第5話

『今日から恋人同士だね、ユウキ♡』


 ああ。思い出しただけで、頭が蕩ける。

 脳が、ピンクとハートとお花畑に染まっていく……!


「あああああ……!」


 俺は、自室のベッドで悶絶し、メリィのあまりの可愛さに萌え転がっていた。

 しかし、次の瞬間ハッとして頬をつねった。


「え……? いままでの、全部……夢? 俺の妄想?」


 どこからが夢で、どこまでが現実だ?

 俺は、脳内で「メリィ可愛い!」を叫ぶあまりに、頭がまっしろになって、未来視の能力を覚醒させたのか?


 さっき叫んだ、「幼馴染こそ! 至高!!」が漏れ聞こえてて、これからメリィがこの部屋に乗り込んでくる……?


「えっ。えっ、えっ。どうしよう……?」


 とりあえず、表に出ている、国広から借りたエッチなDVDをベッド下に隠していると、スマホがヴーッと揺れた。LINEEの通知だ。スマホ依存症気味な俺は、秒速でソレを手に取る。


 『今週の土曜日、どこ行く?』


(……!)


 夢じゃ、なかった……!


「わぁああああ……!」


 俺は、歓喜に再び悶絶した。


 そう! 晴れて最愛の幼馴染と恋人同士になった俺は。

 週末、初めて。恋人同士として、一緒に出かけることになったのだ。


 つまり……デートだ!!


 ◇


 同刻。隣家にて――


 メリィはスマホを手に、ベッドの上で身悶えていた。


「きゃぁあああ……!」


 ユウキを! デートに! 誘っちゃった!!


「わぁああああ……! どうしよう、どうしよう! どんな服着ていこう!?」


 デート……デートだよね、これ!?

 勝負服? 勝負下着?

 あ~もう! どこから手をつければいいのか分からない~!!


 服を買うなら、渋谷? 原宿?

 下着を買うなら表参道?


 てゆーか、そもそも。デートってどこに行くのが正解?

 場所すら決めてない~!


「あああああ……! まり~ちゃ~ん!!」


  ◇


  ――後日。


  メリィが「行きたい!」と言うので来たのは、店内でキャンプ――もといグランピングが堪能できる、室内施設だった。


「……キャンプ。意外だな。メリィのことだから、てっきりデデニーランドでも行きたいって言うもんかとばかり……」


 と。寝袋の中で俺は呟く。


 すると、何故か同じ寝袋にくるまっているメリィは、ゼロ距離みたいな顔の近さで、こしょこしょとイタズラっぽく囁いてきて……


「んふ~。ユウキ、知らないのぉ? 初デートでデデニー行くのは、愚策なんだよ。よっぽど気の合う人同士じゃないと、列に並ぶ待ち時間とか退屈で、ダメになっちゃうカップルが多いんだってぇ~」


「う……へぇ。そうなんだ」


 ドヤ顔のメリィも可愛いが、ぶっちゃけ話の半分、耳から抜けていったわ。

 だって。メリィが近いし、胸も当たってるし……

 こんな状態で『お昼寝』できる男子っている? いなくね?

 少なくとも俺には無理。


「あれ~? ユウキ、話聞いてる~?」


「き、きいてる……」


「ほんとぉ? ふぅ~っ」


「ちょ……! 耳に息かけないで! からかってんのか!?」


 もしくは誘ってんのか!? もぉ~!


 あったかいし、くすぐったいし、そしてエロいしぃ……

 オフショルダーなデート私服、くそ可愛いしぃ……


「ねぇ、ユウキ。ユウキ。ユウキっ。ユ~ウ~キ~♡」


「何回も呼ばなくても、わかってるよ……」


 名前呼びたいだけなんだろ?

 くそかわ。


 てか、メリィさん。ゼロ距離会話、やめてってば。


「ふふっ。『これなら、オフィシャルに同衾できる』って、マリちゃんの言ったとおりだったね……!」


「!?」


 だからグランピング来たの!?


 つか、デートの目的が、カップル用の二人一組寝袋で同衾って……


(うああ……! まり~ちゃ~ん!)


 ――絶対、あいつの入れ知恵だ。


 脳内で頭を抱える俺に、メリィは頬を染めて囁く。


「ねぇ……このあと、どうする?」

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