第51話 ロリじゃない魔女さんがいました

「魔女さん、…また大きくなってます。」

 奥に進むにつれ魔族は成長した姿の者が増え、僕と同年代に見える者で占められるようになっていた。

「ルーチェのほうが美人だし、可愛いよ。」

「ユーリさま、わたし真面目なお話をしてますのよ。」

「うんうん、ちょっと怒った顔も可愛いよ。」

 ルーチェが隣で大きなため息をついた。この辺りの魔女は一日中眠っているようで、いきなり出くわしたり、いきなり攻撃されることがほぼ無く、僕は油断していた。


「これはこれは珍しいお客人だね。」

 背後で女性の声がしたと思うと、隣に居たはずのルーチェがいなくなっていた。

 僕の目の前には、魔族のおねーさんが妖しげな微笑みを浮かべ岩に腰を下ろしていた。その腕にはルーチェが拘束されている。しばらくは腕を振りほどこうと藻掻いていたのだが、今は諦めたのかぐったりとしている。

 周りの魔女とは一線を画した豪華なゴシック調のドレスを纏い銀色の髪はポニーテールに結ばれ、ややつり目の紅の瞳からは強い意志を感じる。

 彼女からは強者の雰囲気がひしひしと…感じられない。いやさっきの動きから彼女が強者なのは間違いないので、感じないのは僕のほうに原因があるのだろう。しかしきちんと整えられた衣装に比してポニーテールは不格好であり、何となく間が抜けた印象を受ける。

「ルーチェを放してもらおう。」

「!」

 彼女は吃驚した様子をしたあと、舐めるようにこちらを見た。

「勇者は我らの言葉が話せるのか?」

「何のことだ?」

「勇者は我のことは覚えておらぬのか?」

 何のことだ?こんな色っぽいお姉さんは一度見たら忘れるはずはない、が覚えはない。僕のことを勇者と呼んでいるが彼女は僕のことを知っているのか?

「憶えておらぬのか。酷い男だのう、あんなに熱き抱擁を交わした仲じゃというのに。」

「…」

「まあ、そんなに怖い顔をするな。ここはちょっと場所が悪い、着いて参れ。」


 ルーチェを抱えたまま飛ぶ魔女の後を必死で追いかけ、丸一昼夜程走ったところで、家が10軒ほど立ち並ぶ小さな集落に辿り着いた。建物は石造りの2階建てでエウスターキオならそれなりに裕福な平民の家といった立派なものだ。

 魔女はそのうちの1軒に入っていった。僕も慌てて後を追った。

「ここまで来れば、ゆっくり話をしてもよかろう。」

 キッチンらしきところに入った魔女は椅子に座り、向かいの席を指さした。綺麗に掃除されており、普段から手入れがされているように見える。

「ここは客に茶もでないのかい。」

「欲しいのかい?招いてもいない客だが歓迎はするぞ。」

「いや、やっぱり要らない。」

 不思議と疲れてもいないし、喉も乾いていない。

「う~~ん、ユーリさ~ま~。」

「ルーチェ、気が付いたのか、大丈夫なのか!」

 魔女にずっと抱きかかえられたままだったルーチェが小さな声を上げた。よかった、とりあえず命に別状はないようだ。

「ユーリさ~ま~、ダメです~、ちからが、まりょ~く~が吸われます~」

「ルーチェ!」

 力なくまた気を失ったルーチェを見て、僕は立ち上がり、テーブル越しにルーチェに手を伸ばそうとした。…が、その手は虚しく空を切った。

「これは、非常に良い物だ、勇者よ、これは我にくれぬか?」

「ダメだ!!」

「即答か、つれないのう。まあ勇者には恩もあるし、返してやろう。」

「ルーチェ!」

 魔女はルーチェを放し、僕はあわててルーチェを抱きしめた。

 よかった。ちゃんと体温は温かいし、息遣いもしっかりしている。

「勇者よ、お主がここに来たのも何かの縁だ。勇者よ、我らを助けてくれ。」

「??」


「では、あなたはルシエンテスの街に居たロリ魔女さん?」

「そうだ、本当に気付いておらんかったのか?あんなに熱き抱擁を交わした仲じゃというのに。つれないのう。この髪もそなたが結ってくれたというのに。」

 …だから髪型だけなんとなく洗練されてなかったのね。

「で、魔女さんたちは魔力が少なくなると体が幼くなって意識も保てなくなってくるということですか?」

「そうだ、話を逸らされた気もするが。まあいいだろう。我らは存在を維持するのにも魔力を必要とする。魔力が足りなくなれば、消費を抑えるために考えることを止め、身体を小さくするのだ。」

「魔力…ですか。」

「そうだ、昔はこの世は魔力で満ちていた。しかしある時からこの世の魔力はどんどん少なくなってきておる。我らの生きる世界はどんどん小さくなっておる。」

「えーと、…あなたは何故ルシエンテスの街に居たのでしょうか。」

「我のことはヴァリエールとでも呼んでくれ。我らも魔力の薄い場所に暮らす者も多い。が、何かの拍子に魔力の足りない場所に迷い出てしまう者もおる。一旦そのような場所にでて意識を失うと自力では戻ってこれん。我はそのような者を見つけ連れ戻すことをしておったのだが、不覚にも……」

「ミイラ取りがミイラってやつですね。」

 酸欠でも、いきなりバタって意識を失うらしいから、似たようなものかもしれない。

「では、ヴァリエールさんは何故戻ってこれたのでしょうか?」

「それは勇者が我の魔力を回復してくれたからだ。」

 ヴァリエールは立ち上がると僕の後ろに回り、抱き着いてきた。低い背もたれしかついていない椅子なのでヴァリエールの豊かな胸が押し付けられてドキドキする。

「こうして勇者と密着していると、魔力が満ちてくる。」

「えーと、でも僕は魔法は使えませんが?」

 動揺を隠して会話を続ける。腕の中のルーチェは目を覚ましていないはずなのに、僕の腕のぎゅっと掴んだ…ように感じた。

「そうじゃな。お主の中には魔力は感じられぬ、それは確かだ。しかしお主と居るとポカポカと温かく魔力が満ちてくる、それも確かだ。現に我は思考を取り戻し、同胞を引き連れて、ここまで戻ってくることができた。」

「…それで、ヴァリエールさんは僕に何を求めているのですか?」

 王国や帝国付近にいるロリ魔女を助けろと言われれば…無理だ。とても1人で対処できる数じゃない。それに元を断たなければ、増えるほうが圧倒的に速い。

「学者どもは、魔力が我らの地からどこかに漏れ出ていると考えておる。その洩れ出し先を探しに行って帰らぬ者も多い。勇者には我が外の世界を調べる手助けをして欲しいのだ。」

「えーとお断りすることは?」

「許さん、逃がさぬ。」

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