第8話 エピローグ

 用意された余るくらいの1人部屋に、あのおばあちゃんがいた。でも顔は見えない。ベットで横になって、向こう側を向いてしまっている。

 近くには車椅子が置かれ、簡易トイレと洗面器もある。綺麗な牢屋だった。

 仕方なくその方へ回り込んで、肩をトントン、と叩く。

「おばあちゃん、ほら来たよ」


 おばあちゃんはそのしわくちゃな指で梅干しの目を開けて、最初に僕を見た時の言葉は。


「あ?誰だか?」



 僕と喧嘩した数年後、おばあちゃんは何度か施設に通うようになった。そして最悪なタイミングでウイルスが流行って、感染防止だとかでおばあちゃんは施設から出られなくなってしまったのだ。


 同じく感染防止で広い部屋のリハビリマシーンたちも使えなくて、弱っていった。そしてとうとう、唾すらうまく飲み込めなくなって、食事もあまり入らずに看取りということになってしまった。だから、こうして今会えているのだ。


「忘れちまったかい?ほら孫だよ、来たぞ」

「オラわかんねえ。お姉ちゃん、これ誰だか」

 おばあちゃんはもはや、お母さんしか認識しなくなっていた。何度聞いても僕のことは分からず、名前を聞いてやっと「ああ」という感じだ。それも10秒で忘れてしまう。


 看取りということで毎日会えはするのだが、唾が絡んでガラガラだったりして、思いたくもないが死を見ているような気分だった。


 でも、心配はしていない。だって、僕のおばあちゃんは最強生物なのだから。

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認知症になったうちのおばあちゃんが最強だった 千口立華 @Rosmos238

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