最終話 幼馴染よ、永遠に

 初デートが終わっても、幼馴染な俺たちは帰る方向もまったく一緒。夕飯になるまでの時間を当然のようにウチで過ごすつもりな芽里は、これまた当然のように俺の部屋にあがりこんで、ガサゴソとベッドの下をまさぐっている。


 ――で。当たり前のようにエッチなDVDを探り当てた。


「あっ。まだあったぁ」


 まぁ、先日それを堪能していたのを知られたばかりか、

 「幼馴染こそ! 至高!!」と叫んでいるのを聞かれている俺としては、もう開き直って「あー、うん」くらいの反応しかない。

 だって、もう俺には必要のない(かもしれない)ものですしっ!

 念願のリアル幼馴染彼女に敵うものなんてないし!


 内心でドヤりつくす俺に対し、芽里は訝しげな眼差しで、そのDVDを見ていた。


「ねぇ、ユウキはさぁ……幼馴染モノの、どこが好きなの?」


「え?」


 そりゃあ……全部だけど。


 と、即答しかけて、今一度、思考を巡らせる。


 そうだなぁ。

 幼馴染モノのいいところかぁ……


 幼馴染が、俺にだけ優しいところとか?


 弱気な俺のことを知り尽くしている幼馴染が、甘やかしながらリードしてくれるところとか?


 学校ではくそモテなのに、人見知りで他者に心を開かない幼馴染が、俺にだけエッチな素顔をみせてくれるところとか?


 「いってきます」で玄関で鉢合わせて、一緒に学校行くだけでもイイよなぁ。


(幼馴染モノこそが至高だ。それ以上なんてないよ……)


 だって、初めてが幼馴染なのも最高だし、幼馴染が可愛く迫ってくれるのも最高だし、幼馴染があんな顔やこんな顔してくれるのも――


(でも……。え? ちょっと待てよ……?)


 だが、考えても考えても、それがが、俺には思い浮かばなかった。


 俺の頭の中では、いつだってその幼馴染は、芽里だったわけで……


「……わかんない」


 思わず、そうこぼす。


 だって、もし妄想のその彼女が――芽里じゃなかったら。

 たとえどんな幼馴染でも、意味がないからだ。


 俺は、「ん? わかんないの?」と、愛らしく小首を傾げる芽里を見て、ようやく気がつく。


「幼馴染がいいんじゃない……芽里がいいんだ」


「?」


「幼馴染が至高なんじゃなくて、俺にとっては、芽里こそが至高だったんだよ……!」


 解を得た瞬間、芽里に対する愛しさがどうしようもなく込み上げて。

 俺は、芽里を抱き締めた。


「芽里……やっぱり、大好きだ」


「ふぇ……!? ゆ、ユウキ、そんな……ぎゅーって、苦しいよぉ……」


 腕の中でもじょもじょと、身をよじるのも可愛い。

 諦めて、腕にぺたんて頭を預けるのも、期待するように見上げる視線も、なにもかも。

 ふと目が合うと、芽里は、


「ふふっ。私も……ユウキ、大好き」


 と囁いた。


 ――ああ、こんな。夢みたいだよ。


 いままでの俺は、芽里が学校で男子に告られて、女友達に「またぁ?メリィもあんまり、期待させるようなことしない方がいーよぉ」なんて言われているのを、横目で眺めることしかできなかった。


 いつ芽里が取られてしまってもおかしくない状況で、焦る気持ちを隠すばかり。

 期待させるようなことなんて芽里はひとつもしていない。勘違いしているのは向こうだってのに。困っている芽里に「俺が彼氏になって助ける」だとか、言い出す勇気もなくて。


 でも……芽里が、他でもない芽里が。

 俺の背を押して、勇気を与えてくれたから――

 今の幸せがあるんだ。


 流されるようにした告白だったかもしれない。

 けど、芽里が望んでくれたから、応えることができた……


「これからは、俺が芽里に、勇気をあげられる存在になりたいな……」


 きょとん、と首を傾げる芽里には、この気持ちはまだわからないのかもしれない。

 この、芽里への感謝と想いが伝わるまで、俺はこの手を離さないでいようと、誓った。


「芽里、ひとつお願いだ」


「なぁに?」


「これからも、ずーっと。俺の幼馴染でいてくれ。そして、恋人として俺の隣にいて欲しい」


 真剣な顔でそう告げると、芽里はぎゅーと胸元に縋りついて、イタズラっぽい笑みを浮かべる。


「ふふっ。私はメリィさん。いつでも、いつまでも。あなたの――ユウキの隣にいるよ。ユウキが大人になっても、結婚式のとき、隣にいるのは……私だからね♡」


 その瞬間、やっぱり思う。


 幼馴染こそ……


 いや。


 ! 至高だ!! と。


 (完)


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幼馴染を好きなことが幼馴染にバレて、幼馴染が甘々に開きなおった件 南川 佐久 @saku-higashinimori

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