一話
エスフォルナ国、ラリアの村
ラリアの村に入ると皆が挨拶して来る。リーナは寂しくなるなと思いつつ皆に手を振り返しつつ歩く。
「おや?リーナちゃん、どこかに行くのかい?」
「うん、ちょっとね」
旅に出ると言えば騒ぎになる。リーナは何も言わず村から出て行こうとする。
「…」
しかし彼等も大人だ。少女が旅立とうとしている事には気付く。そのため一人の男が村長の家に走って行った。するとすぐに巾着袋を持って帰って来る。
「リーナちゃん、これを持っておいき」
「先立つものは必要だろう?」
皆はリーナにゴールドが入った巾着袋を渡して来た。
「も、貰えないよ!」
リーナは首を振りこんな大量のお金は貰えないと言う。
「ほっほっほリーナよ、これはお主の祖母がワシに渡していたお金じゃよ」
リーナがブンブン!と首と手を振っていると村長が近付いて来た。
「お婆様が?」
「そうじゃ、シーナはいつかお主が旅に出ると言っておった、もしその日が来たらこのお金を渡してくれとワシに託したのじゃよ」
「そう…」
リーナは祖母が残していてくれた愛情の残り香を巾着に感じ抱きしめる。
「持って行ってくれるね?」
「はい、お婆様が私に託してくれたお金だから」
リーナは大切に鞄の中に巾着をしまった。
「あの叔父様、男の人が馬に乗ってこの村を通らなかった?」
自分に剣を託した男。その者が星巫女の里の場所を知っているはずだと思うリーナは男の行き先を聞く。
「見たよ!、川の方に向かって行った」
「そう!、彼にお話を聞かないといけないの!、だから私もう行くね!」
リーナはまだ走れば追い付けるかもしれない。そう思い走り始めた。
「必ず帰っておいでよ!リーナちゃん!」
「ここが君の故郷なんだからね!」
「うん!!」
リーナは皆に手を振り元気良く村から旅立つ。
ラリア平原
ラリア平原。過ごしやすい天候と環境の平原であり。ラリアの森の先にある。サカッチャ交易場に向けて走る馬車も盛んに行き来している平和な平原である。
「ふぅ、走った走った」
村が小さく見える距離まで走って来たリーナは振り返り故郷の森を見る。すると目尻に涙が溜まって来た。
「もう!泣いちゃダメ!、行くって決めたんでしょ!」
リーナは行く!とガッツポーズすると自分を奮い立たせ街道を歩き始めた。すると何やらカラスが騒いでいる声が聞こえて来る。
「なんだろう…」
リーナは何故カラスが騒いでいるのだろう?と思いつつ近付く。
「ッ!」
するとリーナは見つけてしまった。昨日自分に剣を渡した青年と馬が倒れているのを。
「君!」
リーナは駆け寄り彼を抱き起こす。
「ミーナ様?」
「ううん、リーナだよ」
「そうか、ここまで来たって事は剣を抜けたんだな」
青年は目がもうほとんど見えないようだ。そのためリーナをその母ミーナと間違った。
「うん、星巫女になったわ」
「良かった、奴らに対抗するためには、君に覚醒してもらうしかなかったから…」
青年はそこまで言って血を吐く。
「喋らないで!、村に行けば…」
「もう手遅れさ…」
青年はマントを捲る。そこには心臓の近くに突き刺さった矢があった。
「暫く隠れた後、街道に出た所で今さっきやられてこの様さ、俺はもう長くない、だからこれを受け取ってくれ」
青年はリーナに剣を渡した事を星巫女の里に報告するための帰路に着こうとしていたが。失敗してしまったのである。
「これは地図ね」
「星巫女の里の位置が記してある、なくすなよ…」
青年は再び血を吐いた。リーナは自分に剣を私に来たくれた青年が亡くなろうとしている姿を見て涙を流す。
「泣いてるのか、君もお母さんと同じで優しい子のようだ」
「泣くに決まってるよ、あなたのおかげで私はあの人達に殺されずに済んだのだから…」
「そうか…本当にミーナ様に似ている、そんな君ならきっと…」
青年が最後に何を言おうとしたのかは分からない。リーナは亡くなってしまった青年の手を胸に抱き暫く泣き続けた。
「せめてゆっくりと眠ってね」
