キラキラ魔法少女③
結局、教室には戻らなかった。
今頃、一限目の授業を担当する教師が教室に来ている頃だろうか。
誰がやったのかと生徒を問い詰めるのか、それとも見て見ぬふりをするのか。
どちらにしても、私はそんなことどうでもよかった。
涙でくしゃくしゃになった顔で、洗面台の前に立つ。
手で強く何度も顔を擦ったため、前髪がばさばさになっていてそれは酷い顔だった。
泣き疲れた私は、ふらふらになりながら廊下に出た。
一限目の授業はまるまる出ないつもりだったから、どこに行こうかと考えていると頭に体育館の二階が浮かんだ。
一限目から体育のクラスはなかったはずだから、今なら体育館を独り占めできる。
何より今は気持ちを落ち着けたい。
だから私は体育館に向かった。
予想通り、体育館は空いていた。
一限目を休んで来ているのもあって、いつもと違って罪悪感がすごい。
今この時間、私以外の生徒は授業を受けているのだと思うと、とても悪いことをしている気分になった。
でもあの状態で教室にいるのは絶対に無理だったから、これでいいのだ。
「よい……しょっ」
舞台に上がって、足を投げ出して座る。
ここからだと館内が一望できる。
でも、後ろめたいことをしているからかその広さが不安材料になり得たので、いつもの場所に腰を落ち着けることにした。やっぱり、慣れ親しんだ場所がいい。
二階へ続く階段を上がりきって、廊下を進む。
授業で使う用具が投げ出されっぱなしになっている箇所があるから、よく足元を見ないと転んでしまいそうになる。
いつもの場所まで近づき、視線を足元から元に戻すと少し先に女生徒が座っているのが見えた。
先客がいたようだ。サボりだろうか。
「あ……」
「……あんたもサボり?」
私に気づいた彼女は、一瞬だけこちらを向いてすぐに手元のスマホに視線を戻した。
「まあ……そんな感じ」
「言っとくけど、別にあんたのこととか気にしてないから。だからあんたも気にしなくていい」
「え、えっと……」
「つまるところ、ボクに遠慮して場所を変えなくてもいいってこと。いいね?」
「ああ……」
彼女はそういう性格なのか、それだけ言うと黙りこくってしまった。
私としても、それくらいがありがたいから彼女とは少し離れて座った。
小説を持ってくる余裕はなかったので、スマホを適当に弄っていると、視線を感じたので横をちらと見ると彼女がこちらを見つめていた。
「……なにか?」
「あ、いや……間違いだったらごめんなんだけど」
「?」
「あんた……しずかだよね?」
「え、どうして私の名前を……」
彼女とは面識がない。それなのにどうして私の名前を知っているのか。
そんな疑問が頭を巡っていると、彼女が何やらスマホを弄りだした。
その直後、スマホが鳴った。
確認すると、『魔法少女アプリ』から友達追加されたという通知が来ていた。
このタイミング、もしかして……。
『あんたも魔法少女なんだね』
個人チャットに送られたそのメッセージで察して、私は彼女を見た。
彼女は自分のスマホ画面を私に見せる。
そこには私とのメッセージ画面が映っていた。
「ええ!?」
私は驚きの言葉を発せずにはいられなかった。
魔法少女アプリ 羽槻聲 @shinonnimiri1122
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