第5話 貫く意志 顕現する奇跡

 各地の魔物が討伐され、拠点も潰された。

 異世界の兵器ウィルスも小さな嫌がらせも、悉く邪魔される。

 ドラゴンまでが倒された。

 何者か分からないが、獣人を連れた男が関与している。

 始末する為に送ったジョゼフまで帰って来ない。

 まさか返り討ちにあったとは考えられないが。

 皇国で呼び出す事に成功した悪魔さえ討たれた。

 どうなっているんだ?

 人がドラゴンや悪魔を、どうにか出来るものなのか?

 いったい何が起きているんだ。

 評議国でも、その男が暗躍したと聞く。

 こちらの幹部は捕らえられ、内戦も止められた。

 そんな事よりも神を召喚できるアイツは惜しい。

 奴の力なしで、死の神を現世に呼ぶのは難しい。

 せっかくの魂も、聖女さまが浄化してしまい使えない。

 それでもやらなければならない。

 私の使命を果たすのだ。

 その為ならば、この国を使い潰しても……。


 大聖女の力に嫉妬したマヌエルが煩い。

 確かに、あの力は邪魔ではある。

 死の神の力で結界を張った部屋を用意した。

 別の神には干渉できないらしいからな。

 マヌエルを使い、聖女を部屋に閉じ込める。

 今の内に人々の信仰を、全て死の神へ捧げさせるのだ。

 富裕層は、その欲で取り込める。

 貧困層には平等を謳い、神を信仰させる。

 全て平等に死と混乱をもたらす、有難い神様に祈れ。

 神ならぬ人の身で許される平等なんぞ死のみだ。


 信者獲得に香をつくらせてみた。

 この香を焚き、その紫の煙を吸えば、神の姿を目に出来る。

 神に会える、有難いお香だ。

 一度吸えば、もう一度吸いたくなる。

 そして香なしでは生きられなくなる。

 これを使えば信者は爆発的に増えていくだろう。

 この香を売れば、教団の資金も潤う。

 問題はどこへ流通させるか……。

 富裕層相手だと、大事なカネヅルを食い潰す事になる。

 貧困層相手だと金にならず、無駄な犯罪を増やすだけだ。

 最終的には、それでも混乱が蔓延して良いかもしれない。

 だが、今はまだ早いだろう。

 それに、北の評議国で売るのは難しそうだ。

 あそこの呪術師シャーマンとかいうのが、同じような薬を使っている。

 昔からの市場に新規参戦は厳しいだろうな。

 まぁ、急ぐ事もないか。


 どうやら、のんびりしすぎていたようだ。

 王国、帝国、評議国、傭兵王国の連合軍が宣戦布告してきた。

 いや、布告どころか攻めて来た。

 くそっ。

 王国の貴族だったか? 捕まったアイツが何か喋ったか。

 だが、これも利用してやる。

 邪魔な奴等を片付けるチャンスだ。

 この世の全てに死と混乱を。


 取り敢えずの対応は、マヌエルの奴の任せておけば良いだろう。

 邪魔なのは司教の二人、フランシスコとラファエルだ。

 大聖女は、あの部屋へ閉じ込めておけば出られないだろう。

 フランシスコは耄碌したじじいだ。

 どさくさで暗殺すれば良いだろう。

 ラファエルを説得して戦場へ送ろう。

 奴らは東西、両側から攻めて来たようだ。

 神殿から離れさせる人員を、マヌエルに指示する。

 東の戦場へ指揮官として、ラファエルを遅らせる。

 それまでの繋ぎに、教団の信者を使って呪物を届ける。

 なんの変哲もない白い粉だが、風に乗って広がり呪いを撒く。

 使用者も巻き込まれるので、使い捨てになってしまうが仕方ない。

 呪いは、人間をアンデッドに変える。

 生きていても死体でも、人を呪う屍となって動き出す。

 戦場の兵と近隣の住民をアンデッドにして、時間を稼ぐ事にしよう。

 西の戦場には三騎士を送らせる。

 祭祀も近くにいるし、どうにかなるだろう。

 あとは聖女か……放っておくか。

 大聖女と較べるまでもない出来損ないだし、言う事も聞かないしな。

 大聖女への嫉妬を煽っておいたから、勝手に迎撃に出るだろう。


 こんな事で神から与えられた使命を邪魔されるわけにはいかない。

 私は使徒なのだ。

 怨嗟と混乱で世を満たし、等しく死を与える。

 神の降臨を、必ずやり遂げるのだ。

 神殿地下に潜んでいた教団員に魂を集めさせる。

 恨みが足りないが、その分は数で補おう。

 法国の民、教会の聖職者たち、攻めて来た連合軍の兵。

 全ての魂を集め、神へ……死の神へ捧げるのだ。


 教団を掌握したカルロの名を棄て、教会へ潜り込んだ。

 司教モニカとして教会も、あと一歩で取り込める。

 そうすれば世界に自由と平等を届けられる。

 カルロでもなくモニカでもなく、神の恩恵、平等な死を届ける使徒。

 誰にも邪魔はさせない。

 世界を死で満たすまで……神の降臨を目にするまで。


 法国で産まれ、信仰を失くした男カルロ。

 神の奇跡を目にして、信仰を取り戻したカルロ。

 盲目的に使徒として働くカルロ。

 相反する教義まで取り込もうと、モニカとして教会へ潜り込んだ。

 表から司教として、裏では大司教と法王までも取り込んで操る。

 全ては邪教、教団の死の神の教えに従って。

 世に死と混乱を。

 世を、人を呪う魂を集め、死の神そのものを召喚する。

 モニカの野望は、神に会う事。

 そこまで膨れ上がっていた。

 人は自分が信じたいと願う事を信じる。

 そう信じた彼も、そうあって欲しいと自分が望むものを信じていた。


 奇跡に気付き、奇跡を信じてしまった男の物語。

 自分の使命に出会ってしまった男の、奇跡の物語。

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奇跡を見た男 ~足掻く者達 外伝~ とぶくろ @koog

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