袖振り合うも他生の縁  🪅

上月くるを

袖振り合うも他生の縁  🪅





 のっけから訓戒めいた、古くさいタイトルで恐縮です。

 いろいろ考えてみたのですが、やっぱりこれしかなく。




      🎡




 人間、一生のうちに数千人の人と出会うそうですが(むろん多寡はあるにせよ)、生涯にわたって交流がつづく間柄は、そのうちの、ごくごく一部でしょうね……。


 まして、事業を閉じてから本名や顔を明かさない隠遁生活を送る身が、今後は義理を欠きなさいという心療内科医の勧めでセレクトさせていただいた友人はごく僅少。


 それで一向に不都合を感じないのも、自分で認識している以上に、ネット界、とりわけカクヨムさまのお仲間の存在が大きいのではないかと感謝を深める今日この頃。




      🎞️




 とはいえ、身近にコロナ感染者が出始め、自分もいつなんどきという状況になって来てみますと、なんとなく疎遠になった方々のお顔がちらちら浮かんでまいります。


 果たして、生涯、このまま過ごしていいのかしら。互いに経験を積み、それぞれの苦労を重ね、たくさんの苦い思いを味わって来たいまこそ佳き友人になれるのでは?


 地球に生存する77億人、さらには宇宙の星に生存するかも知れない、文字どおり天文学的な数の人類に属するもののうち、たまたま袖を振り合ったのは貴重な事実。


 なのに、理解し合わないまま異界へ旅立ってしまって、本当にいいものだろうか。

 せっかくのご縁をないがしろにしたままで人としての本義を全うできるだろうか。




      🎪




 かといって八方美人はお呼びでなく自らの主義主張がブレないのはむろんですが、かつて忌避した志向を「そういう考え方もあるね」おおらかに迎えられたら……。


 僭越にもこちらから連絡を断ったり💦逆に先方から疎まれたり、人伝えの誤解がこじれてヤヤコシイことになっていたり……思えば、煩悩具足ここに極まれる状態。


 本当にごめんなさい、あのときはわたしが至らなかった、若気の至り、許してね。

 久しぶりに再会して素直にお詫びを言えたら、きれいな気持ちになれるんだけど。


 けれど、その思いがもしも一方通行だったら、歳が歳だし立ち直れないだろうね。

 そんな憶病な懸念も胸をかすめ、行動を起こすべきかを迷っていたのですが……。




      👛




 そんなある日、ついに決行を決意して、とりあえずの第一段階としてデパートへ。

 直行したのはカバン売り場で、目指すはひとつ、某メーカーのオリジナル長財布。


 もう二十年ぐらい使いつづけている長財布、ご無沙汰のあの方に差し上げたくて。

 超薄いのに驚くほどカードが収納でき、小銭の出し入れも楽で、何よりオシャレ。


 黄色い財布は金運がいいと言われておりますよ……店員さんの声も忘れておらず。

 と、ありましたありました、少しデザインが進化している、同じタイプの長財布。


 箱にリボンで丁寧に包んでいただき(軽包装の時代ですが、こういうときは別)、さあ、これで引き返せなくなったからね~、自分に言い聞かせながらルンルン気分。

 

 

 


 

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