想い出のクリスマスイブ

風鈴

クリスマスイブの日に

「あ~あ、今年もクリスマスが来ちゃったね、シンク!」

 私は、カメに話しかける。

 彼は、クサガメ。

 近くの川で拾ってきた?いや、捕獲してきた男の子だ。

 彼は雑食。

 何でも食べる。


 室内は暖房が掛かっている。しかし、彼は冬眠をしなければいけない。

 そう、彼は冬眠中なのだ。

 ちょっと寒い廊下で、覆いを被せ、暗くしている。

 土の上に敷き詰めた落ち葉。

 水は容器に入れて、その落ち葉の上に置いてある。

 彼は、土の中に潜っているのだろう。

 姿は見えない。


「あ~あ、シンクをいじる事も出来ないし、ホント、冬は寒くてイヤ!特に、クリスマスは寒さが身に沁みちゃうわ」


 そう言って、私は、暖房の入っている部屋へと戻る。

 クリスマスイブのこの日。

 テレビはクリスマス企画の、巨大クリスマスツリーの下で行う、カップル誕生イベントを映していた。


 イケメンに殺到する女子。

 あさましいぞ、おい!

 いや、自分に自信があるのか?

 だったら、こんな企画に出るんじゃないよ・・あっ、つまりはサクラのキレイどころもいる訳ね。

 所詮は、ヤラセ企画だよ。

 それと同じ理屈で、こんなイケメンが彼女居ない歴イコール今の年齢とか、バカにしてるよね。


 心の中で毒づく。

 たまに、言葉を発して毒づく。


 私も、昔、巨大ツリーの下で彼と写真を撮ったっけ?


 って、なに、イヤなオンナ。

 撮ったっけ?じゃないよ。

 撮ったんだよ。

 しっかりと記憶してる。


 ☆★☆★


 あの日、イブだった。

 私は、ウブだった。

 でもね、楽しかったよ。

 丁度、待ってたかのように雪が降って来て、ホワイトクリスマスイブだねって、肩と肩をくっつけて、そして、手を握って、そして・・。


 彼に合わせて歩いた。

 あっち方面は、ホテルゾーン。

 オトナだから、わたし、オトナだから。

 もう、卒業なんだから、乙女なんて。

 オトナだからと、呪文のように繰り返した。


 彼の足が速くなる。

 私はついて行くのにやっと。

 どうしたの?


 彼の横顔を見る。

 彼って、こんな顔だっけ?

 彼の強張った顔が、なぜか私に恐怖感を与える。


 私の息が荒くなった。

「速いよ、こうちゃん!」

「えっ、ごめん。でも、雪が酷く降ってこないうちにって思って」

「えっと、来ないうちに、ナニ?」


 バカなオンナ。

 ぶりっ子なんてする?

 そんなネコ被って、どうするのよ!


「えっ?いや、ちょっと、酷く降らないうちに、ほら、そこのホテルで休もうかなって」

「休憩:一時間950円、都内格安!って書いてあるね」

「そ、そだね」

「ビデオ見放題だって」

「そ、そだね」


 バカバカバカ。

 なんてことを言ってたの、わたし!

 この口が言ったのね、バカな口!

 口を引っ張るわたし。


 いったーい!

 そうよ、彼、私の口を引っ張ってくれたら良かったのに!

 そしたら、わたし・・。

 そしたら、わたし、甘えられたのに・・。

 そしたら、わたし、それ以上言わなかったのに。

 そしたら、わたし、あんなことしなかったよ。


「ルミ、い、行こうか?」

「うぇっと、どこに?」

 バカバカバカなわたし!

 どこなんて決まってるのに、まだ良い子ちゃんぶってる!


 ちっ!


 私は、聞いたの。

 思わず彼が舌打ちしたのを。


 えっ、どうして?

 なぜ、舌打ちなんか?


 蘇る友達の声。

 あの男は止めた方が良いよ。

 他にも付き合ってる子がいたの、知ってるから。


 そんなこと、彼の過去の話だと、鼻にもかけなかったのに。


 その時だった。

 彼が私の肩を両手で掴んだ。

 そして、彼の顔が近づいてくるの。

 その時、フッと、タバコの匂いがした。

 彼は決して、タバコを吸わないハズなのに。


 知らない、このひと、知らない!

 私は、彼の顔をひっぱたくと、背負い投げを決めた。


 あ~あ、やっちゃったよ!

 そう思った。

 これは反射だ!

 コイツは敵。

 そのセンサーが脊髄反射で反応したのだ。


「パブロフのイヌめ!」

 私はそう言い残して、彼の元を去ったわ。


 因みに、柔道3段、黒帯なの。

 柔道部には身体の男性しかいないから、彼の様な細くて格好の良い身体の男を知らずに求めてたのね。


 クリスマスイブ、なんて小憎たらしい日なの!



 ☆★☆★


 そんな過去の想い出に浸っていた時、ピンポーンと部屋ベルが鳴った。


「はーーい!」

「遅くなっちまった、ごめんな」

「ううん、ぜんぜん大丈夫だから。ケーキにワインは用意しといたから」


「ちょっとさあ、小腹が空いたんで、夕食は食べたんだけど、これ、一緒に食べようと思って」

「わあーー、ステキ!高かったでしょう?」

 彼が出してきたのは、もちろんのローストチキンとローストビーフとポテサラにおにぎり4個。

 もちろん、私も夕食は食べた。

 二人とも、大食漢だ。

 彼?

 彼はもちろん、さっきの過去話の彼じゃなくって、イケメンじゃないけど、とっても大切な彼氏なの!


 さあ、明日はクリスマス!

 小憎らしい彼のご馳走プレゼントを堪能しながら、明日のプレゼントは何だろう?と考える。


「ケーキ、ご入刀って行こうぜ!」

「えっ、いっちゃう?いっちゃっていい?」

「オーケー、カモーン!」

「イエーイ!」

「二人の初めての共同作業です、皆様、拍手をお願いします!」

 こういうシャレが直ぐに出てくる彼氏って、最高です。

 ケーキも最高です。


「新婦、新郎に、愛のキッスを」

「あはははは!神父が新婦に言うわけだな!あはははは!」

 彼の微妙な笑いのツボで、この勢いでのキスは叶いませんでした。


 でもね、大好きだよ!しんくん!

 因みにカメは、真くんから採った名前なの。


 うふふふふ、メリークリスマス!



 了




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想い出のクリスマスイブ 風鈴 @taru_n

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