たぬきになりたい
三日月てりり
たぬきになりたい
楓は姉で、私が渚。悪魔と取引して、楓と魂を1/4ずつ交換したの。すると複雑な感情が湧いてきて、宥める気持ちと、複雑な青色の小道が湧いて出た。滑って降りるとそれは海の先にある岬で、陸地が視野の全部を占めてきた。土地を探索すると様々な生物がいることが判ったものの、人間の住む余地も少しあるように思えたので、そこに居を構えることにした。楓を土台にして祭壇を中心とした家を作り、そこから慎重に楓を外して代わりの木をつっかえ棒にして家を完成させた。水回りがなんだか良くて、そんな、初めて水道を作ったようには思えない自分の器用さに我ながら満足してしまった。こんなこと、今まで一度もしたことがないのに。私は得意になって姉に燥ぎかけると、姉は昔から使われ続けている泥棒を痛めつけるための混紡で家を破壊してまわった。どうして? 私にはわからないけど、姉は水道を開放し、水を海へとなみなみと注ぎ、陸地の水位を何メートルも高めてしまった。私はくしゃくしゃの泣き顔になって
「どうして、なんで、せっかく私達の楽園が出来たところだったのに」
と液体を両目から落下させると、姉は言った。
「科学によると工学が支えてくれる自分の体積は海よりも重く遥かに広い。そんな私は渚に愛を送りたくて、そのためなら気を引くことをしないでは居られないの、天国なんて要らない、地獄に一緒に落ちて」
私は二人で楽園で過ごせることになって嬉しくてたまらなくなっていたから、地獄になんて行きたくなかったけど、楓が行きたいというのなら仕方ない。私に選択肢があると思ったことが間違いだったのだ。私は姉を抱きしめると、そのまま違う世界へと旅立った。私達は来世できっと、たぬきに生まれると思う。行くあてのない二人ぼっちのたぬきはその時、きっと手をつないでいると思う。そんな私達のための世界が来世という名の別次元に実存できればいいな、と私は思った。
姉はもう息をしていなかった。私もひっそりと喉に詰め物をして息を引き取った。だからこれはもう、過去に終わった出来事になって、二人の楽園の残滓から、いつまでも永遠の幸福と地獄を旅する前の記憶なの。私は悪魔にお願いしていたことがあった。
「楓と私、どんなに生まれ変わっても、次元が違っても、ずっと一緒に暮らさせてね」
悪魔はきっと約束を守ってくれる。二人の魂の1/4ずつを約束したのだもの。私は楽しみで仕方ない、二匹のたぬきは、きっと、ずっと、永遠なのだから。
了
2021/12/17記+2022/08/25加筆
たぬきになりたい 三日月てりり @teriri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます