第6話

 こしょこしょと、愛らしい声で「ねぇ、このあとどうする?」なんて聞かれたところで。

 今さっき、「グランピングお昼寝体験」と称して、カップル寝袋に入ったばっかりだよな?


「え……寝るんじゃないの? 普通に考えて……」


 そしたら俺は、至近距離でメリィの寝顔を拝めるし、隣でもぞもぞ寝返りうったり、寝言いったりするメリィが拝めるわけだから、これ以上ないほど眼福なわけですけれども……

 メリィは、それじゃあ物足りなかったらしい。


 寝袋の中で、俺の腕をぎゅう、と抱き締めて頬をすり寄せる。


「……しないの?」


「!?」


(こっ、心を読まれた……っ!?)


 きょとん、と見上げる蒼い瞳が、透き通っていて、吸い込まれそうな心地になる。

 ついでに、そのあまりの可愛さに、唇も吸い寄せられそうになる。


「せっかく、ふたりきりでこっそりイチャイチャできる場所を選んだのにぃ……」


 ああ! 「イチャイチャ」したかったんですね!?


(あ~~! もぅ、可愛い! 俺の幼馴染は世界一可愛いぃぃっ……!)


 しかもメリィちゃん、多分だけど、自分からいくより、来て欲しいタイプ。

 思えば、告白だってそうだったし……


 それで、そうやってチラチラと俺のこと見ながら、膝もじもじさせてるわけかぁ。

 ――よし。ここはひとつ、勇気を出して……


「メリィ……ほんとにキスしていいの?」


 問いかけると、メリィは、ぼっ! と顔を赤くする。


「う、うん……ユウキなら、キスでも、なんでも……いいよ……」


「………………なんでも?」


 え? それって……

 まさか、セッ――


 問い返すと、メリィはさらに顔を真っ赤に染めた。


(あ~~~~! それも茉莉さんの入れ知恵かぁ……!)


 あの人ほんっと、青少年に悪影響~!

 俺的には助かる場面も多いが、やりすぎはよろしくないんじゃないかねぇ!?


 メリィは、つい想像してしまったのか、俺のシャツを掴んで、「あっ。でも、それはまだ、ちょっと、心の準備がっ……」なんて照れ照れしている。

 つられて、こっちまで赤くなってしまった。

 多分、このグランピング施設内で、俺たちの寝袋が一番熱い自信があるぜ……


「さ、さすがにそれはまだ早いかなっ!?」


「そっ、そうだよね!? とりあえず、キス……だよね?」


 とりあえず、でしてもいいのかわからないけど。

 メリィがこれ見よがしに「……ね?」と、おねだりするような声を出すので、俺は、胸の内で自身の頬を叩いて、腹をくくった。


「……いいの?」


 尋ねると、メリィは「うん」と確かに、首を縦に振る。


 そんな風にして、一歩一歩、お互いのことを確認しながら、俺たちは、初デートでファーストキスをした。


 控えめなキスのあと、唇を離したメリィが、上目遣いで懇願する。


「ねぇ、ユウキ。これからは……あだ名メリィじゃなくて、芽里って呼んで?」


「……!」


 そのおねだりが、世界で一番可愛くて。

 俺は、世界で一番幸せな顔で頷いた。


 どっろどろに蕩けそうな、デレデレフェイスでな。




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