第16話 元の世界
大山先生は首を傾げた。なんだか先週の雨の昼休みの後からクラスの雰囲気が違う。
「あのバンドさ、キーボードが新メンバーで入ったんだよ!!」
「へえ、俺今度聞いてみるよそれ。」
結人が楽しそうに省吾と話している。拓実以外にはあまり心を開いてなさそうだったのに。
「お前、本当に恐竜好きだな。」
優太も変だ。仁に親しげに話しかけている。彼は運動が大好きだが、それ以外のことにはあまり興味がない。インドア派の仁とコミュニケーションを取っているのは見たことがなかった。
「先生、正直クラスの男子誰がモテると思う?」
なんとなくそう言った話を控えていた咲良や他の女子達が、大っぴらに恋バナをふってくる。
「淳一郎さんの本、おすすめだよ。シリーズだけど、これだけ読んでも話はわかるし面白いよ。」
静かにひっそりといつも読書をしていた七海が、萌花と怜央に本を薦めている。萌花はあまり本好きなタイプではなかったはずだ。それに怜央は中学受験を控えていて、それ以外のことに関心を示さなかった。読書好きだと引継ぎ表には書かれていたが、6年生になってからあえて距離を置いているようだった。それが変わった。
はじめは何かよからぬことを企んでいるのでは、と警戒していたが様子を見ていてもそんな感じはしない。クラスの中で児童同士の関係が前より温かなものになっている。一体何があったのだろうか。愛花に放課後みんなで遊んだのかと聞いてみたがそういうわけではないらしい。愛花はいたずらっぽく笑って真相を教えてくれなかった。その愛花も、しっかりしなきゃ!と気負いすぎていた固い雰囲気が少し抜けている感じだ。
今年度は長縄大会を復活させると突然言い出した常田校長の意見には正直げんなりしていた。しかし、この調子でこのクラスが団結を深めていければ子ども達にとって良い経験になるはずだ。
今なら、以前痛い目を見た「拍手一発そーれっ!」をやっても上手くいくかもしれない。ずっと気に病んでいた、自分が作ってしまったクラスの嫌な雰囲気。それもなぜか気にならなくなっていた。
そんな大山先生の考えを感じ取ったのか、レクリエーション係の由奈と華恋は次のクラスお楽しみ会のゲームに「拍手一発そーれっ!」をきっちりと組み込んでいた。
三十打一音 鈴木まる @suzuki_maru
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