解決編
俺はパッケージの裏に記入されているとある情報に目をやった。
「栄養成分表示」というやつだ。タンパク質や脂質等といった様々な成分の含有量が明確に表示されている。一番上には「エネルギー」とあった。このウナギ料理の駄菓子は10kcal。
その「10」という数字にピンと来て、俺はカウンターに並べられている商品が何kcalなのかを一つずつチェックし、トイレットペーパーに追記していった。ここにあるのは全部食べ物だから、漏れなく表示されているというわけだ。
・世界初のカップラーメン(228円)……×……351kcal
・キノコの形をしたチョコレート菓子(211円)……×……423kcal
・白く四角い容器のカップ焼きそば(195円)……×……544kcal
・昔の元号が商品名に使われているカップバニラアイス(159円)……×……374kcal
・ニンニク入りの瓶詰めラー油(397円)……×……716kcal
・熊のキャラクターがパッケージに載っている固いグミ(189円)……×……274kcal
・デンマークの首都みたいな名前のカップバニラアイス(315円)……〇……244kcal
・イカのキャラクターがパッケージに載っている駄菓子(51円)……〇……30kcal
・四角いミニサイズのミルク味チョコレート(19円)……×……58kcal
やっぱりそうだ。「〇」の商品はkcal数が値段よりも小さい。逆に、「×」の商品はkcal数が値段よりも大きい。
だとすると、あのウナギ風味の駄菓子が「△」だったのも納得がいく。値段は10円。そして、エネルギーも10kcal。同じだ。「〇」でも「×」でもなくその間という意味で「△」と表示されていたというわけだ。
つまり、あと一つ「kcal数が値段よりも小さい商品」を持ってくれば良いということになる。例えば、カロリーゼロの水とかウーロン茶とか。
そう思って、店の奥の方にある飲料入りの冷蔵庫へと向かおうとした時だった。
「残り時間、あと十秒でございます」
そこで撃ち込まれる、無機質な店員の言葉。時間の余裕が無いことを実感させられる。
俺の足だと、このレジと冷蔵庫の間を十秒で往復できないかもしれない。最近、運動不足であまり速く走れないんだ。
カウンター近くの棚に目をやると、調味料が色々と並べられていた。もちろん、この中から様々な商品を吟味して選ぶ余裕なんてあるはずもない。
俺は最も近い位置にある商品を手に取った。犬のマークがパッケージにプリントされている300mlの中濃ソース。値段は240円だ。そして、容器の裏側に貼ってあるシールに書かれている熱量は、153kcal。
これだ、と思った俺は、すぐさまその容器をレジへと持っていった。
「時間からするとこれで正真正銘の最後。さあ、結果はいかがでございましょう」
走ったわけでもないのに額から汗が吹き出てきた俺を尻目に、目の前の店員は平然とした様子を崩さずにバーコードを読み込んでいく。今度こそ出られる。もう、この変な女の相手をしなくて済むんだ。
ところが、その結果は俺が思っていたのとは違っていた。
「×」だった。これまで何度も聞いてきたブザーが店内に響き渡る。
同時に、タイムリミットを迎えたのか、店内の照明が急に濃い赤へと変化した。まるで、「失敗」を俺に突きつけるかのように。
「現在の残り時間はゼロ秒。これは何を意味するでございましょうか? そう、時間切れでございます」
店員は淡々と事実を告げる。それよりも、一体どういうことなんだ? 俺の推理が外れていたのか? それとも、値段やカロリーを見間違えたのか?
俺は後ろを振り返り、値札をもう一度見る。240円で合っている。カウンターに置かれているソースの容器も確認するが、やはり153kcalだ。
ただ、よく見たら注釈があった。
100mlあたり、と。
そこで、俺はとんでもないミスを仕出かしたことに気付いてしまった。今手にしているソースは300mlある。つまり、商品自体のエネルギーを算出するには「153kcal」を3倍する必要があったというわけだ。計算結果は459kcal。「240」より大きくなる。よって、「×」になる。
何をやっているんだ俺は。すぐ近くにあったソースを選ばずとも、少し離れた位置にあるゼロカロリーの塩でも取れば良かったのに。
「さて、そんなあなたに課すべき責務は……」
後悔している俺をよそに、暗い照明の中で彼女は目を光らせながらそう言った。
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