第6話未来を考えない者に未来はない 〜ヘンリー・フォード 〜

「来たか....」


そこは廃墟したビル。暗がりの中、王城、右京、京極以外の顔は見えないが数十人の生徒が側に控えていた。


「ははははっ! やはり来てくれたか! 親友よ!」


京極は突然、高らかな笑い声をあげてそんなことを口にする。

いつから親友になったのやら....。


「京極、お前うるさいぞ」


右京琴音。王城グループの実質No.2だ。凛とした立ち振る舞いは久野島を彷彿とさせる。

彼らの中央にいる王城は少しも煩わしそうにせず、ただニヒルな笑みを浮かべていた。


「......ところで何の用なんだ? 王城」


「開口一番がそれか。肝が据わっているな....」


「時間は無限にあるわけじゃない。早く用件を言ってくれないか?」


「そうか。お前の望みなら叶えてやろう」


王城はクイッと顎を上げる。

その瞬間、左脇に控えていたはずの京極が目の前に現れた。


「すまないねっ! 親友!」


宙で旋回した蹴りが頭上に。

腰を後ろに反らしてそれを避ける。

そのままバク転して距離を置いた。


京極を見捉える頃には、ナイフが宙に飛び交っていた。

2~3本と言ったところか。ナイフホルダーからナイフを取り出し、投擲するまでの時間を計算すると....

とても間に合わない。ここはアレを使う。


俺は指をパチンと鳴らした。


「金木....っ!」


金木が俺の身代わりになり、ナイフを体で受けた。

感情を操作し、忠誠心を増幅しているので俺の命令に従う。

しかしそう長続きはしない。バラツキはあるが持って一時間。


「ぶ......はっ!」


金木の口からは血反吐が吐き出される。

重要器官の損傷は避けられたようだが、結構なダメージを体に受けてしまった。


「京極、まだやるのか......?」


京極は爪を食い込ませるほど、拳を握りしめた。

そして無念の表情で構えを解き、腕を脱力させる。

だが、これは独断。王城の指示ではない。


「おい京極、誰が手を止めろと言った?」


「仲間を....! 苦しませることはできない」


「ふふふ....ふはははっ......ふっはははははははは! 京極。お前は二階堂グループの仲間を苦しませようとしたじゃないか! 今更何を怖がる必要がある?」


王城は中央を闊歩する。身長は俺より10センチ高く、どことなく威圧感がある。

魔王というより『覇王』だ。

王城に遅れて右京が歩いてくる。女性にしては身長が高く、173ほどはあるだろう。


「京極。『やる』か『やられるか』のどちらを選ぶ? 時間が惜しい。早くしろ」


暗闇の中で王城の『緑』の瞳が光る。まるで宝石のような光沢感がある。

容姿と相まって王城の美に磨きがかかった。


「く....っ! オレは....オレは....っ!」


葛藤している様子だ。どうして人間は葛藤するのか。

俺はふと、考えた。


人間には理性と感情がある。理性は感情の歯止め役で、感情は人間の本能そのものだ。

ゆえに理性と感情が双方、同程度であればどちらにするか躊躇してしまう。

しかし俺は感情をコントロール出来るため、本来は人間にとって正常な反応であるはずのことが起こらない。


それが京極と俺の決定的な違い、か。


俺は再度、指をパチンと鳴らす。

金木はその音に反応して、むくりと起き上がった。

満身創痍の状態。次に同じような攻撃を喰らったら、死ぬだろうな。

それも痛みに悶え苦しみながら。


金木は体を左右に振りながら、全速力で京極に直進する。

片手にはナイフ、もう片方の手には爆薬が抱え込まれている。


さて、どうする...... ?


「面白い......!」


王城は嬉しそうな笑みを空に飛ばすと、手を翳す。

金木との距離はおよそ1メートル。


......どんな異能を見せてくれるんだ?


「......っ!?」


思わず耳を塞ぎたくなるような音と同時に、金木と右京が視線の先から消える。

一目で分かった。王城は力だけの男ではないこと。

通常、人は躊躇する生き物だ。悩んで決断して....それの繰り返し。

だが王城は違う。有無を言わせない、スピードで決断する。

おそらく視えているんだろう。数ある選択肢の中の最適解が。


「王城......! なんで右京を!」


京極は拳を地面に打ち付け、血を流す。

王城はそんな京極を横目に、笑い飛ばした。


「何が.....えっ?」


京極が立ちあがろうとした時、ガクンと膝が崩れる。

地面に膝と手をつき、王城は京極に馬乗りする。


「がっ......あ!」


容赦無く腰を下ろす王城。崩れる懸念は端からないようだ。


「未来を見据えての戦略だ。分かるな.....? 京極」


「あ、あぁ......」


京極は首の血管を浮き彫りにする。

顔は朱に染まり、こちら側から表情はよく見えない。


「黒崎。今日、オレがお前に会う理由。それは何だと思う?」


「お前は俺の実力を勝っているわけではない。......となると、俺を囮に使い二階堂グループを呼び出すためか? そしてグループ内の仲間を倒された二階堂は激昂し、二階堂グループVS王城グループの戦いの構図ができる」


王城は片方だけ、口の端を吊り上げる。


「正解だ」


王城がそう言うと、後ろに控えていた仲間たちがぞろぞろと姿を現した。

各々、武器を手に持ち『弱い』と思われている相手にも手を抜かないつもりらしい。


「最後に言い残しておくことはあるか......?」


「俺は───だ」







































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