短編71話  数あるどんな感じにつづってますのん?

帝王Tsuyamasama

短編71話  数あるどんな感じにつづってますのん?

「みぃ~ずり~! おっはよー!」

 見事なる僕、階建かいだて 雪流ゆきるの先制攻撃!

「おはよ」

 それに対して、見事なる平牧ひらまき 水理みずりの鉄壁防御!

「今日も元気にいこーぜぇーいぇ~い!」

「ん」

 僕が高々と掲げた右手のVサインは、水理から『ん』の一文字を引き出す成果を上げた!

 水理と僕は、小学校からの仲である同級生。今年、中学生となった僕たちは、男子は学生服・女子はセーラー服装備になり、同じ一年三組のクラスとして、新たなる中学生生活が始まったのだった!

 水理は女子の中では髪がやや短め。肩にはかかっていない。部活は将棋部所属。

 徹底した防御戦法を得意とし、『アイアン・ミズリー』の異名があるとかないとか。

 部活だけでなく、普段の水理もなかなかの防御力! 具体的には、さっきみたいに返事は最小限。表情もほぼ変わらない。質問したら答えてくれるけど、水理から声をかけてくることは、なにかの用事でもない限りほっとんどない、など。

 そんな水理に対して、僕は今日も元気よく声をかけているのである! なんで返事薄いのわかってるのに、こんなことしてるのかって?

 ……好きだからに決まってるじゃん!

 え、どんなところが好きなんだって?

 小学五年生のときの運動会にて、四人五脚のリレーで、走り終わったときの水理の顔。一緒に息を切らせて座り込んだその次に、僕の方へ向いて見せてくれた、とびっきりの笑顔。あれが忘れられなくて。

 それが……何秒だったかな。五秒もなかったと思う。次は顔を下げて表情が見えなくなって、その次に顔を上げたら、もう無表情鉄壁水理だった。息切れは続いてたけど。

 その日を境に、僕は……水理に元気で過ごしてもらおうと、毎日奮闘しているのさっ!



 次の日



「おっはよ水理~、なに書いてるのかなー?」

「おはよ」

 いつものトーンでおはよを返してくれた水理。僕の耳は水理体調管理聴診器の機能も備わってるね!

 僕が声をかけると同時に、白いプリントが折りたたまれた。

「あ、それって昨日出た、国語の宿題の日記!?」

「ん」

 赤いふにゃふにゃ系筆箱と一緒に、机の中へしまわれちゃった。

 昨日の国語の時間に、日記の宿題が出たんだ。

 まずは自分たちで日記を書いて、教科書に載っている、昔の人が書いた日記と比べてみて、今と昔で日記はどういう違いがあるのかを考えてみよう。というもの。期限は明日あさっての土日を挟んで、月曜日の国語の時間まで。

「水理見せてよ! 僕のも見せるからさ!」

 ぷいって横向かれた。

 ちっちっち。トーシロ素人にゃわからねぇだろうが、これは拒否ってるんじゃねぇ。迷ってんだよっ。

 水理って、こう見えて愛想が悪いわけじゃないんだ。そりゃ言葉の文字数は少ないかもしれないけど、なにか言ったらなにかしらの返事はくれるし、頼み事をしたら引き受けてくれるし。

 たぶん日記だって、頼めば見せてくれるだろうと思ったから、僕は聞いてみたんだっ。

 で、この様子からしたら、そうだなぁ…………見せてもいいけど、やっぱどうしよっかなぁ、に一票!

 さて僕はどう出ようか。

「水理のことをもっと知りたいんだっ! 水理ともっと仲良くなりたいんだっ! 僕も日記を見せて自分をさらけ出すから、水理も僕に信頼を預けてくれないかーっ!」

 どうだっ! 水理ちょっとこっち向いたぞ!

 目が合った! ちょっと視線下がった。でもまた目が合った!

(どうだっ!!)

「……明日。公園で」

(きたっ!!)

 すごいいっぱい返事してくれたぞー!

「公園!? ジャングルジムとベンチしかないとこ?」

 うなずいた。そこは遊具が少なく狭いんだけど、小学校のときに、僕と水理が会ったことが何度かあったんだ。お互いの家から、それぞれ割と近いところにある公園だからだろうと思う。

 水理の家が詳しくどこにあるのかまでは知らないけど、団地内にあるのは間違いないと思う。

「昼の一時でどう!?」

「ん」

 よっしゃー! 水理と明日会えるぞー!

 ……実は。中学校に入ってからは、初めて水理と休みに会える日となったっ。



 次の日



 僕は水色の長そでシャツに、紺色のジーパン装備で出かけたっ。水色シャツなのは、もちろん『シャツもみずいろ~、なんちゃって~!』の技を使うためっ。

 ちゃんと日記も黒いカバンに入れて、いざ、水理のとこへ~!


 割と早めに出たつもりだったけど、公園に着いたら、すでに水理がベンチに座っていた! 他にはだれもいないや。まぁこの公園、遊具がジャングルジムしかないし。

 このベンチはオレンジ色ので、結構大きめ。昔は三人くらいが限界な小さい青色のだったけど、作り直されてBIGサイズに。こんなちっちゃい公園でも、ベンチを新しくしてくれる大人の人ありがとー!

 水理は薄い黄色のひじ先くらいまでのシャツ、その上に肩ひもタイプの黒い服、ねずみ色チェック柄の長いスカート装備だっ。靴は赤い運動靴。

「やあ水理~!」

 姿を見つけた瞬間に遠くから声をかけたので、んって言ってくれたのかどうかは、ちょっとわからないや。

 僕は早速駆け寄って、水理の右隣に座ろう。水理こっち見てる。声だけじゃなく顔見るだけでも元気度わかりますから!

