第12話 対ゴブリン!

『グランドフォレスト』に入ってから、俺は右斜方向に移動してきた。ここには北側の入り口から侵入したはずだ。そうであるならば、俺は南西の方向に随分と長い時間進んできたことにある。しかし今のところ、今回のターゲットである『勇者の剣』らしきものは見つかっていない。


 他の参加者はきっと俺よりも歩みは早いだろうからだいぶ探索は進んでいるだろうが、この試験が終了していないと言うことは、まだ彼らも見つけていないと言うことだ。いつ他の参加者が見つけるかは分からないが、まだまだ時間がかかるとみても良さそうだ。


 そう思いながら進んでいくと、だんだん自分が歩きやすくなっていることに気がついた。これは俺が長時間歩いたから体力がついてきたわけでもなく、逆に疲労で足の感覚がなくなっているからでもない。足下に生えている草が減り、地面も踏み込みやすいくらい固まっているからだ。いや、よく見ると、草は生えていないというよりも生えていたものが潰されているようだ。つまり、今俺が歩いている場所は他の何者かが繰り返し歩いたことで、地面や草が踏み固められたいわゆる獣道になっているようだった。


 この獣道は試験開始直後に見たような、炎の魔法で焼き払ったり、無理矢理全てを薙ぎ倒して突き進んだような形跡は見られない。長い時間をかけて出来上がったもののようだ。


 つまり、この事からわかるのは。


「グゴゴゴゴ!!!」


 俺の左の方の草が勢いよく揺れ、そこから影が飛び出す。


 その影が俺に向かって飛び掛かってきたので、思い切り横にジャンプして回避する。転げながらも手を急いでついて立ち上がり、脇目も振らずダッシュする。


「くそ!ここはモンスターの生息域か!!」


 ここが獣道でよかった。そうでなかったら、地面と草に足を取られて攻撃を回避できなかったかもしれない。


 走りながらチラチラと追いかけてくる対象を見てみる。本当はこんなことをせずに走り続けた方がいいのかもしれないが、相手を知ることで対策が建てられることもある。


 俺の目に映ったのは、俺と同じ人間を二回りほど小さくしたような生き物だった。だが、そいつらはあくまで2足歩行が人間と同じというだけであって、それ以外に共通点はない。肌は緑と黒を混ぜたような暗い色で、腕や脚が体格に比べて細い。このモンスターはゴブリンと呼ばれ、モンスターの中では弱い種族だ。それでもモンスターの中で弱いというだけであって、純粋な人間の強さと比べたら、よほどの事がなければ人間は勝つことができない。腕や脚も細いというだけであって、その四肢が振るう突きや蹴りを受ければ、簡単に骨が折れてしまう。


 それが、相手が普通の人間ではなく狩人になったら話は変わる。


 狩人は、体内の魔力を操作することで、肉体の一時的なパワーアップを行うことができ、素手でもゴブリンと対等異常に戦うことができる。むしろそれができないと、最弱のモンスターにも勝てないことになるため、最低限の魔力コントロールは狩人になるための必須スキルであったりする。


 ーーまあ、俺は狩人ではないから、襲われたらひとたまりもないが。


 俺はゴブリンから走って懸命に逃げる。しかも、さっき振り向いた様子だと、ゴブリンはどうやら1匹ではないらしい。足音からして2匹だろうか。そんなことはどうでもいい。逃げる。幸い地面はしっかり固まっており踏み込めるので、足で追いつかれるということはなさそうだ。


「それにしても、ちょっとこのゴブリン達は細すぎないか?」


 そうだ。気になっていたが、このゴブリン達は普通のゴブリンよりも体格が細い気がする。俺も直接ゴブリンを見たことは今回が初めてだが、なんとなくわかる。腕や足がもはや骨しかないんじゃないか、と思えるくらい細いのだ。現にそれが理由か、走るスピードが遅い。狩人ではない俺でも、じわじわとゴブリンとの距離を離すことができている。


 しかし、事態は今後どう転ぶかわからない。もしかしたら、ゴブリンは油断を誘うためにわざと遅く走っている可能性もあるし、俺の体力が先に尽きてやがて追いつかれる可能性もある。完全に振り切る方法を模索すべきだ。


 と、走っていると目の前の景色が変わった。目の前に進行方向に直行するように川が流れている。そして川の手前の方に、直径が1メートルはあるだろうか、大きな岩が転がっている。


 俺は急いでこれらの状況を整理する。既にこちらからはゴブリン達は見えないが、それでも追いかけてくる足音は聞こえてくる。見失っても俺がいる場所は分かっているようだ。


 ・・・だったら。


 俺は頭の中でゴブリン達を撒く方法を考え、行動に移すことにした。



 ゴブリンたちは目標にした獲物を見失ったが、それでも獲物の場所は把握していた。獲物がいるであろう方向に向かって走っていく。するとゴブリン達の目の前に川が見えたあたりで、


 ザブン!!


 と大きな水飛沫が上がった。


 そして一拍おいて、右から左に移動するように小さな水飛沫が上がっていった。ゴブリン達が川の手前まで到着をした頃には、獲物の姿は付近からは完全に見えなくなっていた。


 これまで、姿が見えにくくても追いかけることができたいた痕跡も無くなってしまったようだ。それでもゴブリン達は獲物を追跡することを諦めない。


 ・・・なぜなら、久々に現れた獲物だったからだ。しかも見るからに弱そうな絶好のターゲットだった。これを逃したら、自分達が餓死してしまうかもしれない。


 川を観察すると、どうやら水はは左から右方向に流れている。と言うことは、先ほどの水飛沫は上流に向かって動いていったことになる。つまり獲物が逃げた先は・・・。


 ゴブリン達は今度こそ追い詰めるぞ、といった様子で川を登るように進んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ここにある消失 リッキー @i_lickey_pro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