残り一つは

第15話 最後の七不思議

 結人(ゆいと)達が教室に戻ると、クラスの半分ほどが戻ってきていた。しばらくするともう半分も戻ってきた。学級会スタイルで全員の情報を整理したところ、結人達と同じように他の七不思議も噂話と若干内容が異なっていた。なんというか、少し現代版になっていた。


「で、その浄化とやらをみんなしたのに、結局戻れないのかよ。」


怜央が椅子を斜めに揺らしながら言った。


「七不思議のお話を浄化するだけじゃだめなのか…。」


梨乃がっくりと肩を落とす。結人も同じ気持ちだ。ん…待てよ…七不思議…七?


「ねえ、もしかして七つ目が終わってないんじゃない?」


思わず立ち上がって言う結人にクラスのみんなは注目した。


「みんな話に関係ある人がいたっていってたよね?俺たち他にもこのクラスの児童以外の人を見ている。」

「大山先生…!」


結人の言葉に愛花が反応した。みんなは息を飲んだ。


 晴太が俺が行く、と言ってくれたので晴太の属するチームが職員室に大山先生がいないか偵察に行くことになった。その間、クラスではそれぞれが体験した不思議な話の詳細をみんなが語り合っていた。


「花子さんじゃなくて花香さんでさ、賢介の告白の仕方が格好良くて!」


拓実は興奮してつばを飛ばしながら結人に語った。


「みんな、先生いたよ!」


晴太チームの桐子(とうこ)が教室に戻ってきた。チームのみんなと…大山先生も一緒だ。


「みなさん素晴らしいね!やっぱり力のあるクラスなんだな。でも…。」


教卓の後ろに立つ大山先生の顔が曇った。


「私がもっとしっかりしていれば、もっと力を引き出してあげられたのに。『拍手一発そーれっ!』なんてしなければ、もっと団結力があってお互いを大切にできるクラスに…。」


そう言って俯くと大山先生は止まってしまった。誰が声をかけても動かなかった。


「大山先生が七不思議の最後の人だとして…私たちどうすればいいの?」


由奈がさんざんゆすっても反応しない大山先生を見つめてため息をついた。


「ねえ、もしかして、先生運動会前のあのこと気にしてるのかな?」

「あのゲーム失敗した時の?」


藍紀と華恋の言葉で結人達は思い出した。あれは運動会前だった。


「みんなの団結力を試すゲームだよ!」


そう言って大山先生は「拍手一発そーれっ!」のルールを説明した。


「そーれっ!」の掛け声で全員が手をたたく。一回目の「そーれっ!」では一回、次の「そーれっ!」では二回、その次の「そーれっ!」では三回…といった具合で手をたたく回数が増えていく。誰か一人でも多くたたいてしまうとアウトだ。


 これが全然うまくいかず、喧嘩が起きクラスは嫌なムードになった。大山先生もフォローを入れたりコツを伝えたりしていたが、どうにもならなかった。

 

 結人は別にそれだけが原因だとは思っていないが、確かに6年3組は他のクラスに比べてどこかお互いよそよそしい感じはあった。


「よし、じゃあみんなで『拍手一発そーれっ!』やろう!」


愛花の提案に反対する者はいなかった。目標はその時達成できなかった30回だ。

 

 愛花が先生役で「そーれっ!」の掛け声をかけた。元の世界に戻りたい気持ちはみんな一緒だ。しかし、なかなか成功しなかった。


「おい、お前真面目にやれよ!」


怜央が七海に文句を言った。物静かな七海はしゅんとしている。


「七海だって真面目にやってるだろうよ。文句言うな!」


拓実が応戦する。


「そうだよ!怜央って本当失礼。」

「そんなんだから失敗するんだよ!」


凛奈と陽菜がそれに便乗する。クラスがざわざわとし出し、藍紀と愛花が慌てて声を張り上げる。


「いったん落ち着こう!」

「そうだよ。少しずつできるようになってるよ!」


いらいらとした空気が漂う中、結人達はチャレンジし続け、ついに30回手を打つことに成功した。

 

しかし、大山先生は反応しない。


「どういうことだ…?」


教室がまたざわざわとし出した。しばらくして、少し全体の声が落ち着いたところで梨乃が発言した。


「私のせいかもしれない…。何回目の『そーれっ!』か数えてるつもりでもわからなくなっちゃって…。適当に少なめに拍手してた。ごめん…。」


梨乃の告白に何人かが「俺も。」「私も。」と続いた。


「はあ!?んだよそれ。お前らいい加減にしろよ。」


怜央がまた悪態をつく。それがよくないことはわかっているが結人も少しいらいらしていた。下手すると一生ここから出られないのに、誤魔化すなんて…。


「あのさ…。」


仁だった。授業中も学級会中も絶対に手を挙げない仁だ。クラスはしんとした。


「掛け声かける人、変えない?順番に言っていけばいいと思うんだ。」


仁の話はこうだ。廊下側の前の人から順番に掛け声をかける人を変えていく。そうすれば、何番目の人が掛け声をかけているかわかるから拍手する回数もわかるだろうということだった。


「仁、お前ここぞという時にいいこと言うな!」


優太が手を打った。


「恐竜図鑑に番号振ってたから、それで思いついたんだ。」


仁は照れくさそうに笑った。


 仁の提案通り掛け声をかける人を変えて挑戦してみた。するとなんと20回まですんなりできた。


「いいかもこれ!みんな、次で決めよう!」


愛花の掛け声に全員が頷いた。


 一人目の晴太が叫ぶ。


「拍手一発そーれ!」


パン!


二人目「そーれ!」


パンパン!


三人目「そーれ!」


パンパンパン!


そして…

三十人目「そーれ!!」

パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!


 結人は目の前が真っ白になり何もわからなくなった。



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