流れは感じられないが、魔力はこの地割れに吸い込まれているようだ。ルーチェはこの魔力が局所的に濃くなったところを魔物と勘違いしたに違いない。

「ルーチェ、お手柄だよ。ここが魔力の流出点に違いない!」

「えへ~。」

 褒められて、ちょっと締りのない顔だがそんなルーチェも可愛い。


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 僕はやり遂げた!

 あれから2日間、剣と鍋で地面を掘り、地面の下に空洞を見つけたのだ。どこかの洞窟に繋がっているようだ。

 しかしルーチェは限界が近い。今まで飲まず食わずで連れまわして元気でいたほうが不思議なのだが、この2日で一気にやつれが見えた。食料もほとんど残っていないし、鍋も穴掘りに使ってしまった。今すぐにでも人の領域に戻りたいがそれはヴァリエールが許してくれない。ヴァリエールは魔力さえあれば、1年くらいは飲み食いしなくても支障はないらしい。


「あっちじゃ、あちらに向かって魔力は流れておる。」

 ヴァリエールの案内で僕らは洞窟の中を進んだ。早く引き返したい僕の願いも虚しく延々と続いていた。どれくらい進んだのか良く分からなくなってきたころだった。

「行き止まりですね。」

「うむ、しかしこの壁の向こうに続きがあろう。」

 ヴァリエールの言うように壁にひびがあり、そこから明かりが漏れていた。

「では壁を壊しましょう。」

 僕は気が進まないながら剣を振り上げ、壁に振り下ろした。壁は思ったよりあっけなく崩れ……僕たちの目の前に現れたのは、大きな金色の爬虫類の眼だった。

 ”ギャオーーーーーーー!!”

「ドラゴン??」

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