星を司る星巫女の物語〜森の中で暮らしていた少女は二つの世界を股にかけた大冒険を始める
ブレイブ
リーナ・スタフェルと言う名の少女
ラリアの森
魔法世界ラリアスターノにある。エスフォルナ国の北東に広がるラリアの森に一軒の小屋がある。その中には一人の少女が暮らしていた。
「お婆様…今日で亡くなってから五年になったね」
小屋の中で暮らしていた少女の名はリーナ・スタフェル。五年前まではこの小屋で祖母と共に暮らし。今は一人でこの森の中で暮らす少女である。
「ここを出ても良いんじゃないか?って町の人は言うけど、嫌…私はお婆様との思い出を大切にしたい、だからここにいるの」
リーナの祖母。シーナはかつて星巫女と呼ばれる存在であった。その力はシーナの娘ミーナが引き継いだが。ミーナからリーナに引き継がれる前にミーナが亡くなってしまったため。リーナはまだ星巫女の力に目覚めていない。
「星巫女の力がなくても大丈夫!、私にはこの鍬があるんだから!」
これが少女の口癖である。鍬で畑を耕し育てている山羊から乳を搾り生きているリーナにとって鍬は一番の相棒なのだ。
「はい!はい!はい!」
元気良く畑を耕すリーナ。鍬を振り下ろす度に金色の髪が揺れるその姿はとても力強く美しい。
「ふぅ今日はこんなものかな、明日には種を植えられるでしょう」
綺麗に耕せた畑を眺める少女は汗を拭き家の中に戻る。家の中には祖母の写真や両親の写真があった。
「お父様、それにお母様、なぜ亡くなったのかしら…」
リーナは知らない。なぜ両親が亡くなったのかを。祖母に何度聞いても教えてもらえなかったのだ。
「それを知るためには外に旅立たなければならない、でも何もない私が旅立って一人でやっていけると思えないのだもの…」
鍬を扱う技術と一通りの畑仕事の技能と料理に洗濯。この世界で農業をやっている少女達と同じような。あくまでも普通な少女であるリーナは自分が旅立ってもどうにもならないと思っている。だからこそ旅立つ勇気を持てず森の中でいつも通りの生活を続けているのだ。
「?」
汗を拭き終わり次の仕事について考えていると。馬の蹄の音が聞こえて来た。リーナは音がする方向を向く。
「やっと見つけた…」
馬に乗っていたのは一人の青年だった。
「あなたは誰?」
「お、俺はミーナ様からこれを君に託されたものだ」
そう言って青年はリーナに剣を渡す。
「これお母様の…」
リーナは青年が本当にミーナの知り合いなのだと思う。
「なら教えて!、お母様は誰に殺されたの!?」
「すまないが、それを教えている暇はない、俺は追われてるんだ、すまない」
追われていると言った青年は馬に踵を返させると森の中の家から離れて行った。
「これを渡すだけで行ってしまうなんて…」
リーナは胸に抱く剣を見てどうすれば良いのかしら?と首を傾げる。とりあえずは胸に抱きながら家のドアを開け机の上に置くと続きの作業を始めるのであった。
作業を終えたリーナは机の上の剣が目に入り近付く。
「これ、私に抜けるのかな?」
リーナは鞘に入った剣を手に取ると抜こうとする。
「な、何これ!?」
しかし剣はビクともせず抜けない。
「おかしいわ…普通の剣なら抜けるはず…」
リーナは目に入った自衛用の剣を見ると近付き引き抜く。
「これが普通よね、え、えい!」
