みんなには……

「こんばんは、これはゲームです」

 涼やかでりんとした声に目を覚ました。

 広くて真っ白で何もない輝きだけが存在する部屋に佇んでいる。

「こんばんは、これはゲームです」

 もう一度聞こえてきたその声に、少しワクワクとした空気が自分を包み込んでいるのがわかる。

 声はゲームだといったが、自分はこんなゲームを買った覚えはないし、起動した記憶もない。

 ということは、流行りの異世界転生的なそういう状態なのでは?! とドキドキが一層強くなった。

 わくわくと次の言葉を待っていると、目の前に無数の単語が並べられる。

「今からいくつかの質問がなされます。数に制限はございません。お好きなだけお選びください。さて、今の気分は?」

 なるほど、と思った。

 おそらくこれは授けられるチート機能を選ぶ段階なんだ。

 今の気分と聞かれて選ぶものなんて決まっている。「楽しみ」「嬉しい」「愉快」「わくわく」等々。明るい印象の言葉を手当たり次第に選んだ。

「では、お好きなジャンルをお選びください」

 キタ!

 これは慎重に選ばなければならない。なぜならこれこそが、今後の能力を選ぶ重要な場面であるからだ。

 ただ膨大な数であり、ジャンルと言えるのか? というものまで羅列されている。取捨選択、非常に重要だ。

「制限時間はございませんので、お好きなだけ思考を巡らせてください」

 制限時間がないのはラッキーだ。

 項目の右上から始まり、左下に至るまでじっくりと時間を掛けて言葉を選び抜く。

「今お選びのものでよろしいですか?」

「うん、大丈夫」

「了解しました。では次です……」

 その後も様々な選択肢を慎重に選択した。

 質問の内容は時々「え? 」って思うものもあったけど、全てはこれからのチート生活のためだ。

「……こちらで最後となります。お疲れ様でした」

 やっと終わった、それが一番の感想だったが、それと同時にふと、ゲームと始めに言っていたが、一体何のゲームなのか気になった。

「さっき、ゲームって言ったよね?」

「はい」

「一体どんなゲームなの?」

「体験型ゲーム、RLinkユグラ。複数の選択の中から、自分自身を選んで貴方自身をデザインする最新のゲームです」

「ユグラ……、聞いたこと無いけど。でも、考えは合っていたってことだ。身長に選んでよかった!」

「それでは、選ばれた選択肢はこちらで、本当にこれでいいですか?」

 目の前に選んだ選択肢がずらりと並び、もう一度確認しておかないとと、じっくり見る。

「ほんとうに、これでいいですか?」

「うん、これで」

「了解しました」

 その声と同時に、目の前に大きく「NOW LOADING」の文字が現れた。「本当にゲームみたいだ」

 思わず言ってしまったが、ゲームなのだから当たり前だと少し恥ずかしくなった。しばらくして、辺りが暗くなって音声が響く。

「ようこそ、体験型ゲーム、RLinkユグラへ」

「キャラクター設定が終了しました」

「ログイン完了です」

「心ゆくまでユグラの世界をお楽しみください」

 音声が終わると、目の前にあった「NOW LOADING」の文字がきえ、これから異世界チートな冒険の始まりだと、ドキドキしながらゆっくりと目を開いた。


「え?」

 そこに広がっていたのは、広大な草原でもなく、中世ヨーロッパ風の街並みでもなく、闇深い森でもない、見慣れた自分の部屋だった。

「チート生活は?」

 ただの夢だったのかと落胆していると、目の端に小さな文字が見えた。

「ユグラプレイ中」

 そうか、ここは現実世界とリンクさせたゲームの世界なんだ。

 ということはチートも可能ってことだ。

 ただ、ステータスが見れないから自分のチート能力がなにかもわからないし、そういうところは改善してほしいかもだけど、いろいろ試していけば何かわかってくるかもな。

 何にしてもこれでチートライフ開始だ。


「ねぇ聞いた?」

「聞いた聞いた、あの正義厨のことだろ?」

「とうとう捕まったんだって」

「そりゃそうだろ、老人相手にボコボコとか。誰だって捕まるって」

「でも捕まっても相変わらずなんだってな」

「あいつの友達だったやつも、なんか急に頭おかしくなったって怖いって言ってたし」

「何だっけ、イベントがどうのとかチートがどうのとか」

「マジやばいやつじゃん。怖っ」


「はぁ、牢屋イベントとか勘弁してほしいわ。脱出ゲームとか得意じゃないんだよなぁ。フックショットとかで窓から脱出とかかなぁ、だったらアイテムがどっかに有ると思うんだけど」

 色々システムに面倒はあるけど、存外楽めている。

 慎重に選んでよかった。

 最高のチートライフだ。

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ほんとうに、これでいいですか? 御手洗孝 @kohmitarashi

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