第11話

「今日はどうかしたの。なんだかいつもより覇気がないというか」

「そうですかね」

「いつも元気溌剌!ていうわけではないけど。今日は元気ないなってわかるくらいには表情が暗いよ?」

 自分でも多少自覚はあったが面と向かってそう言われてしまうほどまでとは思わなかった。

「すみません。いろいろと考え事が多くて」

暗いと言われてしまった表情を少しでも明るくできればと、掌の平を使って頬をマッサージしてみる。

 職員室の席が隣で、仲良くさせてもらっている高橋先生は3年B組の担任をしている。歳は、僕の2つ上で頼りになる同僚である。困ったことがあれば事の大小問わず手を差し伸べてくれる人だ。そういった面倒見のいい人柄なので、「教師」が高橋先生には天職だと僕は常々思っている。もちろん男女生徒ともに人気も高い。高橋先生のことを悪く言っている人をまだ見たことない。

「そうか。今日は早めに帰れば?なんか仕事が残っているの?」

「いや、そんなに残っているわけではないです」

正直、やることはたくさんある。早めに終わらせた方がいいものはあるが、高橋さんに手伝わせるわけにはいかない。

「よし。少しなら明日にまわしちゃいな。今の君に必要なのは睡眠だ。昨日は寝れたのか」

「いいえ、熟睡はできませんでしたね」

ソファーで寝落ちしていたので、熟睡とは程遠い睡眠だったはずだ。

「それは重症だな。ただでさえ教師は人手が足りないんだ。体調が悪くなったら後々面倒だぞ。体は資本だ。休め休め」

「では、お言葉に甘えて今日は帰りますね」

「そうしなそうしな。今日はお疲れ!」

その言葉に背中を押されて、帰る準備を始める。2年C組、2年E組の小テストの採点がまだ残っているが、次の出勤する日の朝に早く来てやればいい。自分でも、今一番必要なのは睡眠をとることだと自覚している。もう一度寝てしまえばすべて夢で片付くのかもと考えたりもしていた。

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バタフライ・エフェクト 水野惟吹 @ibuki_mizuno

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