星巫女は剣を扱い戦う剣士だ。リーナも一流の剣士だったと村で呼ばれている祖母や母に憧れているため。こうして剣を振るう練習を暇な時間にしているが。師がいないため上手く行かない。
ならば師を持とうと思っても村には剣士は一人もおらず。皆魔物や動物と距離が取れて比較的安全な弓を使う。そのため師になって教えてくれる人もいないのだ。
「い、今のは上手く決まったはず!」
自分で自分の剣の振りを評価した少女は上手く出来たはず!と頷く。実際はヒョロヒョロでブレブレな剣が上から下に振り下ろされただけであり。これで魔物や動物を斬る事は出来ないだろう。
「さて、本題に戻りますか」
私は出来てる!フンス!と腰に手を当てつつ少女は剣に再び近付いた。
「君何故抜けてくれないのかしら?」
首を傾げながら言った少女はもう一度抜こうとするがビクともしない。
「ダメだぁ…諦めよう…」
母と祖母の形見が戻って来たのだ。家宝として飾ろうと家の中を見渡したリーナは気付く。家の周りを動くランタンの影を。
「…」
リーナは思い出す先程の青年が追われていたと。ならその追っていた者達がここに来たのでは?と思ったリーナは机の下に飛び込む。その瞬間に窓が割れる音が響き沢山の矢が家の中に撃ち込まれた。
「いやぁぁぁ!!、なんなの!?」
無力な少女は突然の襲撃に悲鳴を上げるしかない。
「死んだか?」
「死んだだろ、村人の話によると、ここにいるガキは星巫女の子孫だそうだが、毎日あの畑を耕しているだけの普通の女らしい」
「なら大丈夫だな」
星巫女の子であっても血に覚醒していないなら問題はない。そう思う男達はドアを蹴り破り中に入って来た。リーナは身を震わせつつ近くに落ちていた母と祖母の愛剣を胸に抱く。
(いや!、いや!!、助けて!、お婆様!、お母様!)
生きているのがバレたら殺される。そう思う少女の瞳からは涙が溢れる。
「死体がないぞ、生きてるんじゃないか?」
「探せ」
入って来たのは足の数を見るに二人。リーナはこれなら家から飛び出し馬を奪えば逃げれそうだと思う。だからこそ必死に息を殺して。男達が玄関の反対側まで行くのを待つ。
「どこだ…」
「いなかったのか?、ならあの剣はどこに…」
(今だ!!)
男達が反対側に行った。リーナは机の下から飛び出し玄関に向かう。
「いたぞ!!」
「捕まえろ!!」
しかし…。鍛え上げた男と畑仕事をしているだけの普通の少女では運動神経からして違う。男達にあっという間に追い付かれたリーナはタックルを喰らい地面を転がった。
「へっ、手間取らせやがって」
「見ろよ、あの女に似て上玉だぜこいつは」
「うっひょー、乳でけー!」
リーナは村でも良く誉められるがかなりの美少女である。そのため怯えるリーナを見る男達は下衆な笑みを見せる。殺すには勿体ない女だと思ったのである。
「いや…来ないで!」
リーナは怯え来るなと言う。男達はリーナの言葉など聞かずどんどん近付いて来る。
「な、なんで抜けないの!、お母様とお婆様の剣なら私を助けて!」
リーナは必死で剣を引き抜こうとする。しかし剣はビクともせず抜けない。リーナは近付いて来る男達を見て怯えその顔はこの後される事を想像して絶望に染まって行く。
「抜けてぇー!!」
必死の叫び。その叫びに応えるように空に一筋の流れ星が流れた。
???