泣き止んだリーナは立ち上がり使えるようになった星魔法で穴を掘り青年をその中に横たえ馬の隣に埋めた。
「どうか星のお導きがあなたに訪れますように…」
自然に浮かんだフレーズを唱えると青年の体が青く光り。その光は天に昇って行った。
「どうか安らかに…」
祈りを捧げ終えたリーナは再び歩き始める。
「…このまま国境に行かないと行けないんだ、大変だなこれは」
途中馬車に乗れれば楽だが。残念ながら乗り場がない。そのため国境までは歩くしかないだろう。
「時間はかかるけど歩くしかない、さぁ行くよ!リーナ!」
えいえいおー!をしやるぞ!とやる気を出したリーナは歩き始める。
「もう暗くなって来ちゃった…」
次の町まで距離があり。テントもない状態。リーナはどうしようかと周囲を見渡す。
「あっ」
すると少し遠くに小さな小屋を見つける。
「なんの小屋なのかな?」
小屋に駆け寄ったリーナは中を覗き込む。すると近くに見える牧場の資材置き場のようだ。
「ここ使わせて貰おう」
何もない平原で寝れば間違いなく魔物か動物に食われる。一人旅でそうならないようにするためには。このような場所で寝るしかないのだ。
「カンテラだ!油はあるかな?」
カンテラを手に取ったリーナは油があるか確認し。油が入っていたため置いてあったマッチで火を付けた。
「明かりがあると違うね」
そう言いながら箱の上に座った少女は夕食を食べ始める。
「うん、今年もよく出来てる」
食べているのは持って来た野菜だ。暫くは食べれなくなるであろう自分で作った野菜の味を味わいつつリーナはあくびをする。
「ふぁ…沢山歩いたし疲れちゃった」
野菜を食べ終えたリーナは眠る前に鞄を確認する。中にはまだ野菜とパンが残っている。
「次の町までどのくらい掛かるのか分からないし気を付けて食べないと…」
幸い食べる量は少ないため鞄の中の食糧でも三日は持つ。三日もあれば十分次の町に辿り着けるはずだとリーナは思う。
「お休みなさい」
箱の上に横になったリーナは剣を大切に抱きながら眠り始めた。
顔を朝日が照らす。リーナはその光に目を覚まして身を起こした。
「意外と気持ち良く寝ちゃったな」
腕時計で時間を確認したリーナは寝過ぎだと自分の頭をポコンと叩く。
「さっ行こう」
立ち上がり身の回りの準備を整えたリーナは小屋から出るとペコリと頭を下げる。ここにはいない持ち主に一晩貸してくれた事を感謝しているのだ。
「んー!、気持ち良い!」
サーと吹き抜ける朝の風がとても気持ち良い。その気持ち良い風を受けたリーナは時間はかかるがこうして歩くのも悪くないなと思う。
「それにしても何も見えないな…」
後ろを見れば村が小さく見えるが、前を見ても何もない。この街道の先に本当に村か町があるのだろうか?とリーナは思い地図を確認する。
「あるな…でも私が今どこにいるのかは分からないわ」
岩の上に座り地図を確認したリーナはとりあえず村があるのは理解した。
「このまま行ってみよう」
立ち止まっていたら時間がすぎるだけ。リーナはとりあえず前に向けて進み始めた。
「ほっ!」
リーナは星魔法を色々と試していた。
「キラキラしてて綺麗…」
青い魔力の中にキラキラした金色の粒子が混ざる星魔法。自分の手から出ているがとても綺麗だとリーナは思う。
「炎みたいだし、名前はスターファイアにしよう」
世間知らずな少女にネーミングセンスは期待してはいけない。
「これ以外はほいっ!」
星魔法を球の形にして投げる。すると爆発した。
「スターボム!」
星が爆発しそうな名前だ。
「そして最後!、スタードカーン!!」
最後は星魔法を貯めてから放つ技。ネーミングセンスに期待してはいけない。
「フッ、我ながら良い名前を付けたね…」
本人的には良いセンスのようだ。
「…いやドカーンはないな…」
思い直したようだ。
星を司る星巫女の物語〜森の中で暮らしていた少女は二つの世界を股にかけた大冒険を始める ブレイブ @barubtosu01
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