「では早速、僕のから見ていいよ!」

 ということで僕は、カバンから折りたたまれた白いプリントを出して、水理に差し出した。

 水理は両手で受け取って、プリントを開き読み始めた。

 ちなみに僕が書いた内容は、今日も元気に過ごしました、これからもみんなを元気にしていきたいです、だから今日も元気に過ごします、僕にできることがあったらいろんな人の役に立ちたいです、だから僕は今日も頑張ろう。みたいな!

「……ふふっ」

(はっ!!)

 わ、笑ってくれた! 水理が笑ってくれたぁー!

(あいや笑ってくれたのはうれしいことだけど、一体どの部分で笑ったんだろう?!)

 読み終わったみたいで、渡したときのように折りたたみ、僕に返してくれた。もうこの時には、いつものノーマル水理の表情だった。

 水理は左隣に小さい白のポシェットを置いていて、そこから白いプリントを取り出して、僕に差し出してくれた。

「読みます!」

 僕はプリントを水理のように両手で受け取って、そして……開いた。

 そこには当然だけど、水理が書いた字が並んでいる。

 宿題の規定では百文字以内。いつも『ん』の一文字が基準な水理からすれば、こんなにたくさん並べられている水理の言葉、それを僕に見せてくれたことに感動してしまった僕。あぁ読まなきゃね。



今日も朝から気持ちが揺らぐ。

私はすでに気づいている。きっといつか、私は強くなれる。

強く、だけどしなやかに。私は今日も、日記をつづる。

明日は今日より晴れやかに。昨日と明日をつなぐ今日。



(こっ、これが……水理の日記!!)

 な、なんというか、これあれでしょ、知的センスっていうやつだよね?!

(あぁどうしよ。ますます水理の魅力にはまっていきそう……)

「んぇ?」

 僕が一人でじーんと感動していたら、水理が追加で……クローバーが角に描かれてる? 白い封筒? を、僕に両手で差し出してきている?

「それも~、日記?」

 首を横に振る水理。

「読んで」

「え、あ、うんうんもちろんっ」

 えっとプリントどうしよ。たたんでから水理の左手親指辺りに出しといて、僕はプリントと交換する形で、封筒を受け取った。

 開けるべく裏返すと、

「ぼ、僕宛て!?」

 小さくうなずく水理。

 なんかさっきの日記の字より、ちょっと丸い気がする。気のせい? でもこの『Dear 階建雪流様』……これもう国宝物じゃん。

 あぁ読まなきゃ読まなきゃ。かわいらしげなちっちゃいゆきだるまシールをぺりっ。封筒を開けると、中には一枚の便せん。

 僕は封筒を左手に持ちながら、便せんを開いた。



いつもありがとう。

いつも雪流が待ち遠しくて、学校の日が楽しみです。

でも最近は、学校の日だけじゃ足りなくて、

休みの日も会いたい気持ちになっています。


……もう言います。

雪流のことが好きです。

今日からいっぱい、遊んでくれませんか?


                  みずり



(こっ……これ、ってっ…………)

 僕はゆっくり、水理の方へ顔を向けた。

 表情は……いつもみたいだけど、口元を見たら、少し内巻きに。もうそれだけで、水理が気持ちを込めてこれを書いて、そして渡してくれたことがわかる。

「みっ、水理……あ、えと、ありがと! うれしいよ、うれしすぎるよ!」

 まずはお礼を伝えなきゃ!

(うおおーー!!)

 もうちょっと内巻きになったかと思ったら、少し顔を向こうに向けたー! 水理にとっちゃかなりのテレテレ表現だー!!

「僕も水理が大好きだ! 運動会のときからずっと! あぁきっともっと前からかも!」

 水理ちょっとこっち向いてくれた。

「ぁあぁとにかくもう水理が大好きすぎるから、今までずっと水理にしゃべりかけてたけど、正直嫌な思いさせちゃってたらどうしようと、思っていた部分もあったんだっ」

 もっとこっち向いてくれた。

「でも毎日の水理を見ていたら、きっと大丈夫! って信じて、ずっと声をかけ続けていたんだ! それでよかったなんて……そして僕のことをこんなに想ってくれて、うれしすぎるよ!!」

 じぃっと僕を見てくれている水理。

「お互い大好きなんだから、付き合おう! 僕の彼女になってほしい!」

 ああ言ってしまったついに僕ぅー!!

(ずっといつか僕が彼氏になれたらと思ってきたけど! ど、どうですか水理さん!!)

 お!? 両手が動いて、軽く組まれて、水理の首元辺りに。こ、これはどういう意味なんだろう?

「…………好きって書いたけど、大好きって書いてない」

(はっ!)

 僕は手に持っていた水理のお手紙を再確認!

「ほんまやーーー!!」

「……ふふっ」

(はっ!!)

 僕は急いでまた水理を見てみた。

(めちゃ笑ってるーーー!!)

 これまで水理のわずかな表情差も見逃してこなかった、水理表情鑑定士の僕だから、この笑顔は、運動会のときの達成感笑顔とはまた違う、新種の水理笑顔であることを認定しよう!

「……よろしく、雪流」

「こ、こちらこそ!!」

 水理笑顔建築士の資格も取れちゃったかもね!

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短編71話  数あるどんな感じにつづってますのん? 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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