「ここは…」
リーナはいつの間にか真っ白な空間にいた。周囲を見渡すと一人の女性が立っているのが見える。リーナが恐る恐ると近付くと女性が振り返った。
「やぁ、私の子孫よ」
振り返った女性はリーナと同じ顔をしていた。
「もしかしてご先祖様?」
「そう、私はイーナ、初代星巫女だ」
イーナはそう言うとリーナを抱きしめる。
「よく一人で頑張ったね、一人で生きるのは大変だっただろうに…」
「お婆様が残してくれた家があるし、村の人もみんな優しいから…」
「そうか」
イーナは子孫を暫く抱きしめ続け。離すと両肩を持った。
「とにかくだ、君はこのままだと死ぬ、それは分かってるね?」
「あの二人に殺されちゃうよね、酷い事されて…」
「そうだ、そうさせないためにも君の星巫女の力を覚醒させる」
「どうやって?」
リーナはどうすれば星巫女に慣れるのか聞く。
「こうするのさ」
イーナは目を閉じるとリーナとキスをする。
「ふんんんん!?」
キスをされたリーナはただただ驚く。
「言っておくけど、私も恥ずかしいんだぞ?これは、でも私の娘が生まれた時どうやっても力が引き継がれなくてね、最後にこれを試してみたら、力が引き継がれたんだ、ほら、感じるだろう?リーナ、星の力を」
「わぁ…」
リーナはいつの間にか真っ白な世界が星空になっているのに気付く。
「星を司る者、それが星巫女だ」
「星を司る者…その役目は?」
「星を守る事だ、悪しき者からね」
イーナはそう言うとリーナの手を握る。
「普通なら母が剣を教え技術を引き継いで来たんだがね、ミーナが殺されてしまい、シーナは歳で教える事が出来なかった、だから君は剣を扱えない、だからこそ、私の技術を今君に全て注ぎ込んだ、この世界を離れ目覚めた瞬間に君は剣を振う事が出来る様になっているはずだ」
「その剣術であの人達を倒すのね、その後はどうすれば良い?」
「星巫女の里に向かうんだ、奴等から逃れるためにも」
「あの人達はなんなの?」
リーナは家に押し入って来た者達の正体を祖先に聞く。
「私が見ていた所によると、彼等は異界から来た存在のようだ、私が見て知る事が出来たのはそれだけさ」
イーナはそう言うとすまないねと子孫に謝った。
「とにかく奴等に捕まらないように、良いね?」
「分かった」
リーナは頷くと意識が浮上して行くのを感じる。
「これで私は君の娘が生まれるまで眠る事になる、どうか、君の人生に幸がありますように…」
「ありがとう!ご先祖様!、私絶対に生き延びて見せるよ!」
リーナは祖母に手を振りつつ現実の世界に向かって行った。
ラリアの森
ラリアの森にリーナの意識が戻って来た。少女はハッとすると剣を見る。
「さっきまでは灰色だったのに色が付いてる…」
灰色であった剣は美しい青色に変わっていた。リーナは剣を右手で持つと鞘から引き抜いた。
「なっ!?、抜けただと!?」
「この世界から消え失せていた星巫女がこの世界に再び現れただと!?」
ミーナが亡くなってから存在が消えていた星巫女が現れた。目の前の男達からすれば危機的な事態だ。
「くっくそ!!、早く気絶させろ!!」
「あぁ!!」
二人は焦りリーナに迫って来る。
(分かる剣の扱い方が)
リーナは男達を迎え打ち彼等が振るう剣を逸らす。
(さっきは重かったこの剣も今はとても軽い!)
星巫女の剣を軽いと思ったリーナは回転斬りを放つ。その一撃は剣を破壊するのと同時に男の体に到達し男は倒れた。
「まずは一人!」
リーナは勝てる。そう思うと自分から男に近付いて行った。
「さっきまで怯えていたガキが!!」
男もリーナに迫る。同時に振るわれた剣はリーナの剣の方が早く到達し。男は地面に倒れる。
「はぁはぁ…」
リーナは荒い息を吐きつつ二人の男を見る。
「クッククク、お前の事は上に報告した、すぐに追っ手が来る逃げられると思うなよ!」
最後の言葉の後。男は血を吐き亡くなった。
「言われなくても逃げるよ…」
疲労により限界が来たリーナは力なく地面に倒れる。
朝。目覚めたリーナは身を起こす。その傍らには星巫女の剣が落ちていた。リーナはこれからの相棒を手に取ると鞘に戻す。
「ここにはもういられないんだ、この人達が来るから」
リーナは立ち上がると家の中に戻る。そして中から財布と少しばかりの食糧を鞄の中に入れて旅立ちの準備を整えてから祖母の墓の元に行く。
「お婆様…ここで私を育ててくれてありがとう、私、行きます」
ペコリと祖母の墓にお辞儀をし家にもお辞儀をした少女は馬に近付く。
「君、私を乗せてくれる?」
「ブルル!!」
「あらー嫌か…ならここで暮らして良いよ、私が育てた野菜もあるし、暫くは暮らせると思う」
馬を撫でつつ話したリーナは振り返れば悲しくなる。だからこそ走って十五年間過ごした家から旅立つのであった。
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