第10話

―ピピッ。ピピッ

寝ぼけながらも、周辺を手で探ってみたがスマホは見つけられなかった。そうだった。ここはリビングのソファーだった。

 遠くに転がっていたスマホを発見し、頭を掻きながら6時にセットしたアラームを止める。今日は、6月7日 金曜日。

そして、そのまま数分間立ち尽くした。

昨日のことは夢だったと言われても納得できてしまうほど不思議な出来事だった。だが、夢の記憶にしては鮮明で、現実で起きたことだとしっかり実感していた。それでも、夢だと思いたかった。

58歳。

水野家の先祖はほとんど癌で亡くなっている。自分も死因は癌になるんだろうなと、軽く思っていた。だとしても、早すぎないか。母親も父親はともに59歳で今も元気に生きている。僕は自分の両親より寿命が短いのか。ダメだ。信じるな。きっと出鱈目だ。

そう思いたいが、確かに昨日、クロネコと一緒にタイムリープしたその感覚は一夜過ぎたあとでもはっきりと残っていた。

静かな朝の部屋に腹鳴が響いた。昨夜から何も食べていないことを思い出した。

昨夜、クロネコが姿を消した後、身体全体が一気に熱くなった。異常な出来事が立て続けに発生し、身体は常に緊張状態であったためか、身体は休憩したいと訴えているのだろう。だが、今まで聞いたことを記憶が鮮明のうちに整理すべきだと思い、休憩したいという本能の欲求を必死に理性を働かせることによって抑えつけ、紙とペンを用意して箇条書きでまとめていった。その作業が終わった後、ソファーで休憩しているときにいつの間にか眠っていたようだ。

床に落ちていた紙を掴み、そのままキッチンへ向かい、冷凍庫に入っている冷凍炒飯を袋から取り出してお皿に盛りつける。それをサランラップをかけずに電子レンジに突っ込んだ。タイマーをセットしてその待ち時間に昨日書いた紙を確認する。


―ピーッピーッピーッ

炒飯が出来上がると同時に、殴り書きで書かれていたメモを解読し終えた。メモを口に咥えて、熱々の炒飯をスプーンを使ってかき混ぜながら、机に移動した。メモを口から外し、黙々と、ただ黙々と熱い米をお腹の中に入れた。その間、自分の双眸がメモを一点に見つめていた。読んでいるわけではなくただ、見つめていた。

味が薄く感じた炒飯を食べ終え、食器を片手に持ち、キッチンにあるシンクにそっとその食器を置いて、水に浸した。側にあったコップに水道水をいっぱいに入れて、一気にのどに流した。苦しくなりながらも無理やり水を流し込んだ。手をキッチンの淵におき、大きく息を吸い込む。息を10秒ほど止めて、一気に息を吐きだした。

ダメだ。

朝なのになんか疲れている。どこが疲れているのかは定かではないが、何で疲れているのかは明確だった。今日は早めに切り上げよう。

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