第7話焦ることは何の役にも立たない。後悔はなおさら役に立たない。焦りは過ちを増し、後悔は新しい後悔をつくる 〜ゲーテ〜
各々、武器を持っているところを見ると......異能はできる限り披露したくないのだろう。
俺の戦闘目的は王城グループの異能調査だ。誰がどんな異能を持ち、その異能の適応力や殺傷力、補助力などについて調べたい。彼らはそのためのサンプルだ。
「うおおぉぉぉぉ........!」
長身の男子生徒がナイフを片手に、襲いかかってきた。
ナイフは射程距離こそ短いが、補助武器としては非常に優秀だ。怪傑高校の統括組織『神威』もナイフを常備している。一般生徒が入手できるナイフとは、少し形状は異なるが。
何人かの生徒も続く。
接近戦は楽だ。発動条件が混雑で分かりづらいため、異能発動条件が漏れにくい。
一応、講堂前にいた金木には『目を合わせる』と『手のひらで触れる』『声を掛ける』の三択を与えた。
しかし京極戦では盾として利用したため、しばらく目を覚さないだろう。これは念の為に行った行動に過ぎない。
「......っ!?」
王城グループのメンバーは目を合わせず、俺の足元を見て戦い始めた。
術中に嵌った張本人に聞かなくとも、怪しいと思われた選択肢をしらみ潰しにしていく方法。
とても効率的とは思えないが、この方が指示を出し易い。
....どうやって指示を出しているのだろう?
この場にいないと仮定して考慮する。
指揮官は隠れて指示を行うのが妥当だからだ。
最も、指揮官が王城のように鬼の如く強い場合もそうだ。戦闘中に指示系の異能持ちを絞り込まれてしまう。
答えはすぐに出た。
『テレパシー』
心の中でやりとりできる、便利な異能だ。
だが、おそらくそれだけじゃない。
この混雑地帯の中では容易に指示は出せないはず。
これは物理的な意味でなく、心理的な意味でのこと。
集中時にテレパシーで指示が飛んできたらどうだろうか。
集中力はかき乱されて、パフォーマンスは低下する。
そして、人は集中力を元に戻すには90分の時間が必要らしい。
つまり、テレパシーが負の方向に作用することになる。
これではテレパシーを使った意味がない。
この異能の第二の役割は───
『視界の共有』
この場にいないものとして考えているため、視界の共有は必須。
第一、どうやって混雑地帯で戦いを把握できる......?
そう考えると、やはり視界の共有が第二の役割としての信憑性が向上する。
戦闘において指揮官を潰すのが定石。指揮官さえ潰してしまえば、部隊としての機能が失われるからだ。
結論、俺はこの密集地帯から抜け出す必要がある。
俺の異能は精神干渉系。これをどう使うかが肝だ。
さて、どうするか。
俺は先程から、掌や手の甲で攻撃を捌いている。
突然、異能が発動しても『手のひらで触れること』が条件だと確信されることはない。
あくまでも疑義されるだけ。
───
よし、まずは二人の忠誠心を増幅した。
「俺を守れ」
「「はっ!」」
人手が二人増えるだけでも、大分助かる。
できる限り、気絶程度に済ませておきたい。
二人が俺を護衛している間、俺は防御に見せかけて異能を発動していく。
次々と呑まれていき、終いには半分が俺の手に落ちた。
「半分の戦力を集中投下すれば包囲など、ただの皮一枚に過ぎない」
「ヤベェ! 押されるぞ」
もう遅い。
すでに取り返しのつかない事態になっている。
包囲の先には王城と右京の二人がいた。
王城の椅子に、京極。あまりにも不憫だな......。
「ふははははははっ! たった一人で包囲を突破するか!」
王城は愉快そうに目を細めて高笑いする。
半分が手に落ちた今を全く危機的状況だとは考えていないらしい。
王城と右京にはそれだけの異能がある、と仮定しようか。
「よくやったなぁ」
王城はどちらでもよかった。
『袋叩きにされる未来』と『大逆転劇を起こす未来』
どちらの未来でも王城には利益がある。前者なら二階堂グループを呼び出し、戦いの中で異能を把握していく寸法が取れる。後者なら『俺』という生徒を深く分析できるだろう。それも右京と王城の二人がかりで。
「......ここからどうするつもりだ? 王城」
王城は立ち上がる。
「ご褒美だ。お前を木っ端微塵に叩き潰してやろう」
王城は笑みを浮かべながら小指から順に折り畳んでいき、握り拳を作る。
何が始まるのか。現段階では想像もつかない。
王城はその拳をポケットの中に突っ込むと、威風堂々とした様子で歩いてきた。
距離が縮まるごとに王城の威圧感を肌で感じる。ミシミシと床が軋み、建物が瓦解する懸念が脳裏に浮かんだ。
右京は壁にもたれかかりながら、王城と俺の顛末を見届けようとしていた。
もちろん、結果は分かりきっているだろう。
刹那、王城の赤の瞳が紅に変貌する。
血塗られた色。それが何を意味しているのか、分からない俺ではない。
「ぐ......っはぁぁ!」
地面が体を離さない。まるで何かがのしかかったような感覚。
これは一体、何なんだ....?
赤の瞳が紅になった突如として現れた、突然異変。
それは王城の異能発動条件が”目”にあることが明白となった。
しかし肝心の異能が何なのか、不明瞭だ。
飛ばしたり、目を見た直後に地面に押しつけられる....。
あまりにも王城の異能は強い。抵抗の手段がそもそもない。
「俺の野望に現実味が生まれてきただろう?」
王城が近づくなり、そう言った。
王城の野望はたった一人の王になること。
つまり彼はゼロサムゲームを支持している。
ゼロサムゲームでは、利益は1か0にしかならない。
損する人、得をする人が明確なのがゼロサムゲームだ。
長期的に考えて、このゼロサムゲームでは利益は減する。
なぜなら、競争にずっと勝てるとは限らないからだ。
だがそれは常識での話。王城は社会の常識、異能力者の常識をも破壊する異能を兼ね備えている。
下位の人間を支配することは彼にとって造作もないことなのだろう。
「......っ!?」
直後、視界が反転した。
先程まで這いつくばっていた地面が天井に見える。
......部屋ごと反転したのか?
考える猶予はなかった。
腰から地面にダイブして、絶え間ない苦痛を強いられる。
「い......って!?」
背中に電気のように激痛が走った。もう『動かすな』と本能が訴えかけているようだ。
しかしこの痛みもあながち無駄ではない。
王城の異能がいま分かった。
でもこの異能は”理解できたところで対処できない”
そんなぶっ壊れた異能だといえる。
王城は天井を見上げる。
そして、ニヒルな笑みを飛ばし、コートを翻した。
その時にはもう、紅の瞳は元通りになっていた。
それは同時に『終わり』を告げる。
異能学園と三人の王〜諸悪の根源〜 @siri0220
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