魔法のランプ
高黄森哉
ランプよランプ
ここに魔法のランプがある。それは彫刻があしらわれた黄金製で、カレーのルーを注ぐやつみたいな見た目をしている。その黄金の曲面に男の顔が、実に間抜けに浮かんでいる。彼は、ランプをインドの市場で購入した。
市場に並ぶ、ランプは煤けていて、とてもまともな代物には思えなかった。。家に帰った彼は、暇で暇でしようがなく、買ったランプを磨き続ける。磨けば磨くほど、ランプは美しく輝き、反射光は、まるでランプかのように部屋を照らし始めた。これは、掘り出し物だ、男はそう確信した。
ランプの按摩を続けると、中から喘ぎ声が聞こえてくる。むさくるしい男の咆哮が、ランプ内部の曲面に反射して、異形の鳴き声に変わっている。男は、耳かきをしないので、よく聞こえず恐れずに研磨を続行する。ランプが熱くなり、ぴゅーっと湯気が注ぎ口から噴き出した。流石に、ランプを取りこぼす。そのときの驚きたるや、全身の穴という穴が広がり上がったほどである。耳くそも、がっそり取れた。
「うごごおおぉぉぉぉおおおぉおぉぉおお」
叫ぶ変態の上気した頬は桃色で、身体からは汗がぼとりぼとりと滴り落ちる。ランプの精霊こと、ジンが、狭い狭い注ぎ口からひり出てきたのだ。ジンの身体の、出口側は漏斗状に先細り、その先端付近は、うっ血して気色の悪いことになっている。どうも、この、ランプの精霊は羽化不全らしい。
「はは。貴方を知っております。映画館で、知りました。ずばり、貴方は、ランプの精ですね」
「それなら、話は早い。願いを三つ、叶えてやろう」
「では、願いを四つにしてください」
「ほほいのほい」
魔人は魔法を使い、願いを四つにした。霧のような体は、紫に光りながら世界を満たし、その後に凝結した。なんか嫌だな、とは、願いを叶えてもらっている立場から、言いづらいので、男は止めておいた。
「これで、願いは四つに増えたぞ。今、願いを一つ叶えたから、後の願いは三つだ」
「そうか。そうだったか。では、願いを五つに増やそう」
「ほほいのほい。よし、これで願いは五つになった。今、願いを二つ叶えたから、残りは三つだ」
「あちゃー。では、願い事を七つにしてください」
「それでよいのだな。ほほいのほい」
「願いはあと二つじゃ」
男は少し考えて、魔人の言うことを理解した。確かに、男の願い事は七つに増えていたが、それは、単に悩みが多くなったということである。
「では、このランプをもう一つ」
「それ」
出てきたランプを擦る。しかし、魔人は出ない。
「それは、裏のナンバーが同じになっておるから、無効であるぞ。お札と同じような仕組みであると考えてくれ」
「沢山あるのでしょうか」
「知らん。お札がお札の枚数を知っていると思うか」
「では、そうだ、………… いや待て」
男は、危うく、知りたいと願う所であった。
「それでは、最後の願いだ。願いをいえ」
「叶う願いを無限にしてください」
「ほほいのほい」
無限に分裂した魔法のランプは、指数関数的増加を見せ、地球を飲み込んだ。太陽系一帯を食べると、その外へ、貪婪な食指を伸ばし始める。増大に伴い重力は大きくなり、閾値を超えると、中心へ中心へと潰れる自壊を始めた。
現在、多くの文明のある星では、天の川に向け、願い事をすると、時々、叶うとされているというが、この言い伝えの同時多発性については謎が多く、一説では、無意識的星間通信の結果だとされているが、証明には至っていない。興味深いことに、統計によると、この星に向けた願いの成就率は、偶然の域をわずかに超えており、天の川銀河の七不思議とされている。
魔法のランプ 高黄森哉 @kamikawa2001
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