まだ名もない一輪の華のこと
汐風 波沙
プロローグ
「一目惚れって、どの世の中にもあるもので、かと言え人に誇れるようなものでもないというのが僕の持論だ。」
学生服を着た男子は、隣でブランコを漕ぐ友達に言った。
夕暮れ時の公園、もう既に子供は居なく、しんみりとした空気は、その言葉が切り裂いた。
「そうか?俺にとっては一目惚れってめちゃくちゃいい事だと思うぞ!だってさ、特にその人の事を知らなくても、一目見ただけで『あ、俺この人好きだわ』ってなるだろ?それってさ、何万分の1とかの確率でしか起きない奇跡だと思うんだよ。これがいい事じゃないのか?」
「いや、どう考えたっておかしいだろ!普通、何も知らないのにその人の事を好きになれる訳ないじゃん!むしろそういう奴の頭の中ってきっと、子孫繁栄のみだけで回ってる動物的本能人間なんだよ、きっと……」
「まぁな、それも一理あるが、やはり、一目惚れも、お前と俺が生まれたことも、こうやって友達になれたことも、全てが奇跡の連続なんだよ、きっと。だから、俺は奇跡を信じるよっ!」
友達はブランコを飛び降り、綺麗な着地を決める。
「友達じゃなくて、親友だろっ!」
男子は飛び降りるが、着地が下手くそで少しバランスを崩す。
「相変わらず、飛び降りてからの着地が下手くそだな」
「言ってろ!」
「ハッハッハ!でも、行くんだろ、新都に」
「あぁ、来週頭には編入だから、今週末にこの街を出て行くよ」
「そっか、頑張れよ〜!」
「あぁ、またいつか帰ってくるよ。お前は、もう逝くのか?」
「そうだな、俺もそろそろ逝かないと行けないよな……、じゃあ、お前に1つアドバイスしてやる。お前の力はこんなくだらない事のために使うな。お前には何にでもなれる力を持っているんだからな!」
「そうか、そうだったな。ありがとな、またいつか!」
「あぁ!またいつか!」
そう言うと笑顔のまま友達は消えて逝った。
それを見届けた後、男子の頬を一筋の雫が夕陽に照らされ赤く輝いていた。
「俺も、前に進むよ。そしていつか、お前みたいに胸張って死ねるように……」
そう言い、制服の裾で涙を拭い、帰路に着いた。
「また、あの夢か……」
少年は、布団の上で目を覚ました。
枕元の時計は5:30を表示している。
「少し早かったか……、でも、転入だし少し早いくらいに起きるのがいいか」
そう言うと、布団から出て、洗面所に向かう。
蛇口を捻り、水を出す。
少し薬品臭い水で顔を洗う。
そのまま寝癖のついた髪も洗う。
髪の毛を絞り、ある程度水気をとり、洗顔料を手のひらに少し出し、泡立てる。
ある程度泡立つと顔に塗り始める。両頬、額、顎、鼻先に少しずつ泡を乗せ、伸ばしていく。
ある程度伸びきったところで軽く擦るように手のひらに残っている泡を使い洗う。
1分弱擦り続け、蛇口を捻り、顔を水で濯ぐ。
棚からシェービングクリームを取り出し、軽く振る。
蓋を外し、数秒間シューッと出す。
パチパチとなっている泡を顎周りと鼻下、頬全体に広げる。
一枚刃の剃刀で丁寧に剃り上げる。
全体が剃り上がり、水でさらに軽く濯ぐ。
タオルで軽く顔を拭き、髪の毛も拭く。
その後、棚から乳液を取り、手に出しそれを顔に馴染むように塗っていく。
乳液を塗り終え、髪の毛をドライヤーで乾かす。
「よし、これでOK!」
剃り残しの無い仕上がりに自己満足しながら、着ていたTシャツを脱ぎ、洗濯機に投げ込み、衣装ケースから新しいTシャツを取り出し、それを着る。
ワイシャツに袖を通し、袖ボタンを留める。
襟を軽く整え、ワイシャツのボタンをしたから留めていく。
第1ボタンのみ留めず、スキニージーンズを履く。
「今日から編入する学校には、制服が無いから、毎朝選ぶの大変だな……」
そうボヤきながら、ジーンズのホックを留め、ベルトを腰に回す。
ワイシャツの裾は、ジーンズの外に出し上からノースリーブタイプのセーターを着る。靴下は、くるぶしソックスを着用した。
腕時計を付け、ワイヤレスイヤホンを耳に装着し、スマートフォンと同期する。
先日配布された学校の授業で使用するタブレット型端末とスケッチブック、適当な小説にブックカバーを付け、リュックサックに入れる。
思い出したように、再び洗面所に向かい、歯を磨き、うがいをする。
交通ICを握り、家の鍵を玄関に取り付けているポケットから取り出し、玄関のドアを開ける。
エントランスを抜け、最寄りの駅に向かう。
駅には既にたくさんの人がいた。
服装はお洒落な人もいれば、カジュアルな人、スーツな人、そして、制服の人がいた。
中央学園都市 インターセクトシティー
この街には日本の誇るリニアモーターの電車が走っている。
移動時間、混雑緩和がかなり解消され、世界の注目する最先端の島の中心の都市で、日本・アメリカ・イギリスの三国共同の国際都市でもあるのだ。
だが、その裏ではこの島で過去に起きた戦争についての原因究明とそれぞれの国の実験場であるのだ。
『次は〜……』
電車内のアナウンスで少年の今日から所属する学校に最も近い駅に着いた。
少年の他にも学生らしき人が2、3人ほど同じドアから出る為にちょっとした列を作っていた。
ドアが開き、列の前の方から人が降りていく。
ホームから改札へ向かう階段を降り、改札でICカードを翳し、退場する。
ポケットから携帯型端末を取り出し、学校までのルートを確認する。
「20分くらいか……」
駅から学校までの距離に絶望を隠せておらず、駅から出てくる人に冷やかな目線を送られてしまった。
「……仕方ないか、くよくよしててもどうしようもないよな!よし、行こう!」
そう言うと、歩き始めた。
この街は表面上は普通の街だが、世間に公表されていない事ばかりのシークレットシティーでもあるのだ。
これは、どうしようもないことを変えようと戦った少年の物語である。
________続く
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まだ名もない一輪の華のこと 汐風 波沙 @groundriku141213
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