解決編・その後

 俺は目を覚ました。


 今いるのはコンビニじゃない。自宅である一人暮らし用アパートの居間の椅子の上だ。テーブルの上には、開封されたスナック菓子の袋が置かれている。


 どうやら、少しの間寝ていたらしい。ここ最近残業続きで疲れてはいるが、まさかこんなタイミングで眠りに落ちてしまうとは。


 少し離れた場所に置かれているテレビの中では、「脱出ゲーム」と名付けられたアトラクションで芸能人達が様々な謎解きに挑戦している。そんな番組を流していたせいで、奇妙な夢を見てしまったのかもしれない。


 今思えば、テレビ番組の企画とかゲームの中じゃあるまいし、あんな訳の分からない空間は絶対夢に決まっている。まあ、「気付けない」からこその「夢」なんだろうが。


 それにしても、腹が減ってきた。朝も昼もあまり食べていないし、スナック菓子一袋だけじゃこの俺の胃は満たせない。


 椅子から立ち上がって、近くの戸棚を開けた。安売りしていたので大量に買いめしたスナック菓子がいっぱいに詰められている。俺はその中から三袋手に取り、再び椅子に座る。


 その瞬間、スマートフォンが振動した。誰かからメッセージが来たようなので確認する。


『調子はどう?ちゃんと食べてる?』


 文字列を見ただけで、俺は送り主が誰なのかすぐに理解した。


 母さんだ。実家を出て十年以上経った今でも、こんな風に安否を確認するようなメッセージを時々送ってくるんだ。俺はもう三十歳だし、一人前の社会人として暮らしているつもりだから、鬱陶うっとうしく感じることもある。


『お菓子ばっかり食べてないよね?』


 続けて来たメッセージを見て、俺はぎくりとした。スナック菓子だけで食事を済ませようとしている状況を見透かされたような気がして。


 母さんは俺が子供の頃からそんな感じだった。「バランスの良い食事を心がけなさい」とか、「食べたり飲んだりした物がその人を作っていくの」とか、教科書的なことをやたらと言っていたような記憶がある。


『そういうのを食べたくなる気持ちは分かるけれど、そればっかりは駄目よ』


 俺の返事を待たずに、母さんは更に話を続けていく。思い付いたことを次々に送っているような感じだ。


 その瞬間、俺の頭の中にある言葉が鳴り響いた。


『確かに、このようなものを食べたくなる時もあるでしょう。わたくしはそれを否定いたしません。ただ、わたくしが今現在、求めている商品はこれではございません』


 ほんのついさっき、似たようなことを誰かが言っていた。


 ……夢の中で会った二十歳くらいの謎の女性店員だ。どこかで見たような顔をしていたが、今、その正体が判明した。


 母さんに違いない。実家で若い頃の写真を見たことがあるが、確か、あんな感じだったはず。


 そんなことを考えながら、俺はテーブルに置いたスナック菓子の栄養情報を確認した。一袋につき300kcalは優に超えている。値段はその半分以下だったから、もしこれをあの店員の所に持っていったら「×」ということになるだろう。


 俺は自身の腹回りを確認した。見るからにだらしなく膨らんでいる。二十歳くらいの頃と比べたら、体重が20kg以上も増えてしまっている。安売りしていたスナック菓子ばかり大量に食べていた結果がこの体というわけか。


 とにかく、何か違うものでも買ってきて食べよう。そう思って、俺は家を出て近くのコンビニへと向かっていった。

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〇×コンビニ ~たまに△~ DANDAKA @dandaka

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